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第十七話
しおりを挟む「はっ?」
「えっ?」
「なっ!」
俺の言葉に驚いたのか生徒や教師問わず困惑の声が聞こえる。
これで場の支配権は、副校長の独壇場ではなくなった。
図星をつかれたのか複数の教師が唾液を飛ばしながら声を荒げる。
「口を慎《つつし》まないか!」
ピューウ、と心の中で口笛を吹く。
直接暴力に訴えるわけでもなく、ただ騒ぎ喚《わめ》いているだけで恐れる事は何もない。ただ一点を除いては……
怒号による威圧で場の空気を支配される事だけが心配だ。
副校長は手を上げそれ以上は寄せとジェスチャーをする。
「ですが副校長!」
なおも食い下がる教師。
大人の権力闘争が見える見える。
私立だからより顕著なのか、自分が大人になったからハッキリ見えるのだろうか? いかんいかん。そろそろ介入しなくては……
「そんなに興奮しないでください。失言を私から引き出し一本取って、自分の有利に会議を進めようと言う意図が丸見えですよ。そんな態度では満足なプレゼンが出来るとは思えません。それこそ『会議は踊る、されど進まず』と表現するに相応しいでしょう――」
昨今クイズ大会やフリップ芸、スマホで調べれば直ぐに判ることを質問する。程度の低い議会のようなこの場には相応しい表現だろう。
今ここで畳みかける!!
今ここで黙ってしまえば主導権を奪われる。
それだけを避けるために、論理的かつ感情を揺さぶるように言葉を紡いでいく……
「――結果。ただそれだけが俺の望むモノです。過程なんて正直に言えばどうでもいい。俺がやろうが誰がやろうが『結果』だはこの世に残る。結果と言うパイが完成していないのにその取り分を決めるのは早計ではないですか?」
「……」
ここで緩急を付ける!
「そうですね……もし、誰かがパイを多く欲しいのなら……そうですね内申点でも甘めに付けてください。先日人助けで遅刻してしまって……どういう処理になってるか判りませんが一年のそれも春での遅刻って印象悪いですよね?」
担任から声が上がる。
「心配するな。警察から事情は聞ている二人とも遅刻、欠席扱いにはなっていない」
担任の発言を訊いて生徒達から歓声と笑いの声が聞こえる。
先生ありがとう。重苦しい政治劇の様相をコメディに昇華できた。
「それが聞けてよかったです。この案件を通していただけるのでしたら副校長、貴方の思い描くようにパイを切り分けて下さい……おっと会議の邪魔をしてしまい申し訳ございません。どうぞ不安や疑問が解消するまで話し合いを続けて下さい」
そう言ってマイクを若松姉弟に返すとノートパソコンを使って資料を移す作業に戻る。
しん。としたプレゼンの場で最初の質問者となってくれたのは、生徒総会で俺の意見に賛同してくれた三年生の先輩だった。
「ボランティア活動の人員不足や過多についてはどう解消するつもりですか?」
「そちらについては……」
俺は事前に予想できる範囲をパワーポイントと、カンペに纏めてある。
「基本的にクラスでボランティア活動をすることには変わりありません。一括管理することで同一施設へ負担をかけないようにすることが目的です。
例えばA施設にボランティアのお願いをして100人ほしいと言われた場合。今までは、あまり実施できずお断りするか学校主催のボランティアとなっていると聞いています」
そう言って教師陣に目くばせをすると、教師も首を縦に振って同意する。
「ですがこの提案が認可されれば、生徒主導のボランティア活動として活動を実施することができます。また定員割れのリスクを軽減する方法としては、クラスのボランティアには絶対参加や年間合計参加回数を規定するなど、様々な対策案があると2ページめの五行目に書いてありますが……」
「……でこの場合は……」
「その場合は……」
――と教師共と違い生徒達は本気でこのプロジェクトを成功させたいのか、書いてあることでも別の想定を交えて質問してくる。
「では次の方……」
話題が次へと移り、生徒や教師問わず疑問や懸念点を確認するように一つずつ丁寧に潰していく。
俺が望んでいた会議はこういうものだ。
俺は手元の資料にチェックを打ち重複した質問については対応しないように操作しながら、資料に書いてない一見新しい知見についてはメモを取るフリをする。
音声はしっかりと録音しているので、メモが間に合わなくても問題ない。
書いているフリをするだけでも真面目感が出る。
人間と言う生き物は、例え話を訊き流されていても、真剣に聞いてくれているように感じれば満足するのだ。
そのための相槌や「出来る女のさしすせそ」のような否定も意見もしない壁や首振り人形でいれば、勝手に親近感を抱いた相手がプラスの印象を抱いてくれる。
「では……先生お時間ですので最後の質問とさせてください」
志乃亜さんの一言は白熱した討論に冷や水を掛けた。
「まじかよ」
「もっと内容を煮詰めたい」
「私も大きなことがしたかったの!」
――と言う声が生徒達から聞こえて来る。
しかし、それは同時に今まで反論の機会を伺っていた教師達に、「失敗した時に誰が責任を取るんだ」と言った。テンプレ台詞を吐かれ冷や水を掛けられた挙句、場の主導権を奪われるぐらいなら自分達で終わらせた方が幾分も都合がいい。
ここまでは重畳《ちょうじょう》だ。あとは俺の様予想通り教師が動いてくれるとありがたいんだが……
そんなことを考えていると開幕突っかかって教師が、ゆっくりとそれでいて怒りを感じさせる声音で喋り始めた。
「外国被れにしてはいい意見だった。しかし、今までの運営で大きな問題は生じていない。ブランドイメージだって誉れある【六勲校】の一員である我が瑞宝《ずいほう》学園高等学校には必要ないのではないかね? 今までの信頼を、実績を損なうような失敗をしたとして、お前に責任が取れるのか!? そう言ったことが100%ないと言えるのか!!」
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