4 / 56
第4話魔法を強請って剣を学ぶ
しおりを挟む「さっきのナニ?」
俺は素直に質問する事にした。
例え答えてくれなくても、『答えられない』と言う情報を入手する事はできる。
「さっきの……あぁ魔法ですかぁ?」
俺の予想に反して、シャルティーナは先ほどの土杭が魔法であることを、あっさりと認めた。少し拍子抜けしたが、公爵家の長子ともなれば暗殺や誘拐のリスクを考えて、子守の中にも警護の人間を入れているのだろう……
やはりアレは魔法だったんだ!
「まほう? すごい! ビューン やりたい!」
取り合えず子供らしく駄々を捏ねてみる。
「えっと……」
シャルティーナは「どうしたらいいモノか……」と困惑の表情を浮かべている。
この様子では魔法の本でも読んで、自力で覚えるしかなさそうだ。
ここは意思を強く示してみる事にしよう。
「やりたい!」
「はぁ……分かりましたぁ。ユーサー様のお父様とお母様に聞いてみます。いいですかぁ~それまでは今まで通りお散歩と絵本ですからねぇ」
シャルティーナは、普段聞き分けのいい俺の根気に負けたのか、両親に掛け合ってくれると約束してくれた。
いつになるかは分からないが、今はそれでいい。
まだ生まれてから一歳半程度で猶予は長い。身体を作り始めるのを3歳程度から始めたとしても、まだまだ時間はある。
今は読み書きの練習と基礎体力作り……小さな事からコツコツとだ。
「わかった!」
俺は元気よく返事を返した。
「それでアレ……どうしますか?」
若い騎士が恐る恐る声を上げる。
アレとは恐らくは巨大なイノシシの事であろう。アレだけの巨体解体するにも時間はかかるが、肉を捨てるのも惜しいと思ったのだろう。
隊長と思わる中年は唸り声を上げる。
団員や兵士の事を考えれば、持って帰り「肉を食わせてやりたい」と言ったところだが、護衛対象である俺の事を考えると言い出し辛いとの事だろう。
「どういたしましょう……」
隊長もお手上げのようで、事実上決定権を持つシャルティーナにお伺いを立てている。
本来は、立場が上で命令系統の違う騎士が中級使用人である。シャルティーナにお伺いを立てる必要はない。だが自我も定まっていないような子供に伺いを立てる訳にもいかない。
(ここで助け船を出せば、俺の株も上がるかな?)
乳幼児ではない転生者は、少々ゲスな事を考えていた。
しかし、シャルティーナは非常に寛容な態度を示した。
「グレイトボアは大変美味しいと聞きますので、持ち帰れば公子様もお喜びになられると思います。ユーサー様の警護を第一とする事。貴殿らがグレイトボアの臓物を煮込もうが、解体しようが近隣の村からリアカーを借りてこようとも構いません。そろそろおやつの時間ですからね」
「「「「「ありがとうございます!!」」」」」
騎士達はシャルティーナに礼の言葉を述べる。
「全てはユーサー様が、普段から聞き分けの良い良い子だから出来る事です。但し私にも新鮮なモツを食べさせてくださいね~」
レバーや心臓は栄養価が高くてうまいらしい。
現在のように肉屋に並ぶようになったのは、保存技術が発達してからだと聞いたことがある。それまでは獲物を仕留めた狩人やその村の人以外、食べることが困難であったらしい。
まぁそう言う俺は内臓系がダメで、コリコリとした食感の心臓以外は食べられなかったのだが……
この世界の住人にとっては、内臓系は普段食べられない肉の中でも特に貴重な部位なのだろう……
暫くシャルティーナとじゃれていると、肉の焼けるいい匂いが漂ってくる。
「騎士の誰かユーサー様を見ていてください」
シャルティーナが声をだす。
周囲の騎士が一人の肩をポンと叩いた。
椀の中に入った内臓を匙でかきこみ嚥下すると、大きな声で「はい!」と返事を返した。
若い騎士が重そうな鎧姿のまま走って来る。
「ではよろしくお願いします」
シャルティーナが騎士に声をかける。
「了解しました」
騎士が敬礼すると満足そうに、シャルティーナは火の方へ向かっていく。
「ユーサー様何をしましょうか?」
若い騎士が立膝の状態で視線を合わせてくれる。
年の離れた兄弟や子供がいるのかな?
何というか子供の扱いに成れている。
「けん!」
俺は腰に差してある長剣を指さした。
「剣ですか? 危ないので渡せません。この枝で素振りでも教えましょうか? 素振りと言うのは剣を扱うための練習の事です」
そう言って子供の小さな手では、握れないような太さの枝を見せてくる。
流石に見せてはくれないか……まぁ当然だな……
「やる!」
俺が元気よく返事したのを聞いて、若い騎士はホッと一安心したようだ。
前世では選択授業等と言うモノはなく、問答無用で中学・高校共に柔道だったので竹刀を握った経験はない。別に剣道部だったわけでもないしな……
だからと言って俺に知識がない訳ではない。
年頃の男は皆剣を振った経験があるだろう? 俺の場合は漫画やアニメの影響で、実在の剣術の流派などを調べて見た事がある。
それに俺には高校時代。剣道部の友人が居た。
たしか小指、薬指、中指の三本で握るイメージで……右手を鍔の方、左手を柄のお尻の方を持っつこの時の力加減は3対7ぐらいだったかな。
脚は右足を前に出し左足を少し後方に下げたようなそんな姿勢だったハズ……
俺はうろ覚えのまま中段の構えを取る。
「中々堂に入った構えですね。剣の経験がある訳ない……天性の感覚か? 片手剣よりも両手剣の才能があるのかも……」
若い騎士は何やらぶつぶつと呟いている。
「失礼。そのまま姿勢を崩さないように、剣を上から下へ振ってみてください」
言われた通りに振る。
一回、二回、三回……合計10回程度剣を振るだけでも、普段使わない筋肉が痛み始めている。
子供のカラダって貧弱すぎ……コレは基礎トレーニング確定だな。
まぁしかし、今は泣き言を言っていても仕方がない。工夫で乗り切れる範囲だろう……幕末の動乱期に京都を守護した愚連隊、壬生浪士組。後の新選組で主に用いられたと言われる。天然理心流では、持ち手が太く普通よりもかなり重たい木刀で素振りをしていたと聞く。
手の握りの力加減を変えてみよう……
そう思ってギュっ、ギュっと握り加減や握り方を変えていると、若い騎士が心配そうに質問してくる。
「体に痛みはありますか?」
「うでがつかれたのと、てがいたい。あとあしも……」
「ははは、そうですか。それは強くなっている証拠です」
カラカラと楽しそうに笑っている。
何が面白いんだ?
俺は訝し気な視線を若い騎士に向ける。
そんなこんなで初めての外出で俺は攻撃魔法の存在と、剣術を覚えたのだった。
魔法を学ぶのだ。きっと家庭教師を雇うのだろう……髭もじゃの老人よりは、例え年齢がBBAでもエルフとか長命種で見た目が劣化しないのなら、そのほうが何というかやる気は起きる。所詮は25歳にもなって夢を追っていたフリーター男だからな……
こうして俺は3歳になるまでの間。
騎士とシャルティーナに強請って、体力作りのために基礎トレーニングと光の珠……精霊を食って増えるかもわからない。
魔力増強トレーニングに励みつつ、体内にある時から感じていた違和感を操作する訓練を続けるのであった。
早く魔法の先生来ないかな……
11
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル
異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた
なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった
孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます
さあ、チートの時間だ
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました
第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった
服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです
レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる