選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

きよひ

文字の大きさ
上 下
33 / 33
番外編

初めてのクリスマス 終

しおりを挟む
 それにしても危なかった。
 変な覚悟を決めてたぞ俺のアホ。大和がそんなこと考えてるわけないだろ。
 肩から力が抜けた俺は、小さく息を吐いて頷いた。

「分かった。じゃあ大和、目、瞑って」
「うん」

 手を下ろした大和の瞼が降りる。
 長いまつ毛、スッと通った鼻、薄めの綺麗な形の唇、赤いままの頬に整った輪郭。
 今更だけど、本当にイケメンだ。触れるのを躊躇するくらい輝いて見える。

 こんなにイケメンで頭もいいのに、コミュ障だから全然モテなくて、恋人も俺が初めてで。

 それなのに俺に気を遣ってキスができなかったから、こんなプレゼントになったんだなって思うと少し申し訳ない。
 後で何か物も買おうと決意する。

 俺が両頬に手を添えると、大和の唇がピクッと引き締まった。緊張してるんだと思うと、なんだか可愛らしくも感じる。

(好きだなぁ)

 俺はギュッと目を瞑って、唇と唇をそっと触れ合わせた。それだけで、頭のてっぺんから足の先まで幸福感で満たされる。

 しかし、すぐ俺の限界がきた。
 もう少しそのままでいたい気持ちとは裏腹に、一瞬で離れてしまう。
 目を開けた大和は、俺の手の中で照れ臭そうに笑った。

「蓮」
「う、ん」
「もう一回」
「う……ん」

 やっぱり短すぎたよな。俺はもう一回同じように静かにキスをした。
 すると、今度は大和の手が頭の後ろに添えられる。強く押されているわけでもないのに、それだけで簡単には離れられなくなった。

「……っ、ん」

 緩く動く大和の唇に合わせて、俺も顔を傾ける。口の中に熱い吐息を感じて、背中がゾクゾクする。頭がジンっと痺れる久々の感覚に、眩暈がする。

 どのくらいそうしていただろう。

 大和が満足して離れた時には、俺は完全に息が上がってて大和に体を預けていた。

 力を込めて俺を抱きしめた大和は、声を弾ませる。

「蓮、ありがとう!」

 嬉しそうな声が愛しくて、胸が痛い。
 恋人はもっとたくさんこういうことをするはずなのに、全く出来てなかった。どうしても俺の声は沈んでしまう。

「ごめんな、俺……全然こういうの出来なくて」
「特別な時だけでいいんだ。無理しないで、少しずつ慣れよう」

 大和は優しい。コツンと額と額を合わせて、へらりと笑っている。

「僕だって、もう口から心臓出てきそう」
「出てきたら押し戻してやるよ」
「口で?」
「それはやだ」 

 おどけて俺の気持ちを軽くしてくれたのが分かるから、早いところスキンシップに慣れたいって思う。本当は、俺だってもっと大和と色々したい。そう、色々と。

 決意を新たにしていると、俺の心を読んだかのように大和が首を傾げてきた。

「蓮は何がほしい?」
「え?」
「クリスマスプレゼント」
「……えっと……」

 お前と色々したい。
 具体的にやりたいことがあるけれど、言いにくくてモゴモゴと口の中に言葉が溜まっていってしまう。

 察しのいい大和は、俺の頭と口の中がパンパンになる前に柔らかく背中を叩いてくれる。

「蓮。ちゃんと言わないと俺のおすすめのアニメグッズになるよ」

 ごめん、それは本当に要らない。
 俺は慌てて口の中にある言葉を組み立てて文章にした。

「で、デートしたい」
「え?」
「前みたいに、丸一日……冬休み、終わってからで良いから」

 バイト中やバイトが終わった後に大和とは一緒に過ごせるものの、一日中出掛けることはなかった。大和がいつも勉強で忙しいのは仕方がないことだから文句は言えないけど、たまには一日中一緒にいたい。 

 大和の時間を、独り占めしたかった。

 困らせたんじゃないかと、俺はソワソワと返事を待つ。
 目を丸くした大和は、すぐに破顔した。

「お正月」
「え?」
「初詣にいって、それからデートに行こう。塾休みなんだ」
「そう、なのか」

 俺はどうしようもなく口角が上がった。
 嬉しい。嬉しい。嬉しい。

「嬉しい」

 そのまま声になった時、大和が抱きしめてくる力を強めてきた。更に、グイグイと体重をかけてくる。

「や、大和……っおお!?」

 自分よりも大きな体を支えきれなくなった俺は、そのまま布団にバタンっと倒れ込んだ。
 場所を上手く調整してくれたみたいで痛くはないけど、恋人に抱きしめられたまま布団に寝転がっている。

 この状況に焦らない人間がいるだろうか。

「な、なななに」
「このまま寝たい」
「へ!?」

 淡々といつも通りの声で大和は言ったけれど。

(寝たい、だと? 寝たいって、つまり……どっちの寝たいだ!?)

 声に出していいのか分からない疑問が頭を支配したけれど、その答えはすぐに出た。

「抱きしめて寝たい」
「あ、そういう……ど、どうぞ……?」

 また俺は早とちりしてしまった。仕方ないだろ。そういう年頃なんだから。

 でも俺と違って清廉潔白な大和がそんなこと言い出すなんて、きっともっと先の話だから安心しておこう。それまでに、俺も心の準備とかできるといいな。

 大和の体温が心地よくて、少しドキドキするけど、のんびりとした気持ちで頭を撫でてやる。
 すると首に鼻先を摺り寄せられてくすぐったい。
 ボタンが空いた胸元に大和の肌が当たる上、なんだか匂いを嗅がれてる気がする。犬みたいだ。
 俺は身を捩って笑ってしまった。

「大和、くすぐったいって」
「僕のパジャマ着てる蓮が可愛いから仕方ない」
「なんだそりゃ」
「それに、目の毒」
「何がだよ」

 大和は真面目に言ってるみたいだけど、本気で意味がわからない。
 お前の裸が一番目の毒だろって思ったけど、俺は恥ずかしくて口を閉ざすしかなかった。
 
 
 夜中、真っ暗な中でゴソゴソと隣で動く気配がする。その動く何かが俺に近づいてきて、ふわりと髪を撫でてきた。

「僕が意気地なしで良かったねぇ」

 何の話だろう。
 九割寝ている頭では何も分からなかった。
 優しい手つきが心地よいことだけは間違いない。

 結局その時に俺の意識は浮上せず、朝には全て忘れていて。
 起き上がった時にボタンが上まで全部とまってたのにも、何の違和感も覚えなかったのだった。
 
 
              おしまい
しおりを挟む
感想 9

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(9件)

蜂蜜堂
2024.12.29 蜂蜜堂
ネタバレ含む
2024.12.29 きよひ

蜂蜜堂さん、コメントありがとうございます!

とても嬉しいお言葉!
2人とも、頭や心で考えていることはたくさんあれど実際に行動に移せるのはこの後もゆーっくりになりそうです!
こちらこそ、お読みいただき本当にありがとうございました!

解除
金浦桃多
2024.12.29 金浦桃多
ネタバレ含む
2024.12.29 きよひ

金浦さん、お読みいただきありがとうございます!

2人とも、意識しまくってますね😚
ジリジリと前進しつつ、段階を経て恋人って感じになっていくことでしょう!

本当に年内セーフです!やっと私のクリスマスが終わりました!🤣

解除
もくれん
2024.12.14 もくれん
ネタバレ含む
2024.12.14 きよひ

もくれんさん、お読みいただきありがとうございます!

嬉しいお言葉の数々!
可愛いキュンを目指してたので感激です✨

はい、実は男子高校生……ではなく男子高校生BLを読み漁っているのです!🤣
人と関わるの、本当に難しいですよね……!
このくらいの子たちで「苦手」を感じる子は、もっと手探りかなぁって思って書きました!
サブキャラたちはもう……勢いがね!🤭

その後も想像すると、私もたのしい二人です〜
本当にありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

君が僕を好きなことを知ってる

大天使ミコエル
BL
【完結】 ある日、亮太が友人から聞かされたのは、話したこともないクラスメイトの礼央が亮太を嫌っているという話だった。 けど、話してみると違和感がある。 これは、嫌っているっていうより……。 どうやら、れおくんは、俺のことが好きらしい。 ほのぼの青春BLです。 ◇◇◇◇◇ 全100話+あとがき ◇◇◇◇◇

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい

古井重箱
BL
【あらすじ】三塚伊織は高校一年生。嬉しいと周囲に花を咲かせてしまう特異体質の持ち主だ。伊織は感情がダダ漏れな自分が嫌でモブになりたいと願っている。そんな時、イケメンサッカー部員の鈴木綺羅斗と仲良くなって──【注記】陽キャDK×陰キャDK

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

突然現れたアイドルを家に匿うことになりました

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。 凪沢優貴(20)人気アイドル。 日向影虎(20)平凡。工場作業員。 高埜(21)日向の同僚。 久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。