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第三章
分かりみが深い
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「……これは止めとくか」
見た瞬間、思わず口に出るくらいやばいと感じる。
背の高い木に生える葉っぱたちが空を隠しているせいで薄暗い森を、ザクザクと歩いてきた。
途中から、空気が物理的に重くなっているように感じる道のりだった。
そしてたどり着いた、立ち入り禁止の洞窟。
目に見える気がするほど、濃厚な魔力が漏れ出ている。
意外と、禍々しいとは感じないが。
嫌な予感しかしない。
「そう、だな」
魔術には疎いが、やはり戦う人間の勘というものだろうか。
表情を引き攣らせたエラルドは、私の言葉に素直に頷いた。
先頭を歩いていて、少し離れたところで足を止めたバレットは。
「別に良くないか」
良くないだろ。
危ないと思ったから止まったんじゃないのか。
でもこういうキャラの第六感は信頼できる気がする。
後で私一人で来ても大丈夫かもしれない。
そして、いつも以上の顰めっ面で洞窟を睨みつけていたアレハンドロはサッと背を向けた。
銀色の髪がさらりと靡く。
「満足した。引き返すぞ。おそらく長居しない方がいい」
決定だ。
とりあえずは引き返すことになった。
こういう時は好奇心旺盛な皇太子さまに決定権がある。
よかった意外とまともな判断をしてくれて。
「え、なんですか? 別に普通の洞窟じゃ……」
ちょっと息切れしているネルスだけは頭に疑問符を浮かべている。
危機察知能力が低くて心配になるなこの坊ちゃんは。
同じ箱入りでも、幼いころに皇帝と各所を旅して回ってたアレハンドロの方が鼻が効くのか。
それとも皇室内の大人の事情に揉まれて、危ないことに敏感なのか。
とにもかくにも、誰かが行きたいとゴネても私は強制退去させる心算になっていたから安心した。
「よし、じゃあドラゴンの方に行くか。スタート地点に戻るぞ」
魔術でいっきに振り出しに戻ろうと、私は皆んなに両手を伸ばした。
(隙を見て離脱して、後で私だけでここに来ようっと)
4人が私の手に触れたのを確認すると、私たちの周りが光りだす。
私は引率の教師たちの魔力を辿って、森の入り口まで戻る魔術を発動した。
(……でも、なんでこの洞窟を魔王の調査隊は見逃したんだろう)
そんなことを思っているうちに、教師の目の前に移動した。
教師はひっくり返りそうな勢いで驚いていた。
ごめんね。
「魔術でスタート地点に戻るのっていいのか?」
「歩いてたら間に合わないかもしれないからな」
ネルスが今更、ルールブックをパラパラと捲り出した。
私は出発前に軽く目を通したけど、禁止事項の中に「魔術で移動」というのは入っていなかったはずだ。
というか、ネルスがしんどそうだから魔術にしたんだけどね。
ルールブックを確認し終えたネルスは、私の方を見上げてきた。
怒ってないところを見ると、やはり禁止ではなかったようだ。
「シンは、魔術でドラゴンのところまで飛んでいけるか?」
曇りなきまなこで、ものすごい楽をしようとしている。
出来なくはない、というか余裕で出来る。
ドラゴンの魔力は強大だ。
そちらに意識を向けて、魔術を発動して移動すればいいだけなのだ。
だが一応「みんなで力を合わせてドラゴンに会いに行こう」という学校行事なので、嗜めることにした。
「それじゃあつまらなくないか? せっかくのサバイバルなのに」
「僕はドラゴンに会えればルートはどうでもいい。早く会いに行って時間ギリギリまでドラゴンの近くに居たい」
優等生のネルスがドラゴンオタクを丸出しにして、はっきりキッパリと言い切った。
分かりみが深い。深すぎる。
さっさと目的地に到着して、好きなものに浸りたいよね。
そもそも私も、サバイバルに興味なんて皆無。
気持ちが分かりすぎてどうしたもんか迷っていると、エラルドが手を合わせた。
「ネルス、俺たちの訓練に付き合ってくれよ。要人を守りながら動く練習。実際にはシンみたいな魔術師がそばにいる可能性は低いから」
「そ、そうか。それなら仕方ないな……」
残念そうなネルスではあったが、エラルドに優しくお願いされると逆らえる人間はいない。
仕方ないな。歩くか。と私も思う。
「体力ない貴族を背負って逃げることもあるかもしれないしな」
「それは僕のことかバレット」
要らんことを言うなバレット。
確かにネルスは体力がなくて、あの洞窟に向かうまでにすでに疲れていたけども。
それもこれも、先頭を歩いたバレットの足が早すぎたのも原因なのだから。
そう考えていたのは私だけではないらしい。
アレハンドロがネルスの細い方をポンっと叩く。
「ネルス。体力バカに一般的な人間の歩幅に合わせるということを教えてやるのも、大切なことだ」
言えてる。
そしてネルスを「一般的な人間」と言ってあげる優しさ。気遣い。成長している。
まぁ、バレットはちょっと普通の人間を知る必要がある。
深窓のお嬢様を護衛して逃げることがあるかもしれない。
いや、そんな漫画みたいなことあるかな。
この世界ならあるかもしれないもんな。
ひとまず、ネルスはアレハンドロの言葉には納得して深く頷いた。
「残念ですが、わかりました」
エラルドはそれを聞くとにっこりと笑顔を見せ、ネルスの頭を撫でた。
「どうしてもしんどくなったら、俺がおぶっていくから無理はしちゃいけないぞ」
はー。
優しい。
好き。
見た瞬間、思わず口に出るくらいやばいと感じる。
背の高い木に生える葉っぱたちが空を隠しているせいで薄暗い森を、ザクザクと歩いてきた。
途中から、空気が物理的に重くなっているように感じる道のりだった。
そしてたどり着いた、立ち入り禁止の洞窟。
目に見える気がするほど、濃厚な魔力が漏れ出ている。
意外と、禍々しいとは感じないが。
嫌な予感しかしない。
「そう、だな」
魔術には疎いが、やはり戦う人間の勘というものだろうか。
表情を引き攣らせたエラルドは、私の言葉に素直に頷いた。
先頭を歩いていて、少し離れたところで足を止めたバレットは。
「別に良くないか」
良くないだろ。
危ないと思ったから止まったんじゃないのか。
でもこういうキャラの第六感は信頼できる気がする。
後で私一人で来ても大丈夫かもしれない。
そして、いつも以上の顰めっ面で洞窟を睨みつけていたアレハンドロはサッと背を向けた。
銀色の髪がさらりと靡く。
「満足した。引き返すぞ。おそらく長居しない方がいい」
決定だ。
とりあえずは引き返すことになった。
こういう時は好奇心旺盛な皇太子さまに決定権がある。
よかった意外とまともな判断をしてくれて。
「え、なんですか? 別に普通の洞窟じゃ……」
ちょっと息切れしているネルスだけは頭に疑問符を浮かべている。
危機察知能力が低くて心配になるなこの坊ちゃんは。
同じ箱入りでも、幼いころに皇帝と各所を旅して回ってたアレハンドロの方が鼻が効くのか。
それとも皇室内の大人の事情に揉まれて、危ないことに敏感なのか。
とにもかくにも、誰かが行きたいとゴネても私は強制退去させる心算になっていたから安心した。
「よし、じゃあドラゴンの方に行くか。スタート地点に戻るぞ」
魔術でいっきに振り出しに戻ろうと、私は皆んなに両手を伸ばした。
(隙を見て離脱して、後で私だけでここに来ようっと)
4人が私の手に触れたのを確認すると、私たちの周りが光りだす。
私は引率の教師たちの魔力を辿って、森の入り口まで戻る魔術を発動した。
(……でも、なんでこの洞窟を魔王の調査隊は見逃したんだろう)
そんなことを思っているうちに、教師の目の前に移動した。
教師はひっくり返りそうな勢いで驚いていた。
ごめんね。
「魔術でスタート地点に戻るのっていいのか?」
「歩いてたら間に合わないかもしれないからな」
ネルスが今更、ルールブックをパラパラと捲り出した。
私は出発前に軽く目を通したけど、禁止事項の中に「魔術で移動」というのは入っていなかったはずだ。
というか、ネルスがしんどそうだから魔術にしたんだけどね。
ルールブックを確認し終えたネルスは、私の方を見上げてきた。
怒ってないところを見ると、やはり禁止ではなかったようだ。
「シンは、魔術でドラゴンのところまで飛んでいけるか?」
曇りなきまなこで、ものすごい楽をしようとしている。
出来なくはない、というか余裕で出来る。
ドラゴンの魔力は強大だ。
そちらに意識を向けて、魔術を発動して移動すればいいだけなのだ。
だが一応「みんなで力を合わせてドラゴンに会いに行こう」という学校行事なので、嗜めることにした。
「それじゃあつまらなくないか? せっかくのサバイバルなのに」
「僕はドラゴンに会えればルートはどうでもいい。早く会いに行って時間ギリギリまでドラゴンの近くに居たい」
優等生のネルスがドラゴンオタクを丸出しにして、はっきりキッパリと言い切った。
分かりみが深い。深すぎる。
さっさと目的地に到着して、好きなものに浸りたいよね。
そもそも私も、サバイバルに興味なんて皆無。
気持ちが分かりすぎてどうしたもんか迷っていると、エラルドが手を合わせた。
「ネルス、俺たちの訓練に付き合ってくれよ。要人を守りながら動く練習。実際にはシンみたいな魔術師がそばにいる可能性は低いから」
「そ、そうか。それなら仕方ないな……」
残念そうなネルスではあったが、エラルドに優しくお願いされると逆らえる人間はいない。
仕方ないな。歩くか。と私も思う。
「体力ない貴族を背負って逃げることもあるかもしれないしな」
「それは僕のことかバレット」
要らんことを言うなバレット。
確かにネルスは体力がなくて、あの洞窟に向かうまでにすでに疲れていたけども。
それもこれも、先頭を歩いたバレットの足が早すぎたのも原因なのだから。
そう考えていたのは私だけではないらしい。
アレハンドロがネルスの細い方をポンっと叩く。
「ネルス。体力バカに一般的な人間の歩幅に合わせるということを教えてやるのも、大切なことだ」
言えてる。
そしてネルスを「一般的な人間」と言ってあげる優しさ。気遣い。成長している。
まぁ、バレットはちょっと普通の人間を知る必要がある。
深窓のお嬢様を護衛して逃げることがあるかもしれない。
いや、そんな漫画みたいなことあるかな。
この世界ならあるかもしれないもんな。
ひとまず、ネルスはアレハンドロの言葉には納得して深く頷いた。
「残念ですが、わかりました」
エラルドはそれを聞くとにっこりと笑顔を見せ、ネルスの頭を撫でた。
「どうしてもしんどくなったら、俺がおぶっていくから無理はしちゃいけないぞ」
はー。
優しい。
好き。
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