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第16話 閑話② SIDE:春姫 差し伸べる女神様【裏】
しおりを挟む岩野熊雄さんは、とても優し気な中年男性だった。
妻の浮気が原因で離婚したらしく、母と同じく男手一つで育ててきたといい。
再婚までの間の食事会では、高価なものではなかったけれど幾つかプレゼントをくれた。
これが母の言う光源氏のような教育の成果なのだろうか?
こうして月日が流れ義弟になる勇気の中学卒業に合わせて、四人での食事会が行われることになった。
おじさんによると踏ん切りがでなくて再婚したいとかそういう話は出来ないでいたらしい。
用事がある二人に代わり私の義弟になる勇気くんを迎えにいくことになった。
「なんで私が……」
コンビニの鏡に映っているのは光の加減によっては金色にも見える私自慢の亜麻色長髪は、枝毛一つなく腰まで伸びている。
気休めにナチュラルメイクをして、初対面時の好感度を稼いでおくのも悪くないわね……。
例えひとつ屋根の下で暮らすとはいえ、私は義弟に興味がない。しかし悪いイメージを持たれたくないと考えてしまうのは人間の性だと思う。
メイク道具を取り出して両親から受け継いだ色素の薄い雪のような肌にメイクを施すと、最後にはみずみずしいサクランボのような綺麗な唇に紅を引く。
半分以上混じっている異国の血由来の息を飲む美貌が輝きを増し、ただでさえ『清中の女神』と渾名される美貌により一層の磨きがかる。
普通の日本人では逆立ちしても勝てないそんな容姿だ。
化粧道具を鞄に仕舞い込むとコンビニの化粧室を出て、バスを使い義弟が三年間を過ごした中学校に向かう。
服装……美貌のせか少し目立つものの、多くの生徒や保護者の眼中に私は映っていない。
校門に向けて走ってくる男の子に気が付いた。
(なんで走っているんだろう……)
事前に写真で見ていたから勇気くんだと気が付くことが出来た。
私はすれ違った勇気の腕を摑んだ。
「え?」
「キミ、岩野勇気くんでしょ?」
「どうして僕の名前を?」
「私は竜蛇母春妃。
キミの義姉になるものよ、よろしくね」
勇気くんの表情は、悲しみと怒りに満ちた表情から『姉を名乗る不審者が現れた』と、困惑に変化していくのが手に取るように判る。
まるで観察でもするように、勇気くんの視線が上から下へ動いていく。
「姉って……僕には『いとこ』も『近所のお姉さん』も『幼馴染』もロクに居ないんですよ?」
指を立てて一つづつ数える。
私は勇気くんに近づいてきて彼の手を取ると小指を立てさせてこう言った。
「ちっちっち『義姉』と言う選択肢があるでしょ?」
「あっ……」
「で、でも! 父から見せられた写真はもっと幼かった気が……」
お母さん何してるのよ……
「あーそれね。私、写真があまり好きじゃなくて少し前の写真しかないんだ。で、でも! 今年からバンバン撮ってくつもりだから!!」
私は早口で撒くし立てる。
ダイエット前の写真はほとんどないから昔の写真を見せたくないの。
「そうなんだ。それで、どうしてここに?」
「そうだった! 実は予約しているレストランの時間が間違っていたみたいで……もう時間がないの!」
私は、校舎の時計を指さした。
時刻はおよそ十二時。
「お母さんの都合で、顔合わせはディナーではなく遅めの夕食にするハズだったのだが、話を聞いてみるとどうやらレストラン側の都合で早めに来て欲しいそうなの」
「ヤバいじゃん!」
「そうなのよ! お義父さんが車を校門の前に止めてるから早く来て……」
私は彼の腕を引いた。
写真を見るだけだと気が付けなかった。
傘を貸してくれた彼だと……。
私は彼を探していた。また会いたいと思っていた。
それが恋なのかはまだ判らないだけど、振られて曇ってしまっている姿は見るに堪えない。
だから母の言う通り理想の男に彼を育てることにした。
その名も――
――【逆・光源氏計画】。
勇気くんは私の期待以上の成果をだして春休みを終えた。
菊花学園で行われるミスコンは女子アナの登竜門とさえ言われている。
そんな学校で順番にレベルの高い女の子と仲良くさせれば女の扱いが上手い男に育つことだろう。
その間に私も恋か感謝か結論が出ること思う。
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