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第7話魔法を使って見よう
しおりを挟む「そんな深刻そうな表情しないでよ。
魔力量が多いと操作が難しいから、一般的な魔法や精密な操作を要求される魔法は難しくなるのよ」
そう言ってスヴェータは、魔法の教本を閉じ廊下に出る。そしてその後を俺も追っていく……
「まぁ試しにやってみましょう。
さっきの適性を見る限り、魔力量にモノを言わせて全属性使えそうな勢いだから、今回は気を付ければ被害の少なくて、私も得意な属性なんてどうかな?」
何かと理由を付けてはいるが、自分が得意な風魔法を教えたいようだ。
「じゃぁ先ずはコレやってみよう」
そう言って魔法の教本指さしたのは、風属性の中でも難易度が高いと記されたものだった。
「無理ですよこんなの!」
「無理って言うのは、人間の可能性を押し止めてしまう良くない言葉よ。限界を超えて、更にその向こう側で……そう意識を持っていないと……子供のウチから賢いのも考えモノね子供と風は自由でないと、良い? 今からお手本を見せるわ……」
そんなこんなで庭に着いた。
「いい? 魔法の詠唱は原始の言葉で紡ぐの……簡単に言えば昔の偉い人たちが研究した古めかしい言葉よ。人によっては呪文を詠唱しなくても、魔法を使う事は出来るけど基本的にはオススメしないわ」
「どうして?」
俺は思わず疑問の言葉をぶつける。無詠唱魔法……カッコいいじゃないか!
「単純に難易度が高いのよ。呪文は、簡単に言えば正しい発音と正しい魔力量さえあれば、魔法を自動化してくれる。だけど無詠唱はソレを全部自分で、やらなくちゃいけないのだから、私はオススメはしないの」
なるほど。例えば暗算を使えば、道具も何も使わず素早く計算をすることが出来る。だが暗算の能力は人によってバラつきがあるし、計算の結果も正しいとも限らない。
だが電卓を使い式と数字だけあって居れば、結果を間違えることは無いみたいな事か。
「じゃぁ先ずはお手本を見せるわね。『北方に住まう翠風の精霊よ、その内に秘めし嫉妬の激情を解き放ち、 草々の障り穢れを吹き飛ばせ【衝撃波】』」
魔力を集中させた右手に、薄緑色に可視化された風が収束していくのが見える。俺の身体にも確かに冷たい風を感じる。
スヴェータの右手を見ると、小さなボール程度の大きさの緑色の球体が生成され収束していく風は、まるで毛糸のように見える。
先生がソフトボールで球を投げるような姿勢で、【衝撃波】を投げる。
ゴウゴウと言う轟音を立てて、突風が一直線上に吹き抜ける。
【衝撃波】と言う名前だが、その衝撃は突風程度であり、やや名前負けといった印象を受ける。
「見た? 今のが【衝撃波】です攻撃魔法ではあるけど、比較的込める事が出来る魔力量に余力のある魔法なので、ユーサーの膨大な魔力量にも耐えられると思う……わ!」
(おい! どうして最後の方で目線を反らした? もしかして……自分で行っておいて自信が無いのか?)
俺が怪訝そうな表情を浮かべて、じーっとスヴェータの方を見ていると……
「な、なにその訝し気な表情は……私にだって分からない事があるんだよ? ちゃんと計れないので断言はできないですけど、多分私の魔力量の多分100倍ぐらいはあるんじゃないかな?」
先生の100倍そう言われても余りピンと来ない。
「あまりピンと来ていないようですね……私は友人で第二階梯の魔術師とそれぞれ、苦手属性の火球を撃って測定した結果その魔術師の4倍でした。
私もユーサーのような魔力のゴリ押しで、実力以上の魔法を使えるタイプですから、制御の難しさは理解できる積りよ。君は私の友人の400倍ですよ? 「龍に乙女の肩を揉め」と言っているぐらい難しい話です」
「龍に乙女の肩を揉め」とは、この世界の慣用句で、大きな力を制御するのは難しいと言う意味だ。
「先ずはやってみなさい。もし制御に失敗したとしても私が何とかするから」
「分かりました。先ずは魔法を詠唱して使ってみます」
腹部にあると言う魔臓から、魔力と言う不思議エネルギーを取り出し、血中を循環させるイメージで動線をつくる。
「『北方に住まう翠風の精霊よ、その内に秘めし嫉妬の激情を解き放ち、 草々の障り穢れを吹き飛ばせ【衝撃波】』」
魔力を集中させた右手に、キュィーンと言う激しいファンの回転音のような甲高い高音が鳴り響き、冷たい風が集まって来るのを肌で感じる。
手の内側を見ると、薄緑色の手から零れそうな程大きな球体が出現する。球体から薄緑色の粒子のような光がキラキラと輝いて発光している。
俺が直観で持っていたらヤバイ! と感じ咄嗟に遠くの方へ投げた。
野球をやったことが授業以外ロクにないものの、腰を捻って大きく肩を動かし、鋭く脚を踏み込んで【衝撃波】を投球する。
ブン!
シュルシュル。キュルキュルと古い車のファンベルトが鳴くような音が鳴って、放り投げた薄緑色の球体が、次第に編まれた糸が解けるように広がって行く――――
(不味いッ!)
俺はしゃがんで状態を低くしつつ、腕を頭部に回して頭を怪我しないような態勢を取る。
刹那ッ――――!!
ゴウゴウと言う轟音を立てて、砂塵を巻き上げながら突風が一直線上に流れる。
その風は正に【衝撃波】だった。父親の趣味で昔連れて行って貰った。富士の自衛隊の総火演で聞いたジェット戦闘機が、響かせた轟くようなジェットエンジンの大音響を思い出した。
「凄い……」
俺は自身が産み出した事象に対して、純粋な驚きの声を零してしまう。
「ユーサー! 素晴らしい出来栄えです!。
私が見た事の有る【衝撃波】の中でも、最高峰の威力ですよ! と言うか【衝撃波】でも限界の魔力量とかホント ユーサーの魔力が強すぎて、魔法が限界だったから……」
【衝撃波】を発動した時に、球体から薄緑色の粒子のような光がキラキラと輝いていたのが、魔法に注ぐべき魔力量を超えていた証なのかもしれない。
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