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第四十二話
しおりを挟む怒りのあまり、足が止まりかけるが気合で脚を動かした。
他の生徒達が必死になってボールを回している中で、洞口だけは敵選手に当たる事無くドリブルを続ける。
ドリブルと言っても全力で蹴ったボールを追いかけるような不格好なものだ。
フォワードやミッドフィールダーを努めるバスケ部の連中のディフェンス力は凄まじく、こちらの守備を完封し殆ど動けなくしている。
サイドからゴール目掛けて攻め上がる洞口を確認すると、手を伸ばしブロックしていた運動部たちの中から祐堂が飛び出した。
洞口を守るための防御を捨て、敵に奪われる前にパスを出さるか・ボールを奪う腹心算なのだろう。
これなら何とかできそうだ。
攻め上がり背後からスライディングを仕掛けるが……。
ザーっ。
洞口の後ろ足を蹴る程度で、「空振りした」あるいは洞口が「避けた」ように見えるだろう。
「洞口パスだ!」
祐堂が手を上げパスを出すように求める。
ボン。
だが洞口明らかにシュートを打った。
それを見て俺のチームのキーパーは左に跳んだ。
あのバカ!! もうおしまいだ。責めてゴールに入ってくれ……
と祈るものの運動神経が終わっているのかシュートは明後日の方向に跳んでいく……
ノーコンめ!
俺は内心毒づいた。
しかし、祐堂はゴールから逸れほぼ平行に打たれたシュートの方へ走り軌道を変え右前方へ飛んだ。
シュートチェイン!!
学生時代に遊んだサッカーRPGのシステムが脳裏を過った。
簡単に言えば、シュートAからシュートBに繋いだボレーシュートのことでゲーム的には、属性や威力が向上する効果がある。
ボールはレーザービームのように真っ直ぐ飛び、ゴールネットを叩いた。
チームメイト達の歓声がグラウンドに響いく、少し遅れて観戦している男女から歓声と黄色い声援が聞こえて来る。
流石は主人公。補正を持っているようだ。
ホイスルが鳴り響き得点が入ったことと試合終了が合図される。
「よ、ようやく終わった……」
息を切らしながら汗まみれになった俺はそのままへたりとコートに座り込んだ。
流石は主人公、片思いしてた幼馴染にフラれて一念発起し勉学に励み合格率の低かった名門私立に合格しただけはある。
それにくらべ真堂恭介は、落ちぶれてこの学校なんだから元はどれだけ凄いんだか……
祐堂は仲間たちと勝利を讃えあっている。
それにしても……俺が憑依した真堂恭介のフィジカルは侮れないモノがある。
前世では運動神経皆無のオタクだった俺が、運動部や祐堂達の動きに付いていく事が出来オマケに、『ファイトリック』など言う高度なテクニックを行うことが出来た。
確かに憑依した直後から贅肉はロクになかったが、筋肉はあまり付いていなかった。
善行と運動の観点から、毎日けっこうな距離を散歩していたがそれが効いたのだろうか?
ブロックの時にタックルされても吹っ飛ばされなかったり、前世だと重くて仕方がないようなモノも運べた。
なによりも凄いのは、ゲームキャラクターのように思う通りに体が動くのだ。
アシストが付いているかのように狙ったところに。ボールを蹴ることが出来きパスもシュートも思いのまま。
難しいドリブル技だって一発で出来る。
原作者も考えていなかっただけでもしかしたら、真堂恭介には本来物凄い才能があるかもしれない。悪役なんかにならなければ、海外のいい大学に行けたかも知れない。
まあ最強の機体に乗っていても、パイロットがポンコツだから平凡止まりだろうけど……
怪しまれないように勉強だけは頑張らないと……
前世で一度学んだ事とは言え、使わなくなってから年月が経つと案外と忘れているものだ。
予習復習だけで何とか付いて行くことができているが……こけたら立ち直れなさそうだ――。
あの三浦大……洋宮先輩に過去問とか貰えないだろうか? 作る教師が違うとは言え、テスト範囲は同じなんだ。参考にはなるだろう。
それが無理なら……塾に通うしかない。散歩の時間を潰して行くとかにしないと時間が無い。でもそうすると葛城を匿えなくなる。
受験は余裕だとか言ってたけど、親を説得して塾に通えば互いの問題は解決できそうだ。
うん、最悪そうしよう……
――酸欠の頭で夢想していると憎たらしいドヤ顔を浮かべ洞口が歩いてきた。
「……」
「試合前に貴殿真堂恭介は、サッカーかフットボールかなんてどうでもいいと言いましたが、僕ほど
フットボールに詳しければ貴殿程度のテクニックを超えることなど造作もないのですよ。論破っぱフフフ……」
――と気持ちの笑い含み笑いする。
含み笑いが許されるのはミステリアスなタイプのイケメンだけだ。お前みたいな中肉のフツメンがやっても鳥肌が立つだけなんだよ。
あと貴殿だけでいいのにそのあとにフルネームを呼ぶって、ドラマの裁判書類でしか見たことないんだけど……それを口語でやるの?
お前の理屈おかしいよ。洞口の屁理屈で、洞理屈だよ。
「……」
余りの覇気に唖然としていると、何も言い返せなくて黙っているように見えたのか、さらに気分良さそうに言葉を続ける。
「若松祐堂も僕のシュートを奪ってゴールを決めるなんて厚かましい!」
「お前のシュートノーコンじゃん」
「――なっ!」
言い返されると思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべる。
現在洞口の回りは、こいつを持ち上げるだけで言動を諫《いさ》めもしないクズばかりだ。
誰かが、俺が言ってやらないとコイツは……
俺は決意を決めた。
「祐堂がボレーシュートで軌道変えてなかったら、お前らのチーム無得点で負けだ? お前のスタンドプレイで負けてたんだぞ? そのこと判ってるのか? 大体ボランティアのことも―――」
「―――うるさいうるさいうるさいっ!!」
子供のように駄々をこねる。
お前はツンデレを良く演じる声優のキャラかよ。と一周廻って冷静になってツッコミを入れてしまう。
まあ声は男性声なので微笑ましさや可愛らしさは一切ない。
「洞口……」
「ふん! 余計なお世話だ!」
吐き捨てるように言い放つとこの場を後にした。
結論を言えば俺の洞口救済作戦は失敗した。
奇しくもそれは、この世界に来てからの初めての失敗だった。
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