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話し合いは大事
自分のが一番!
しおりを挟むタイガは息を呑んだ。
兎獣人が崖の淵に手を掛け、今にも落ちそうになっている。
それを人相が悪く、明らかに堅気ではないサングラスの猪獣人が下品な笑い声を上げて見下ろす。
『お前のヒーローは現れなかったな! 俺様の勝ちだ!』
『絶対に来るわ! 貴方の卑怯な罠には屈しない!』
『はっはっは! あの世で言い訳でも聞いていろ!』
猪獣人は無情にも兎獣人の足を蹴り上げる。
「あー! あかん! 落ちるー!!」
タイガが声を上げると同時に、猪獣人が画面の外に飛んでいく。
崖から離れた細く小さい手を、逞しく大きい手が掴んだ。
『待たせてすまなかった!』
精悍な顔付きの虎獣人の顔がアップになった。
「よっしゃー! キター!!」
タイガはベッドの上でガッツポーズをとった。
あまりにも勢いが良すぎて、バネの良いベッドが揺れる。
隣に座っていた部屋の主、ラビはバランスを崩して後ろ手をついた。
子どものように目を煌めかせて映画に没頭するタイガを、愛おしげに見つめる。
ふたりが付き合い始めて3ヶ月経った。
今日は学校が休みの日で、一日中ふたりで一緒に過ごせる日だ。
外に出かけることも多いアクティブなふたりであったが、午後からはあいにくの雨予報。
「ラビんちでのんびりしようや!」
というタイガの希望で、お家デートとなったのだ。
「オレの家? タイガの家まで行くぞ?」
と、メッセージを送ったところ返ってきた文言は。
「ラビんちのがベッドデカいやん」
であった。
期待するしかないだろう。
ラビとしては、駅から手を繋いで帰ってきて、家に入るや否や押し倒したい気持ちでいっぱいであったのだが。
タイガはいそいそとカバンから映像データディスクを取り出し、差し出してきた。
「これな! ガキのころからめっちゃ好きやったやつのリメイクやねん! ラビと観たくて我慢しとったんや!」
「……観よう。何か飲むか?」
童心に返った笑顔弾ける可愛い恋人に、それ以外に言葉は見つからなかった。
ラビの体格に合わせた「デカいベッド」の上で、ぴょこぴょこ跳ねながらタイガはご満悦である。
「たーのしかった! やっぱりヒーローはええな! 強くてかっこよくて」
「タイガは、ああいう男が好きか?」
「好きやないやつおらんやろ! 憧れるわ~! 自分もギリギリの状態やのに、好きな子のピンチに駆けつけるとかな~!」
頬を紅潮させ大興奮で身振り手振り付けながら話すタイガに、ラビは温かい気持ちで目を細めた。
しかし、少し複雑でもある。
(もっと鍛えようかな……)
「それに、ヒロインの子も可愛かったやろ?」
「そうかな」
「ちっちゃくて主人公のこと大好きで、守ったりたーい! て感じやん!」
自分の体を抱きしめるようにして、尻尾も耳も小刻みに震わせている。よっぽど楽しかった証拠だ。
ラビはヒロインの兎獣人を思い出す。
ふわふわとした茶色いロップイヤー、愛らしい大きな黒い瞳と小さな体。
兎の国から最近世界進出した、癒し系と名高い雌の役者だ。
「……タイガ、ああいう感じが好きか?」
自分の大きな足へとラビは視線を落とし、同じ質問を重ねる。
「そらかわええしな! でも……って、ラビ、なんちゅう顔してんねん!」
ご機嫌だったタイガは、隣に座る恋人の表情が曇りきってしまったことにようやく気が付いたようだ。
顔をよく見ようと慌てて白い頬に触れてくるが、一回り大きい手がその手首を強く掴む。
「オレはデカくて守りたいと思うタイプじゃないし可愛くないけど」
「ま、待て待てラビ! 最後まで」
「タイガのことは大大大大好きだ」
映画のヒロインに負けてはいられない。
真剣そのものの顔を、みるみる赤く染まっていく顔に近付ける。
「……っ! お、俺かて、いや」
だが、唇同士が触れ合うかどうかのところでタイガが自由な方の手で肩を押してくる。
ムッと眉を顰めると、琥珀色の瞳が真っ直ぐ赤い瞳を射抜いた。
「俺はも――っとお前のこと好きやで!」
何故か挑戦的な声で告げられた言葉に、ラビは一度瞬く。少し話がズレている気がするが、強気に目を光らせた。
「オレの方がもっともっともっと好きだ」
「俺のが好きやって! ラビはかっこよくてかわいくて、優しいし! お前の好きより俺の好きのが絶対大きい!」
「タイガも可愛くて明るくて楽しくてかっこよくてえっちで大好きだ」
「いや最後の余計やろ!」
べシンっとテンポ良く額を叩かれ、不毛な言い争いに終止符が打たれる。
絶妙な力加減で、いい音がした割には全く痛くない。
ラビはフッと口角を上げて、タイガの頬に口付けた。
「大事だろ」
「ま、まぁ……て、なんやこのアホみたいな会話」
両手で顔を覆い、俯いてため息を吐く。
顔を隠しても、呆れたような声を出しても。
赤く染まった首と落ち着かな気に動く尻尾が「嬉しい」と「恥ずかしい」が混ざった感情を伝えてくる。
「タイガが始めたんだぞ」
「ラビが最後まで聞かんからやろー?」
「なんだ?」
問いかけると、ようやくタイガは顔を上げる。
「俺のうさちゃんには負けるけどな、て」
照れくさそうにはにかむタイガを、ラビは無言で抱きしめた。
勢いよく唇を合わせ、そのままベッドに倒れていく。
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