13 / 56
第11話甘すぎるお菓子
しおりを挟む「ここは本当に、お花が美しいですわ」
そう言ってアイリーン夫人はソーサーの上から白磁のティーカップを手に取る。
「庭師も喜ぶと思いますわ」
そう言ってアイリーン夫人よりも先に口を付けていたティーカップをソーサーの上に置いた。
「……なんで私までここに居るんだろう……」
白金色のクセっ毛の長髪の少女。スヴェトラーナは不満げな表情を浮かべている。
「いつまでも逃げられるモノでもないでしょ? 昔からスヴェは、人見知りして直ぐに逃げ出そうとするんだから……」
「ぐっ――――!」
「まぁまぁw 時間はあるんですから、私達はお茶でも楽しみましょう? ユーサー様は優秀ですから、魔法も案外簡単に習得してしまう可能性はありますが」
そう言ってアイリーン夫人は一口。紅茶を口に含む。
周囲には色とりどりの花々が360度一望でき、その種類も多い。足元は綺麗な赤レンガが敷き詰められていて、その上にあるのは日除けの屋根が付いた西洋風東屋……サマーハウスやガゼボなどと呼ばれる。
骨組みや柱と屋根だけの簡易的な建物で、現代日本人にイメージさせるのなら貴族の令嬢が庭園でお茶を楽しんでいる日除けの建物だ。
簡素とは言っても流石は公爵家、柱はパルテノン神殿のような白い大理石を使っており、さながら18世紀の英仏で流行ったみられる装飾用の建物であるフォリーのような遊び心を感じる。
アイリーン夫人は俺の乳母であるが、外国から嫁いできた。母シルヴィアの数少ない茶飲み友達でもある。そして同じく数少ないスヴェトラーナにも、アイリーン夫人と良好な関係を築いて欲しいようだ。
ベリンダは鎖骨まで伸びたその美しい茶色のミディアムヘアを纏めるためかカチューシャを付けている。男勝りで活発なため邪魔にならないように、との子守女中の配慮だろう。
天真爛漫な笑顔でニッコリ笑うと、精神年齢のせいかこっちも微笑ましくなる。年相応の可愛い向日葵のような女の子だ。
ただそんな可愛い女の子が目の前に座っていてすら、ユーサーにとってはこのティータイムは苦痛でしかない。
前世では甘い物は好物だった。
例えば今、目の前に並べられているショートケーキ?も好物の一つであったのだが……これをショートケーキとは呼びたくない! 別のナニカだ。
甘い!兎に角甘いのだ。
知識として知っているアメリカンスイーツか、ふざけるな!
権威付けのためなのか分からないが、味の調和を考えていない!
生クリームやスポンジ生地までが異常に甘い、せめてトッピングのフルーツで口直しできればまだ救いがあったのだが、保存の為か砂糖漬け。
ベタ甘な上、ニチャっとした砂糖の食感が口に広がる
俺には耐えがたい苦痛だった。
甘いだけでないお菓子が欲しいと願ってしまう。
アイリーン夫人はこう言う物だと割り切っているのか、存外平気な表情でフォークで小さくして食べている。
シルヴィア母さんは、酸味や果汁を感じるフレッシュな果実のタルトを食べているお陰か、俺の様に表情を曇らせてはいない。
一番可愛そうなのは、明らかに美味しくなさそうにケーキや焼き菓子を食べている。スヴェータとベリンダである。
二人ともあまりフォークが進んでおらず。白磁の皿の上には、7割がたケーキが残っている。
「スヴェータ、フォークが進んでいないようだけど、苦手なモノでも入っていたかしら? スヴェータは、甘い物好きだったでしょう?」
シルヴィアは悪気無く言っているのだろう。
スヴェータや俺達子供は大人に比べて舌が鋭敏で、酸味、辛味、苦味、エグ味と言ったモノを敏感に感じるのだ。砂糖漬けの果物よりも、生の果実やドライフルーツの方が、美味しいと感じるだろう。
「甘いものは好きなんだけど……甘すぎるのよねこのお菓子……」
「「「「……」」」」
シルヴィアも夫のパウルやスヴェトラーナと一緒に、昔は冒険者として旅をしていた身なのだから、このお菓子が甘すぎるという事は理解している。
当然、名門子爵でしかないアイリーン夫人も、子爵家で食べられるお菓子よりも甘いので、美味しいとは思っておらず。贅沢品とはこう言うものだと言う認識でしかない。
つまりは、誰も美味しいと思って食べていないのだ。
「スヴェータ、本物の貴族のお菓子はこう言う物なのよ。
美味しい美味しくないではなく、家の家格に見合った見栄を張るための道具でしかないのよ」
「そう言う物なんだ……」
お茶会と聞いてテンションの上がっていた。スヴェトラーナにとっては残念な事だったのだろう。
「気に入らないなら、ご自分で御作りになられればよろしいのでは?」
アイリーン夫人は、チクりとスヴェータにお小言を言う。
別にこれはスヴェータに嫌がらせをしている訳ではない。
自分の娘と公爵家の子供に対して、余計な知恵を付けさせないようにと言う乳母としての判断だ。
「大変良いお考えですね。ではユーサー、リンダも私と一緒に美味しいお菓子を作らない?」
しかし、アイリーン夫人の釘差しはスヴェータには分からなかったようで、公爵家の公孫と子爵家の子女を誘っているのだ。
アイリーン夫人にとっては、「お前には無理だろう」と高を括って冗談で言ったお菓子作りに、大事な子供達を付き合わせるのだ。
たまったモノではない。
65
お気に入りに追加
1,833
あなたにおすすめの小説
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました

最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました

異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる