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出会ってびっくり

思ってたんとちゃう!

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「どうも、ラビです」

 ふわふわとした白く長い耳、それと同じ色の短い髪。くっきりとした二重に真紅の瞳の綺麗な顔。
 透き通るような白い肌はきめ細かく滑らかで。
 聞いていた情報と違わない兎獣人がそこには立っていた。
 そう。
 嘘は、つかれていない。

「どうも、タイガです……」

 名乗りながら、虎獣人のタイガはもう逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
 恐怖で尻尾を足の間に挟みたくなるのを堪えながら作り笑いを浮かべて相手を見上げる。
 
(でっっっっかっっっっ!!)
 
 兎獣人のラビは、虎獣人のタイガより頭一つ分は大きい雄だった。
 
 ◆
 
 タイガは虎の国出身の学生だ。
 現在は牛の国に留学中の身だった。
 コツコツと堅実な学びを得られる牛の国には留学生が多い。
 さまざまな生徒と交流する内に「兎獣人は万年発情期でヤりやすい」という噂話になった。
 いつでも発情できる種族自体は珍しいことでもない。
 しかし一般的に「小柄で可愛らしい兎獣人」が、というのは耳寄り情報だ。

「ええな~兎ちゃんやったら俺のこともかっこいいって言ってくれそうやし、発情期なんていくらでも付き合うわ~」

 軽く話に乗ったタイガに、その場にいた龍人の友人が言ったのだ。

「兎獣人でフリーの友だちがいるから紹介しようか? 色白で赤い眼の綺麗な子だよ」
(色白で赤い眼の兎獣人ちゃんか)

 タイガの頭の中では完全に綺麗系で小柄な可愛らしい女の子が出来上がってしまった。
 
 だというのに。

「完璧な出落ちやったな」

 タイガは喫茶店のテーブルにコーヒーカップを置いて、盛大な溜息を吐いた。
 目の前でいちごの乗った生クリームたっぷりの煌びやかなパフェを食べている美形に琥珀色の瞳を向ける。
 全体的に雪のように白い髪、耳、肌。
 広い肩幅、長袖を着ていても分かる筋肉のついた腕、柄の長いスプーンを持つ骨張った大きな手。顔も体も丸みが少ない骨格。
 どう見ても立派な雄である。

(間違いなく『綺麗な兎獣人』やけど)

 顔を合わせた時には冷たい印象を受けたつり気味の目は、今は甘味によって少し目尻が下がって幾分柔らかい雰囲気になっている。

 右手でこめかみを抑えて、タイガはラビを眺めた。
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