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第十三話
しおりを挟むその後、無事第一関門を突破した俺は記念に焼肉を食べた。
胃もたれ……と言う訳ではないけど前世では十代の頃に比べ、前世の俺は脂身を受け付けなくなっていた。
もっとハラミやカルビを食べたかった。
やはり、人間身体が資本と言う言葉に間違いはないらしい。
途中無性にビールに手が欲しくなったが、焼肉食べ放題・竹とソフトドリンク飲み放題だったので未遂で済んだ。
妹には多少怪しまれたが誤魔化せたと思う。
妹は電車で帰り、腹ごなしに眺めの散歩をしていた。
達成感で火照った身体を春の夜風で覚ましたかったからだ。
付け加えるのなら、何もせずに立ち止まっているのが怖かったからだ。
気が付けば俺はゴミ袋を片手にゴミを拾っていた。
線路沿いにぶらぶらあるいて、途中人寂しくなって何度か駅による。
勿論、下心が何もなかった訳ではない。
ゴミ箱にゴミを捨てれるし、トイレだってあるからだ。
そしてあわよくばネームドキャラクターや未登場のキャラクターに合えないか? と言う気持ちは正直ある。
特に再推しの『葛城綾音』を一目見たいと言う気持ちがあったからだ。
「ごみ捨て済んだし、トイレにも行けたやっぱり都会の駅って最高だぜ!」
そんな時だった。
セーラー服に身を包んだ一人の少女が目に飛び込んで来る。
俺はその少女を画面の中で知っていた。
「あれって……『幼馴染を寝取られたので努力したらハーレムが出来た件』の後輩ヒロインの葛城綾音じゃね……でも現作だと初登場はもっと遅かったような……」
彼女はハーフだかクオーターで芸能人顔負けの容姿のせいで浮いていた過去を持っている。
親とも仲が悪いらしく主人公にも色々と愚痴ってた記憶がある。
「原作だと友達の家で時間を潰しているハズなのに……もしかして俺が原作シナリオを変えたせいで彼女も影響を受けて、時間を潰すためにここにいるのか? 補導とかされないのか?」
も、もしかして、バタフライエフェクトって奴か!!
東京などの都市圏には家で少年や少女が集まる溜まり場があり、パパ活やバイト、売春で日銭を稼いで日々の糧としているとニュースで見たことを思い出した。
彼女がそんな人間ではないと原作で知ってはいるものの、この世界は現実で原作の辻褄合わせのために、どんな風に補完されているか判ったものではない。
「心配だ。少し付いていこう……」
明らかに飲み会帰り――この時期だと歓迎会や部の飲み会と言った所だろうか? ――と思われる中年サラリーマンが千鳥足で歩いている。
右へ左へ縦横無尽に歩いているようすはまるで将棋の『角行』のようだ。
次の瞬間、中年サラリーマンは少女とぶつかった。
「おっと……危ねぇな……」
中年サラリーマンは少女を一瞥すると謝罪の言葉一つなく立ち去っていく……
直ぐさま駆け寄ると少女に手を差し伸べる
「大丈夫? 立てるかい?」
「大丈夫……」
そう言って差し伸べた手を取って立ち上がるとパンパンと土埃を落した。
街灯の中でも、いや街灯の下で彼女は輝いて見えた。
本物だ! コスプレでもCGでもない本物の葛城綾音だ! コスプレに存在する作り物っぽい違和感が全くなく、何と言うかこの世界に確かに存在している生っぽさ……生活感? リアリティを感じさせられる。
「ありがとうございます……それでは……」
そう言って立ち去ろうと踵を返す少女の手首をぎゅっと摑む。
「お節介だと思うけど、夜間の徘徊は辞めた方が良い。酔っ払いや不良何かがいて治安が悪いから……それに言いづらいけど援助交際してる女の子に見えちゃうから……」
「――――っ! ~~~~!?」
街灯の下でも判るほどに彼女の頬は赤らんでいく……
「きみ、中学生か高校生でしょ? 家に居たくないなら塾なりバイトの予定でも入れたらどうかな? それなら22時ぐらいまで時間潰せると思うんだけど……」
「あたし、中学生なのでバイトはちょっと……」
知ってる。
主人公達の一つ年下だから、俺達が一年生の現在彼女は中学三年生というこになる。
だが知っているからと言ってその前提で動けば俺はストーカーになってしまう。
「俺も高校生だ」
「じゃぁ……あなたも悪い人ですね」
「思い付きで妹と焼肉に行ったから帰りの電車賃が二人分なかっただけだ」
俺は嘘を付いた。
「しっかりしているように見えて、案外おっちょこちょいなんですね」
「……」
「まぁなんだ、コレから帰る俺と違ってぶらぶらしてるのはあまりよくないと思う」
「それ、あなた……先輩が言えることじゃないですよね」
「さっきも言ったけど俺は帰るところだし、夜遅い中妹にも歩けとは言えないからな……」
「もしかして……シスコン?」
「グルグルのサジェストみたいな表記するなよ!、そして俺はシスコンじゃない。
可愛くてか弱そうな女の子が深夜歩いてたら危ないだろ?」
「私はまあ慣れてますから、暗いところとか人通りが少ないとことか、繁華街とか行かないようにしてるんで……」
「常習犯かよ」
「友達にも迷惑はかけられないので……」
「ウチに来てもいいって言いたいところだけど、ソレだと俺がヤリモクみたいだしなぁ」
「初手がそれなら即逃げてましたよ」
「……じゃぁ気を付けて帰るんだぞ? 俺は瑞宝の生徒だからもし頼りたくなったら瑞宝まで来てくれ」
「お節介すぎますよ」
違う、誰彼構わず注意するほど俺はお人良しじゃない。
彼女だから構うのだ。
小学校時代の初恋の子に似ている……
そんな葛城綾音をほっておけないから……
駅前のバーガー屋でホットコーヒーを買う。
コンビニのも美味しいが、個人的にバーガー屋の方が舌に合うのだ。
「しっかし今日のは味が悪いな」
サーバーストックが長かったのか酸化して酸味の強い味になっている。
「最悪だ……」
仕方なく追加でパイを購入し、焼肉後のデザートとした。
そのまま帰ろうと思ったものの、原作での葛城綾音の芯の強い性格を踏まえると大人しく帰ったととは思えなかった。
「しゃぁない見に行くか……」
俺は再び駅前に向かった。
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