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第五十二話
しおりを挟むパスタは貧乏学生の味方と言うぐらいに簡単で美味しさの殆どはソースに依存する。
「パスタってお願いしましたけどどんなパスタ作ってくれるんですか?」
「個人的にはペペロンチーノとか好きだけど今日はトマト系で責めたいと思う」
「トマト系ですか無難に行きましたね……」
「無難で王道で何が悪い? ピザもパスタもイタ飯はトマト味がベストなんだ」
「先輩ってファミレスでご飯食べる時にも思ってましたけど、案外ジャンクなもの好きですよね?」
「ジャンクで不味いものは嫌いだけど、トマトとチーズのコンビはジャンク界隈でも最強だと思うんだ」
「美味しいものは脂肪と糖で出来ている奴ですね」
「今日は葛城に持ってもらったシーフードミックスを使ったトマトクリームパスタにしようと思う」
「やったー! 何か手伝うことってありますか?」
「とくにはないよソファーに座って何か見てていいよ? 色んな配信サービスに登録してあるから好きに見てよ」
この家は動画配信サービスに複数加入しているから見るモノが多くて逆に悩む。
「はーい」
今日の夕飯や作り置きの事を考えると簡単なモノで済ませたい気持ちになる。
玉ねぎとニンニクを刻んで耐熱容器に入れ一度レンチンする。
「ニンニクですか良い香りですね?」
「臭かったか? 換気扇強めに回すか……」
「気にしなくてもいいですよ?」
「悪いな……」
フライパンに先ほど温めた材料と水気を切ったシーフードミックス、料理酒、コンソメ、トマト缶、水を入れ加熱する。
待っている間に冷凍庫から作り置きのスープを取り出し皿に移してレンジで温める。
丁度沸いて来たのでパスタを入れ茹でるまで待つ。
尊敬する料理研究家が言っていた。「家庭での料理は如何に美味しく手を抜くことが大切です」と……実際趣味でもない限り真面目に料理なんてやってられない。
冷蔵庫から作り置きのサラダを取り出し、市販のドレッシングをかけてスープとサラダが完成する。
数分立つとパスタが茹で上がりフライパン内の汁気が減って来たのを確認してから生クリームと粉チーズ、オレガノを振りかけて空気を含ませるようにフライパンを前後に振る。
ソースに粘度が出て来たところで、お皿にパスタを盛り付け乾燥パセリと生クリームを上に掛けて料理が完成する。
「できたよ」
「凄いいい匂いですね」
「パスタなんてソースが本体だから」
「あれ、いつの間にかサラダとスープも出来てる!?」
「スープもサラダも冷凍・冷蔵保存してるんだよ」
「せんぱいって料理上手なんですね」
「自分で作らないと誰も作ってくれないからな……」
一瞬、宅配弁当でもいいんじゃないか? と思ったものの堕落への一歩だと自分に言い聞かせてギリギリ踏みとどまっている。
結構美味しいらしいかなぁ~宅配弁当、コンビニ弁当や外食よりは相対的に安いし……いかんいかん。また宅配弁当の魅力に取りつかれそうになっている。
「せんぱいにも切迫した事情があったんですね……」
「「いただきます」」
成島さんぐらい女子力の高い女の子なら、サラダから行くのだろうが葛城は食欲に負けパスタを頬張る。
美少女と言ってもこういうところまで見ると全然タイプが違うよな……
性格、容姿、体型、年齢などヒロインを個性的にするためのパラメータは様々あるが、食の好みや食べ方での差別化は訊いたことが無い。
まあ文章でも絵でも難しいからだろうけど……
「美味しい……胃袋を摑んだら勝ちなんて言いますけど、割と真実かもしれないですね」
「そうかもな。マネージャーと選手が良く付き合うのも、接点の多さだけじゃなくて優しさとか献身的に映るからかもしれない。料理はそう言う意味では全てを内包しているな」
サラダを食べ終えた俺はパスタに狙いを定める。
口に運べば磯の香と旨味が口いっぱいに広がり、乳製品達がトマトとシーフードと言う主張の強い二人の仲を取り持ちつつ深いコクを演出している。後味にトマトの爽やかな酸味が加わることで全体の完成度を高めている。
「うん、美味しい。今回目分量で味見しなかったから少し心配だったけど120点の味だ」
「いや目分量じゃなくて、レベルの高い合格点を超える味をオールウェイズ出してくださいよ」
「120点を出すには、下振れを出すようなリスクを背負わないと出せない。これが等価交換、誓約と制約なんだよ」
「ちょっと何言いてるか判らないです……」
最近の若い子それも女子中学生相手には十年以上前の漫画のネタは通じなかった。
「これがジェネレーションギャップ……恐ろしい子」
全力で顔芸をするが。
「いや、そんな年変わんないですよね? 先輩が美容の事が判らないように私にとって漫画のネタが判らないんですよ」
と正論をぶちかまされる。
「御もっともで……」
「今日なんですけど、もう少しいてもいいですか?」
「いいよ」
こうして俺達は動画を見ながら二人の時間を過ごす。
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