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第四十七話
しおりを挟む無視されてキレた井川は捨て台詞を吐き捨てる。
「そうならそうって最初に言えよ」
ギロリと睨まれる。
正直全く怖くない。
バイト時代の客のヤクザの組長の方が怖い。
理不尽なクレームや罵声、叱咤なんて嘆かわしいことに、社会だと珍しくもなんともない。
逆に俺は井川の全身を舐め回すように見つめる。
判り易く井川の顔が引きつった。
別に見ただけで何もしていない。
憑依・転生して前からも後にも超能力なんて使えない。
見られたことを不快に思うような後ろめたいことがあるから感じるだけだ。
「井川に何か用事でもあったのか?」
「いかわくん? ああ、私は特に用はないんだけど――」
そこであからさまに面倒くさそうな顔をせず。適度に不快そうなそぶりを見せてくれるので刺激しすぎなくて都合がいい。
俺と目が合っていたのに途中で、井川のほうに視線を向けるところなんか、演技として高得点だ。
……ただ。この井川、原作でもヒロインの一人に、手を出そうとしていていたから油断できない。
俺に文句が言えないからか、成嶋さんの方に意味心な視線を送る。
逆恨みだろそれは……
「手、痛くないか?」
「乱暴に摑まれたのは痛かったわ。それに女の子の身体に無断で、それも無遠慮にあまり知らない男性に触られるのはあまり気分が良くないわ」
「ちっ……」
謝罪の言葉一つなく舌打ちをすると走り去る。
最後まで俺を睨み付けていたのは、小さなプライドだろうか?
内心ほっと一息をついた。
殴り合いの喧嘩になって負けはしないが、せっかく上げたカルマ値や信頼を無駄にしかねないことはしたくない。
握られた手首を胸元抑えながら、困ったようなにへらとした穏やかな笑みを讃える成嶋さんには、庇護欲を掻き立てられる。
「ありがとう」
駅までの道中成嶋さんは短くお礼の言葉を告げる。
「悪かったな。出しゃばっちゃって……」
「そんなことはないわ。ホントに助かった……はぁ……」
井川のことを思い出したのか、心底面倒そうに溜め息を吐く。
「変な誤解をさせたまま返してしまった。俺なんかとじゃ噂されると成嶋さんのイメージがマイナスになるし……」
「別にいまさらいいわよ。井川くん? しつこかったし、正直、真堂くんが来てなかったら何をされていたか……」
「……」
「そんなマジにならないでよ」
「ごめん」
「今回も真堂くんが助けてくれたからね」
無駄話をしているといつの間にか駅に付いていた。
改札口を通り丁度停車していた電車に乗り込むと不思議なことに電車はガラガラだった。
時間も時間だしこういうこともあるか……。
今日の出来事がよほど堪えたのか、かなり疲れた様子でドア付近の座席に座り背もたれに体を預ける。
普段ならもう少し姿勢がいいのだが、自身のトラウマを想起させる感情を剥き出しで晒されれば、その心労は計り知れない。
「疲れた甘い物食べたいし飲みたいなー」
「駅にスタパあったよね? 買って来ればよかったでしょ?」
「欲しいけど買いに行く気力がなかったの」
「さいですか、言ってくれれば買って来たのに……」
「もー最悪!」
「まあまあ、フラペチーノじゃないけど甘い物ならあるぞ?」
そういって鞄を探すとクッキーを見つけた。
「あ、クッキーだ」
「どうぞ」
「ありがとー」
食べている姿はリスのようだ。
「……告白断りなれてるみたいだけどモテるんだな……」
「まあね。まあ全然嬉しくないけど……」
ハッキリと言うあたり流石は成嶋さんだ。
「そういうものか……」
モテた試しがない俺には全然理解できない感情だ。
「特に女の子は面倒なのよ。『〇〇ちゃんが好きな△△先輩を誑かすなんて』って言い掛かり付けられるなんて日常茶飯事なのよ。自分に魅力がないだけでしょ?」
「まあ確かに……」
「女の子のことをステータスみたいに扱う男もいるけど、女はトロフィーじゃないっての!」
「男女ともに、そう言う感情はある程度理解できない訳ではないけど……相手には失礼だよな」
「そうなのよ。なんでロクに知らない女性に告白するんだろう?」
「幻想を抱いているからかもな」
「幻想?」
「アイドルとか芸能人とかを好きになる見たいな?」
「顔と身体が目的ってこと?」
「否定はしない」
「最っ低……」
「あとは自分以外との会話とかが輝いて見えたんじゃないかな?」
そんな言葉がふと口をついた。
これは学生時代に好きだった女の子には、彼氏が絶えなかったと言う思い出が脳裏を過ったからだ。
「恋してる子は可愛いみたいな?」
「大雑把に言えばそんな感じ、あとは高嶺の花のあの子を落すために頑張る自分に酔うみたいな?」
「恋に恋するって感じね。それにしてもなんで見込みのない告白をするんだろう?」
「そりゃ告白の事を、成功と失敗の一撃必殺だと思ってるからじゃないのか?」
「ええぇ……告白って最後の一押しと言うか、二人の間に敢えて名前を付けるそんな関係だと思うんだけど……」
「俺もそうお思う。まあ、あれだ自分を認識して欲しいとか自分の気持ちを抑えきれなかったとかそう言う奴かも」
「認識して欲しいとか、抑えきれないで被害をおう私はどうすれば……」
両手で顔を覆う。
「世間一般の人間はモテない側の人間だからモテる側の気持ちが判らないんだろう。俺も判らないし……」
むすっと不満げな表情を隠そうともしない成嶋さんをフォローするために言葉を取り繕う。
「まあ、あれだ。好きになるのは構わないと思うだけど、それを自分本位に相手に押し付けるのはダメだ」
顔にせよ、身体にせよ、性格にせよ。
魅力的だと思われたからモテるのだ。
好きだからが、相手に迷惑を掛けて言い免罪符にはならない。
「まあ好かれるだけなら悪い気はしないわよ。実際、可愛いから有名なんだし……それにもし強引に何かされそうになっても、全力で股間を蹴り上げるか殴るつもりだったし……」
「いや、イラっとして手出しそうになってたよな?」
「ぐっ……」
「だから割って入ったんだよ――」
やはり手を出す腹積もりだったようだ。
「――まあ、暴漢相手にはそれぐらいでいいと思うけどなだけど、相手が引かない程度で股間を蹴るのはやめような?」
「真堂くんにはそんなことしないけど……」
「別にされるようなことしてないだろ!」
強姦紛いの事をすればどれだけの悪行として認識されることやら……まあ、それ以前に人間としてどうなんだろうとは思うけど。
「してないわよ? むしろ紳士的とさえ言えるわ紳士の前に漢字二文字が付くけど……」
「うわー変態かな?」
「英国かもしれないわよ?」
「俺に渡英暦はなかったハズなので変態ぐらいしかあてはありませんね」
「あははははは」
「まあ、綺麗でいたいのは私が望んだ形だから副作用としてモテるのは仕方がないけど、だからと言って幻想を押し付けられるのはたまったものではないわね。断るのにも神経使うのよ? 無駄に気付けて逆上されたくないし……」
「優しいな」
「誰かさん見たいに優しくあろうとしているだけよ?」
「……」
俺は赤く染まった頬を見れれないように顔を背けるのだった。
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