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第11話

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 問題と言いつつも抗議しなかったのは、巫女として優秀な素質を持つ娘の言葉を信じ切る事が出来なった。自分への戒めなのかはたまた自らも知っていて、報告を上げなかった事への後ろめたさなのかは分からない。

「春明君。式神と言わず良ければウチの子になりなさい。君とこの子なら土御門の姫が相手でも部の悪い勝負にはならないから、それとこれから挨拶に行くであろう倉橋の岩男に気を付けなさいあの男は狸だから……」

そう言って警告した。

「ありがとうございます」

と当たり障りのない返答をして母は俺の手を取ってこの場を後にする。

「随分と焦っている様子だったわね。……それほど倉橋家の当主は危険人物と言う事かしら……」

「ねぇ十二天将って何?」

俺は疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。

「それはね――――」

母が答えようとする言葉を遮って男の低い声が聞声が答える。
声のする方を見ると大柄でガッシリとした大男がそこに居た。
身に纏ったスーツはその内に秘めた筋肉によって、今にも悲鳴を上げそうなほどに張っている。

コレだけの大男がそうそう居るハズがない。
コイツが恐らく倉橋家の現当主!

「――――十二天将とは本来。安倍晴明様が使役したと伝わる12体の式神の事を言う。具体的にどんな式神を使役したのかは伝わっていないが……当時の術者が書いた書によると『天』は天部簡単に言えば神々の事を言い。『神』は六壬天地盤《りくじんてんちばん》とよばれる占いをする道具に配置された干支……方位や時間を表す獣を現した言葉である。『将』は十二天将と呼ばれる方位を守護する霊獣の事を指している。恐らくはそのような高位の鬼神を使役したものの例えと言ったところであろう」

「倉橋 杜氏《とうじ》様……」

母が男の名前を口にした。
母の言葉に反応して男が名乗る。

「いかにも。私が倉橋家当主。倉橋杜氏である。そちらのお子さんは報告の通り随分と良い眼を持っているようだ。我が娘の事と併せて考えてみても神々の……否。祖たる清明様のお導きと言った所か……」

などと感慨深い事を言っている。

報告の通り? 随分と言い耳を持っているようだな。

「杏《アン》、静香《しずか》こちらへ来なさい」

そう言って呼びつけたのは彼の妻子である。という事は今回の懇親会のホストであり今まで当主はこの会に居なかったという事になる。
何て無礼な奴なんだ……。

「紹介しよう。こちらが妻の静香と娘の杏だ。君のような優秀な見鬼《けんき》の才を持つ少年を私は視た事がない。それにその莫大な呪力! 鳥羽や土御門本家の姫にも匹敵するほどの量、彼女たちと同じ運命を背負うこの子も支えてはくれないだろうか?」

おいおい。今まで秘匿していた情報をそんなに簡単に公開していいのか?

「私の母が星読みという事は皆知っていると思う。当代随一の読み手にして我ら陰陽師の相談役その母の予言を今ここで明かそうと思う!」

その言葉に周囲の大人達が騒めき始める。

ギャラリー達の中には、コレから倉橋家当主が話す事を想定している人物や、知っている人物もあの二組以外に居るのか、確認するために俺は注意深く視てみる事にする――――。

「あの高名な星読みがかッ!」
「一体どのような予言なのだろうか?」
「星読みってなぁーに?」

どうやら怪しげな挙動をしたのは数人程度であるため。どの家でも秘匿情報であったのだろう。
奴らには注意しておかないといけない。
今の俺では目印を付けることが出来ないので、その呪力の波長を記憶しておくしかないだろう。

「我が母の予言によれば、これからこの日本を幾度の災いが襲うであろうそれに対処できるのは、我が娘と同年代の少年少女であると言う……何を隠そう! 私の娘こそがその選ばれた予言の御子である。杏――――」

倉橋家の当主は自分の愛娘を見世物にしてでも、この災いの主導権を握ろうとしているのかッ!!

俺の生きていた平安の時代では、例え血を分けた子でも必要があれば平気で贄として一族の命脈を繋いできた。
現代の自分の子供を優先すると言う思想事態、第二次世界大戦後の核家族化によって生まれた個人主義によるところが大きい。
とは言え俺にとっては子を平気で見捨てる奴は信用ならない。

俺の生きていた平安の世でも未来を予言することが出来る。レベルの高位の陰陽師や僧侶と言った霊能力者は珍しかっただから、今の世でもかなり珍しいのは納得できる。

名前を呼ばれて色素の薄い金髪の少女が一歩前に出る。
そして少女の額に呪符を張り付けると呪文を唱える。

「解」

その瞬間封印されていた呪力が解放され、人外の耳と尻尾が衆目の目にさらされる。

金色の長髪の間からイヌ科の動物を思わせる尖った獣の耳と、筆のようにふっくらと膨らんだ大きな尻尾が生えていた。
良く視ていなかったせいか彼女も祖である。安倍晴明の母の葛の葉の特徴を色濃く受け継いだ先祖返りだったのか。



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