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出会ってびっくり

意外と似たもの同士

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「兎獣人、雌雄合わせての平均身長が160センチやって聞いたで。雄にしてもおかしいやろ、お前なんぼあるん」
「オレも虎獣人って聞いてたけど、トラ猫の方とは思わなかった」
「こんなでっかい猫ちゃんおってたまるか! いや目の前におったわ規格外の兎ちゃんが!!」

 スプーンから口を離し、真顔で静かに放たれたラビの言葉に、タイガは尾を膨らませてひとりでノリツッコミする羽目になった。
 肉食獣人が荒っぽく吠えようとも、ラビが怯む様子はない。兎獣人は臆病だから庇護欲をそそられると聞いていたが、実際はそうでもないらしい。

(デカい分、コイツが特殊なんかもやけど)

 ラビは、クリームのてっぺんにあるいちごを突きながらタイガを見つめてくる。

「虎獣人って、俺くらい……2メートルぐらいあるのが普通のイメージだった」
「あっはっは! よう知っとったなその通りや! ……うん」

 無遠慮にモノを言うラビに対してタイガは黒いメッシュが入った金髪を揺らして豪快に笑った。そして、フッと短い息を漏らした。
 虎獣人の一般的な身長よりも20センチも低いタイガは、自嘲気味に笑う。
 そんな様子を見て、ラビはスプーンを動かす手を止めた。

「気にしてたんなら悪かった」
「いや、言い出したんは俺や。堪忍な。デカい方がええ文化で育っとって。肩身狭いんは同じやんな」

 予想を大きく裏切られた上に、自分よりも大きい兎獣人という衝撃で、言わなくてもいいことを言ってしまったと反省する。
 それにしても、自分たちを引き合わせた龍人はとんでもないことを隠していたものだ。

(せめて雄か雌かは言うとけや)

 タイガは落ち着かない気持ちになってきて、普段は触らない砂糖の入れ物の蓋を開ける。

「俺が虎獣人の雄っちゅうんは」
「聞いてた。俺が雄が好きなの、あいつ知ってるから」
「へー、そうなん。ほながっかりしたやろ。虎獣人の雄ならお前くらいガタイがええの想像したやろし」

 白く四角い甘味料をコーヒーに入れ、黒い水紋を見下ろす。

 逞しく精力のある虎獣人は、雌雄共に同性にも人気がある種族だった。
「抱かれたい」と思ったならば、自分では物足りないはずだと口の片端を上げて手を振る。
 しかし、ラビはハッキリと首を左右に振った。

「特別、体の大きさにこだわりがあるわけじゃない。でも、兎獣人みたいな小柄な種族だと発情期はヤりにくい」
「せやろな」

 相槌を打ちながら砂糖の溶けたカップを口にしたが、慣れない甘さに眉を寄せる。
 基本的に、体が大きい方が小さい方を抱く方がやりやすい。160センチの兎獣人が200センチのラビを、となると至難の業だ。
 大型の種族にあたるのが無難だろう。

「でも、君は小柄な女の子が良かったんだろ? そもそも、大きい兎獣人なんてどこにも需要ないけど」

 彼の目のように赤い苺ソースをガラスの器の中でかき混ぜながら、さして気にしてもいないように言葉を紡いでいる。
 しかし、タイガにはその言葉は諦め切って悲しむことすら止めたからこそなのだと解る。

 獣人には良くも悪くもそれぞれのイメージが付き纏う。
「兎獣人は小柄でかわいい」「虎獣人は逞しく強い」「牛獣人は真面目で穏やか」など、そのイメージからあまりにもかけ離れていると勝手にガッカリされるのだ。
 虎獣人の中では小柄とはいえ、他の種族と比べると体が大きい部類にタイガは属する。明らかに規格外のラビに比べると、まだマシだと言えるだろう。

「相手が小さいと、自分が大きく思えるって、それだけやけどな俺のは」

 親近感が湧いてしまったからだろうか。
 思わず本音が漏れた。
 ふたりの間に気まずい沈黙が流れ、周りの声がやけに大きく聞こえる。

(まぁ、万年発情期っちゅう噂に釣られたんもあるけど……あ)

 思い出した途端に、口を動かしてしまった。

「万年発情期ってほんまなん?」

 常識的に考えると、初対面でする質問ではない。しかし、もしかするともう会うこともないかもしれないのだ。気になることは聞いておかなければもったいない。

「あー、まぁ。条件が揃えば」

 この時「条件」という単語はスルーすべきではなかったのだが、今のタイガは知るよしもない。
 ただ、その「万年発情期」というものがどのようなものなのか気になった。
 何より、配慮も何もない自分の質問にサラリと答えるこの大きな兎獣人に、少し興味が湧いた。

「ならある程度処理せな辛いやろ。1回くらいなら付き合うで」
「え」

 カチャンッと高い音を立てて、金属のスプーンがガラスの器に当たり、下に落ちていく。
 それが床に触れる前に、タイガは素早く手を伸ばして受け止めた。

「俺よりデカい雌と付き合ったことあるしな。いけるやろ」
「いや」

 差し出したスプーンに気がつかないかのように、ラビは長い耳をピンと立てて唖然とタイガの顔を見つめている。
 言葉を無くすラビが可笑しくて、固まってしまった白い手を取ってスプーンを乗せた。

「ネコ科の雄は相手の発情期に促されて発情すんねん。やから、まぁ……よっぽど相性悪ぅなかったら雄も抱けるんちゃうかな」

 軽い口調で告げながら、口角を上げて見上げる。
 しかし、慌てた様子で手首を掴まれた。スプーンは結局、テーブルに転がる。
 なんだ、と首を傾げると、ずっとマイペースな口調だったラビが早口になる。

「勘違いしてる気がする。セフレ探しに来たわけじゃないし、オレは」
「ええやん。なんやおもろそうやし~体格に悩まされとる同士仲良うしよや! 相性良かったら付き合うんもありやし、とりあえず発情期までな! 兎獣人の雄のこと調べとくわ」

 真面目に恋人を探すつもりだったのはタイガも同じであった。が、元々深くは考えない性質のせいで強引なまでに自分のリズムに相手を巻き込んでいく。

 勢いに押されて、手首を掴むラビの手が緩んだ。

「仲良く……」
「ちゅうわけで、うさちゃん」

 赤い瞳が揺れるのを見て、指の長い手を両手でギュッと握る。
 発達した大きめの八重歯を見せてニッカリと明るい声を出す。

「体動かすん、好きか?」

 その日はアスレチックに行って、とっても疲れて帰った。
 大きい兎の運動能力は半端ではなく、本気で競争した結果だった。
 
 
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