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第6話適性変化を調べよう
しおりを挟む翌日から俺の魔法の授業は始まった。
俺の広い子供部屋には、木製の事務机が二台と木製の簡素な椅子が二脚置かれており、丁度真横が採光窓になるように設計されている。
この世界では魔石を電池のように使って、光を灯す魔道具があるが、日中に明かりを灯す事は少ない。従って部屋の照明に使えるのは太陽の光ぐらいのモノなのだ。
「ユーサーは、文字は読める?」
眼前の椅子に座ったスヴェータは大きな本を広げ、今丁度思い出したように質問する。
スヴェータが来るまでの約一年半で、俺は既にこの世界の児童教育を修了している。
この世界の児童教育は、ガヴァネスと呼ばれる女性家庭教師が担当する。簡単に言えば6歳~13歳程度の子供に元の世界で言う、小学校程度までの教育を施す事を目的にしており、ガヴァネスは未婚の貴族や商人の娘、未亡人と言った社会的弱者を救済するための制度でもある。
高卒でも元社会人の俺は、家庭教師が教育する国語(国語とは言ってもこの国の言語)、算数、外国語を学んだ。
学んだとは言っても算数程度の四則演算である為、前世それこそ毎日のようにその日の在庫管理や、売り上げの達成率を計算していた程度の下っ端だった俺にとっても問題なかった。
外国語もこの国の言葉も子守女中達が、読み聞かせをしてくれたお陰で、既に文法と読む能力はあったので、そこまで苦労する事無く身に着ける事が出来た。
余った時間にピアノやヴァイオリン、絵画と言った専門教養の触りを家庭教師から習った。
まぁ前世でやっていたイラストの基礎である絵画は、ソコソコ出来たが、リコーダーやピアニカ程度しか触った事の無い俺にとっては、ピアノもヴァイオリンも難しく、それでも家庭教師の未亡人からは、「今まで教えて来た生徒の中で最年少にして、最も才覚に優れる麒麟児!」と太鼓判を押されている。
下駄を履いてコレなのだ。
純粋な天然物の天才児達には、逆立ちしても勝てそうにはない。
「えぇ。問題なく読めますよ」
「それなら良かった。魔法の教本を渡すからそれの説明をしながら、今日は勉強していきますよ」
一見頼りない印象を受けるスヴェータだが、ちゃんと家庭教師をするために準備を整えて来たらしい。
どこから来たのかは知らないが、長旅で疲れて居るだろうに……ご苦労様。
「魔法は相手を傷付ける事を目的にした【攻撃魔法】
誰かを守る事を目的にした【防御魔法】
誰かを癒す事を目的にした【回復魔法】
誰かを手助けする事を目的にした【補助魔法】
何かを呼び出す事を目的にした【召喚魔法】の五系統があるんだよ」
名前の通りなんだな……
ファンタジー漫画や小説、ゲームに親しんでいる俺からすれば、もっと色々なことができそうなものだが、どうやらこの世界ではそこまで考えが発展していないようだ。
「攻撃魔法は基本である。
火属性、土属性、水属性、風属性の四大属性があり、それぞれ個人に適性があり、魔法を発動するためには、産まれや育ちの貴賤を問わず人々に宿っている力―――魔力を使う必要があります。
しかしそのなかでも実践で使える程の魔力量を持つ者は、極一部であり、その多くが貴族と聖職者、そしてエルフやドワーフなどの異種族です。」
まだ見た事がなかったが、この世界にはエルフやドワーフが実在するのか……
「また魔術師は幾つかの位階に分けられており、下から順番に平人級、術士級、貴人級、聖人級、王級、皇帝級、使徒級、神級の八階級に分かれています」
魔術教本によると、第二階梯である術士級で一人前レベルであると言う。
凡人の最高位が第三階梯である貴人級だそうだ。
領主や国の主戦力は術士級魔術師であり、どれだけ多くの貴人級以上が居るのかが戦力差につながるらしい。
当座の目標は、下から二番目の位階である術士級魔術師だな……一人前という事はソコソコは戦えるハズだ。
「それでスヴェータは、どれぐらい強いの?」
俺はつい疑問の言葉を口にした。
「私は第四階梯の風属性を使える魔術師だよ。結構凄いんだから!」
スヴェータは、母シルヴィアほど豊かでない胸を張って自慢する。
その姿は「私凄いでしょ?」と、擦り寄って来るネコを彷彿とさせる。
何というか、物凄く見た目も中身も子供っぽい女性《ヒト》なんだなぁ~。
「凄い! 他はどうなんですか?」
「適性が種族による適正のせいか、他はあまり高くなくてね」
(種族? 人間種じゃないのか?)
確かに異国情緒感じる名前と髪色だが、俺から見れば人間以外の何物にも見えない。
俺が疑問に思っていると……その表情を汲み取ってか苦笑いをしながら答えてくれる。
「ユーサーは、さっ聞いてない? 私の事……」
段々と語気が弱まっていく。
何か言いにくい事があるのだろう。
「いえ、何も……言いたくないなら言わなくても良いんですよ?」
「ごめんなさい、気を遣わせてしまったわ。さて、授業を続けましょう
……魔法とは、魔力を変化させたものを言います。変化させるためのには先天的な才能と、血の滲むような訓練を必要とします。試しに魔石に魔力を込めて見てください」
そう言ってスヴェータは、小石程の石をジャラジャラと取り出す。
「これは?」
「モンスターの体内に存在する、魔石と呼ばれる石です。
人間や異人種の体内にもありますよ?」
うげっ! この世界の人間て……もしかして現生人類じゃないのかな? 確かに異世界と魔法には憧れてただけど、正直こういうのは求めてなかった。
「何してるの? 速く魔力を込めて」
……とは言われも魔力の込め方なんて知らない。
「すいません。どうすれば魔力を込める事が出来るんですか?」
「魔力の込め方は人によって異なるんだけど……私の習ったやり方で説明するわ。魔臓……魔石は下腹部の当たりにあるの。そこからエネルギーを取り出して、血管を伝って心臓へ通して全身を巡る。全身を巡る事で指先から放出出来るようになるってイメージね」
なるほど。魔臓……魔石と言うのは、現実世界で言うところの丹田の位置にあるのか……丹田で練るのは気やチャクラと呼ばれるもので、国民的忍者漫画で有名になった古代中国が起源の用語だ。
「やってみます」
体の中臓器で作られたエネルギーを血管、心臓と通し体に帯電させるイメージで待機させる。孫〇空のか〇はめ波のイメージで魔力を放出するべく、ポーズを取る。先ずは形からだ。
両手の手首を合せ手を開き、体内の魔力を手に集め凝縮する。
「ちょっとなにそのポーズwww」
「か~、め~、〇~、め~、波ぁああああああああーっ!!」
すると青色の光線が放たれる。すると魔石は閃光を放ち反応を起こしたようでマッチ程度の炎、コップ一杯程度の水、小さな水晶状の物体、結晶を砕く程度の風が起こった。
「あははははははっ! 何その掛け声wwww
魔力の込めすぎね。どれもこれも本来の適性以上に反応してる見たいね……」
スヴェータは爆笑しながらも、先生らしくキチンと原因を教えてくれる。
忍者漫画のチャクラを流すと、破れたり燃えたりすると言う【感応紙】、約4年ぶりに連載を再開した漫画のコップに張った水が増えれば強化、甘くなれば変化すると言った反応を見る【水見式】などのようにこの世界では、四大属性を判別するために、それぞれ魔石に魔力を込めてどう変化するのかを見るようだ。
「すいません……」
「別にいいのよ。でも魔力が強すぎて今のままだとロクに魔法使えないかも……」
「えぇぇぇええええええええええええええええええええええええッ!」
魔法があるから辛い筋トレにも音を上げず励んできた。だと言うのにまさか、魔力が強すぎるから魔法が使えないなんて……あの光の珠を食べ過ぎた事が原因だって言うのか――――ッ!
俺は絶望に打ちひしがれるのであった。
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