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出会ってびっくり

元凶はのらりくらりと

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 学園内のカフェで、本を捲る。
 図書館にあった本は畏まった医療書であるが、タイトルは「種族別の発情期」である。

(小難しく書いとるけど……つまり、親しい相手に発情するんやな。そうやなくても雌相手なら一定時間一緒に居ることで発情することもある......か。そら大変や)

 読み慣れない文体に唸りながらも読み進める。
 自分は雌ではないから、気を許してもらえればラビが発情するかもしれないのだと、タイガは納得した。

(万年発情期っちゅう割になんもやと思ったら、そういうことなんやな)

 出会ってから何をするにも楽しそうにしている大きな兎獣人を思い出す。一か月ほど経つが、特に兆候はない気がする。
 敢えて言うならスキンシップが増えたくらいだろうか。恋人にするように首元に鼻を擦り寄せてきたり、後ろから抱き締めてきたり。

(昨日とか耳嗅いでくるからこっちが発情するかと……あかん、思い出したらまた……ん?)

 昨夜、ラビと離れて家に帰ってからのことを思い出し、開いていた足を組む。耳への刺激のせいか、体が疼いて久しぶりにひとりで処理することになった。
 それを思い返しながら何かが引っ掛かる。ひとまず下半身を落ち着けるためにひとりで首を捻り、コーヒーの入った紙コップに手を伸ばす。するとそのタイミングで、目の前に緑の髪、そして人の顔が逆さに降りてきた。

「おわぁ! ロン!」

 タイガは咄嗟に本を開いたまま、上に覆いかぶさった。

「やぁ、何を読んでるんだい?」

 覗き込んできた龍人のロンは、黄金の瞳を爽やかに細めて笑う。ほぼ確実に、何を読んでいたか把握している顔だった。
 ラビが規格外の体格の雄であることを黙って、タイガに引き合わせた張本人だ。
 タイガは授業のプリントを挟んだ分厚いクリアファイルを、手探りでテーブルの下に置いたリュックから探し出す。本を隠すようにそれを素早くテーブルに乗せた。
 そして、座ったままロンを見上げて声の音量を落としながらも凄んだ。

「お前! この1か月! 連絡を全っ部スルーしよってからに!」
「あれー? 言ってなかったかい? 1か月実習で連絡とれないって」
「知っとるわ! 自由の身になった瞬間に連絡してこんかい!! こんの詐欺龍!!」
「えー? 何か嘘ついたっけ? さすがにメッセージ50件は怖すぎて開く気にもならなかったからさぁ」
「自業自得や!」

 のらりくらりと言葉を受け流していくロンに対して、タイガの声のボリュームがどんどん上がっていった。
 顰めていた声が完全に怒鳴り声に変貌を遂げ、カフェに響き渡ってようやく、すらりと背の高い竜人は手を合わせた。

「ごめんごめん、どうだった? 美味しくいただかれた?」

 タイガの隣の席を引いて腰を下ろすと、興味深そうに覗き込んでくる。中性的な美しい顔が間近に迫ってきたので、タイガはその額にゴツンッと戯れる程度に頭突きをした。

「なんで俺がうさちゃんにいただかれると思うんや。健全に釣りやら映画やら仲良うしとるわ」
「えっ」 

 額を合わせたまま微笑んでいたロンが目を丸くして顔を離す。タイガは前髪を掻き上げて訝しげに眉を寄せた。

「なんや」
「普通に遊んでるんだ。紹介しといてなんだけど、タイガが雄もいけるとは意外だな」

 言葉通り意外そうな声を出しながらさりげなく飲み掛けのコーヒーに伸ばされたロンの手をタイガは叩き落とす。「ケチ」と唇を尖らせる相手に、フンッと鼻を鳴らして紙のカップを掴んだ。

「ほんまにお前が言うな、やで。発情期きて相性良かったらこの後のことも考えよかってな。1回くらい男抱くんもおもろいんちゃう。知らんけど」
「ふーん、1回抱く、ねぇ」

 愉快そうな、何か含みがあるロンの表情と声にタイガは鳥肌が立った。第六感が、問い詰めておけと警告を発する。

「嫌な顔やな。まだなんか隠しとんやったら吐けや」

 牙をちらつかせて凄むタイガに対し、ロンは戯けた様子で肩に腕を回すと、頬を擦り寄せる。

「何にもないよやでー」
「うわきっしょ! その喋り方、止」

 ダンッ!!

「おお!?」
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