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話し合いは大事
なんなんや
しおりを挟む長机が階段状に並ぶ広い教室の、一番前の真ん中の席。
そこでタイガは目を擦っていた。
(くっっそ寝られへんかった!!)
頭がぼんやりとしていて重い。
疲れが取れていないせいで体も怠く、このまま机に突っ伏してしまいたい。
今のタイガは鬱々としている。
会う回数が減ったのは忙しいからにしても、泊まっても何もないのはやはりおかしい。
たかが1回ではない。
今までは会えば必ず求められていたのだ。
そんな中、二週間まともに一緒に居られなかった上での1回だ。
(うー……もしかせんでも俺ばっかいつも気持ち良くてラビは全然なんが原因ちゃう? て答えに行き着いてもうたー! でも聞いたかて、絶対いつもみたいに「オレも気持ちいいよ」って言われるだけやんかー! 優しすぎなんも考えもんやー!)
一晩中「なぜラビが発情しなかったのか」考えに考えて思い当たった結論。
情事中、タイガはいつもラビに翻弄されている間に、自分でも訳がわからないままに何度も何度も達してしまう。最後にまぐわった際には、意識が薄れる中でラビが
「10回イッたから、今日はここまでにしようか」
と微笑んでいた記憶がある。
それに対してラビがいつも情事の際に達するのは、1回か2回、多くとも3回だ。
雄として雌との経験もあるタイガは、自分の時を思い返す。比べるものではないと分かってはいるが、ラビは回数が少なく感じる。
タイガと致しても気持ち良くないと体が覚えてしまって、ラビは発情しなくなってしまったのではないか。という仮定に辿り着いてしまったのだ。
この時、タイガの寝不足の頭からは「種族の違い」という重要な可能性がすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「なぁタイガ。次の授業なんやけど」
更に、頭痛の原因がもうひとつ。
欠伸を噛み殺して眉間のツボをぐりぐりと刺激しながら、タイガは右隣に座ろうとする生徒を睨め付けた。
「おい」
「なんや」
「そろそろ飽きへん?」
「何がや」
「俺のストーカー」
他の誰にも見せないような冷え切った態度など気にも止めず、大きな体がピタリと空席を作らず詰めてくる。肘と肘が当たる距離で、男らしく堀の深い顔がニヤリと八重歯を見せて笑った。
「人聞き悪い。講義が同じなだけや」
「ほなせめて席離れぇや!」
そこにいるのが当然のような顔をしているアイトに、タイガは牙を剥く。
それでもアイトは、鼻歌混じりで教科書やノートを広げ始めた。
「君たち仲良いね」
「悪いわ!」
タイガの左隣で成り行きを見守っていたロンが茶々を入れると、タイガは即座に否定する。
そもそも嫌がられることが目的なのだ。怒れば怒るほど喜ばせるだけ。
そうだと分かってはいても、タイガは上手く流せない。
そんなタイガを無視して、アイトとロンはなんの問題もなく会話を始めた。
「ロンもこの講義は一緒なんか」
「うん、必修だからね~。アイトは慣れてきた?」
「おー、なんとかな」
「そういえば頼まれてた資料これだよ」
「おおきにー」
ロンが腕を上げてクリアファイルを差し出すと、アイトがテンポ良く返答しながら受け取った。
「そこでやりとりすな!」
2メートルを超える身長のアイトとロンの交流。
会話も資料の受け渡しも、タイガの頭上で繰り広げられていた。
視線を合わせているふたりの目は確信犯じみていて。タイガは頬杖をついてこれみよがしに長いため息を吐いた。
ロンはいつもこのような調子でタイガを揶揄うが、そこに悪意はないのが分かる。
だが問題はアイトだ。
「嫌がらせの趣向変えたんかお前。前は集団で俺のことをチビやマヌケやて嘲笑うんが趣味やったくせに。お取り巻きおらんからか?」
タイガにしたら、やたらとフレンドリーに絡んでくるのが不気味の一言であった。
タイガとアイトの関係は、席を並べて仲良く講義を受けるようなものではない。
ヒエラルキーの頂点にいたアイトとその他大勢だったタイガは、幼なじみとはいえ親しい仲とは言い難かった。
アイトが一方的に、自分の優位を示したい時にだけ絡んできていたのである。
「そうやったか? ま、あれはあれで俺の愛情やん?」
白々しく笑って肩に腕を回される。
次の瞬間、タイガは勢いよく立ち上がってそれを振り解く。
精神的な余裕がある時であればいつも通り言葉のみで返していただろう。
しかし生憎と本日のタイガは寝不足だ。
相手をすることが面倒になった。
「ロン、俺後ろ行くからちょいどいてくれ」
「はいはーい」
「待てやタイガ」
素直に道を開けてくれるロンとは逆に、アイトは引き留めようと手を伸ばしてくる。が、それも強い力で弾く。
「こっちはお前の顔見んためにわざわざ留学してん。邪魔すんな」
言葉通り。
アイトの方はその後は一切見ずに、タイガは後方の席へと大股で移動して行った。
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