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第五十三話
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時刻は夕方もうすぐ夕飯と言う時だった。
二人揃っての動画鑑賞は時間が文字通り解ける。
週に何日もファミレスで時間を潰す俺達にとって語ることは少ない。
昨日何食べたとか、好きな曲、クラスの恋愛事情など粗方話題になりそうなものは話尽くしている。
きっと彼女にとって俺は話しやすかったんだと思う。
自分の考えを否定しないで訊いてくれる年上の男性……痒いところに手が届くような、そんな男と頻繁に合っていれば心を許すのに無理はなかったと思う。
自分でもズルいと思う、彼女本人ではないにしてもよく似た人間の未来を俺は知っている。
それを元に彼女に合わせた話をしているのだから、好かれこそすれ嫌われる通りはない。
好きな作品を見ていると言うのに、何だかセンチメンタルな気分になっていると、『ピコン』とスマホの通知音が鳴った。
通知音が嫌いなので、サイレントか付けてもバイブ設定しているのだが、イヤホンの接続を弄ったためか、設定が無効になっていたらしい。
一件の通知がありその内一件は妹からだった。
内容を要約すると、「部活の後遊んでた。今から帰るのでご飯を作って置いて欲しい」と言うものだった。
「二人ともタイミングが良いというか間が悪いといか……」
葛城にとっての避難場所をウチとするのなら、二人が打ち解け友達となってもらう方が手っ取り早い。
兄の友人よりも、兄と自分の友人の方が身近だからな。
キッチンに立つ俺の独り言が聞こえたのか、葛城がリビングから顔を覗かせる。
「どうしたの?」
「妹が帰ってくるって」
「ふーん。せんぱいご両親は?」
「あーなんだろ? 特に連絡はないから帰ってこないと思う」
俺が転生? 憑依? して約二週間両親は殆ど帰ってきていない。
都会のこんな場所に豪邸を建てられるぐらい金持ちなのだ。政略結婚で互いに愛人を囲っているなんって、漫画やドラマでありそうな設定もこのラブコメ世界では十二分にあり得る。
「……そうですか……」
何かを悟ったように一言だけ言うとまた無駄にデカイテレビに視線を向ける。
俺はテレビに視線を向けながら一週間分の食事を作る。
「夕飯食べてくだろ?」
「え、昼食も頂いたのに悪いですよ」
「荷物持ちしてくれただろ? それにもう晩飯の用意はしてるんだ。食べてくれなきゃ食材が余っちまうだろ?」
「そ、そう言うことなら……いただきます」
「それは良かった」
「あ、よかったら料理教えてください」
「料理が出来るようになるのは良いことだけど……急にまたどうして……」
この世界でも現作でも、『葛城綾音』と言う女の子は料理を得意としていなかった。
ネイルやメイク、ファッションと言った。女の子らしい
こと興味はあっても、料理と言う家庭的な物事にまで視線は向いていなかった。
多分、『葛城綾音』と言う女の子を変えてしまったのは俺だ。
前世でこんなことを考えたことがある――――
歴史上度々現れ文明を蹂躙する破壊者『騎馬遊牧民』は、ユーラシア大陸中央部にまるでゲームの敵のように、無限湧きするのではないかと?
同じくシナリオを進める事で行けるマップが増えるように、大型アップデート『インドを求めて』が実行されると、南北アメリカ大陸が出現するのではないか? と空想したことがある。
もちろん南北アメリカ大陸を発見などと言うのは白人から見た世界の姿であり、原住民からすれば傲慢不遜な白豪主義の痕跡とさえ言える暴論だ。
――――つまり原作よりも早い時期に、ボランティア活動を全校で行ったことでまるでゲームのように、『葛城綾音』と言うキャラクターが出現する条件を満たした可能性が高い。
原作では彼女が親とキチンと向き合うのは、終盤だったと記憶している。もちろん、原作で語られていないだけで双方からの歩み寄りはあったとは思うが……このように事態が急転するのも全ては、『カルマ値』と命名した世界システムが原因だと思われる。
「せんぱいと今日一日いて、親とも折り合い付けなきゃなって思ったんです。もうすぐ母の日ですし、いい機会かなって思ったんです」
「……」
「だから私はあなたのおかげでここまで出来るようになったんだぞ! ってところを見せたいんです。私に料理を教えてくれませんか?」
俺は一瞬戸惑った。
これ以上展開を早めてはシナリオを破壊しかねない。
転生した強みの一つ『原作知識』が使えなくなることを恐れた。
「せんぱい?」
葛城が俺を呼ぶ。
しかし動けない。
悩んでいるのだ。迷っているのだ。
俺はなんのために無茶をした?
『葛城綾音』を、推しを幸せにするためだろう? 多少シナリオが変ったっていいじゃないか。
俺の推しが救われるのなら、シナリオ変更が原因で俺の知らない人間が不幸になろうともいいかもしれない。
内心、真堂恭介の役割を押し付けてしまった洞口秀夢に罪悪感を感じていた。
救ってあげたいと思て手を差し伸べた。
しかし、救うことは出来なかった。
……でも彼を救うことで、俺の手の平から零れ落ちてく中に大切な人が居るのなら、心を鬼にして彼を見捨てよう。
「判った。下ごしらえは終わったから先ずは一緒に作ってみよう……」
俺は判断を先送りにした。
二人揃っての動画鑑賞は時間が文字通り解ける。
週に何日もファミレスで時間を潰す俺達にとって語ることは少ない。
昨日何食べたとか、好きな曲、クラスの恋愛事情など粗方話題になりそうなものは話尽くしている。
きっと彼女にとって俺は話しやすかったんだと思う。
自分の考えを否定しないで訊いてくれる年上の男性……痒いところに手が届くような、そんな男と頻繁に合っていれば心を許すのに無理はなかったと思う。
自分でもズルいと思う、彼女本人ではないにしてもよく似た人間の未来を俺は知っている。
それを元に彼女に合わせた話をしているのだから、好かれこそすれ嫌われる通りはない。
好きな作品を見ていると言うのに、何だかセンチメンタルな気分になっていると、『ピコン』とスマホの通知音が鳴った。
通知音が嫌いなので、サイレントか付けてもバイブ設定しているのだが、イヤホンの接続を弄ったためか、設定が無効になっていたらしい。
一件の通知がありその内一件は妹からだった。
内容を要約すると、「部活の後遊んでた。今から帰るのでご飯を作って置いて欲しい」と言うものだった。
「二人ともタイミングが良いというか間が悪いといか……」
葛城にとっての避難場所をウチとするのなら、二人が打ち解け友達となってもらう方が手っ取り早い。
兄の友人よりも、兄と自分の友人の方が身近だからな。
キッチンに立つ俺の独り言が聞こえたのか、葛城がリビングから顔を覗かせる。
「どうしたの?」
「妹が帰ってくるって」
「ふーん。せんぱいご両親は?」
「あーなんだろ? 特に連絡はないから帰ってこないと思う」
俺が転生? 憑依? して約二週間両親は殆ど帰ってきていない。
都会のこんな場所に豪邸を建てられるぐらい金持ちなのだ。政略結婚で互いに愛人を囲っているなんって、漫画やドラマでありそうな設定もこのラブコメ世界では十二分にあり得る。
「……そうですか……」
何かを悟ったように一言だけ言うとまた無駄にデカイテレビに視線を向ける。
俺はテレビに視線を向けながら一週間分の食事を作る。
「夕飯食べてくだろ?」
「え、昼食も頂いたのに悪いですよ」
「荷物持ちしてくれただろ? それにもう晩飯の用意はしてるんだ。食べてくれなきゃ食材が余っちまうだろ?」
「そ、そう言うことなら……いただきます」
「それは良かった」
「あ、よかったら料理教えてください」
「料理が出来るようになるのは良いことだけど……急にまたどうして……」
この世界でも現作でも、『葛城綾音』と言う女の子は料理を得意としていなかった。
ネイルやメイク、ファッションと言った。女の子らしい
こと興味はあっても、料理と言う家庭的な物事にまで視線は向いていなかった。
多分、『葛城綾音』と言う女の子を変えてしまったのは俺だ。
前世でこんなことを考えたことがある――――
歴史上度々現れ文明を蹂躙する破壊者『騎馬遊牧民』は、ユーラシア大陸中央部にまるでゲームの敵のように、無限湧きするのではないかと?
同じくシナリオを進める事で行けるマップが増えるように、大型アップデート『インドを求めて』が実行されると、南北アメリカ大陸が出現するのではないか? と空想したことがある。
もちろん南北アメリカ大陸を発見などと言うのは白人から見た世界の姿であり、原住民からすれば傲慢不遜な白豪主義の痕跡とさえ言える暴論だ。
――――つまり原作よりも早い時期に、ボランティア活動を全校で行ったことでまるでゲームのように、『葛城綾音』と言うキャラクターが出現する条件を満たした可能性が高い。
原作では彼女が親とキチンと向き合うのは、終盤だったと記憶している。もちろん、原作で語られていないだけで双方からの歩み寄りはあったとは思うが……このように事態が急転するのも全ては、『カルマ値』と命名した世界システムが原因だと思われる。
「せんぱいと今日一日いて、親とも折り合い付けなきゃなって思ったんです。もうすぐ母の日ですし、いい機会かなって思ったんです」
「……」
「だから私はあなたのおかげでここまで出来るようになったんだぞ! ってところを見せたいんです。私に料理を教えてくれませんか?」
俺は一瞬戸惑った。
これ以上展開を早めてはシナリオを破壊しかねない。
転生した強みの一つ『原作知識』が使えなくなることを恐れた。
「せんぱい?」
葛城が俺を呼ぶ。
しかし動けない。
悩んでいるのだ。迷っているのだ。
俺はなんのために無茶をした?
『葛城綾音』を、推しを幸せにするためだろう? 多少シナリオが変ったっていいじゃないか。
俺の推しが救われるのなら、シナリオ変更が原因で俺の知らない人間が不幸になろうともいいかもしれない。
内心、真堂恭介の役割を押し付けてしまった洞口秀夢に罪悪感を感じていた。
救ってあげたいと思て手を差し伸べた。
しかし、救うことは出来なかった。
……でも彼を救うことで、俺の手の平から零れ落ちてく中に大切な人が居るのなら、心を鬼にして彼を見捨てよう。
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俺は判断を先送りにした。
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