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第一章

資格が必要ですか?

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「エラルドは、剣はどんな調子だ?」

 話が一段落すると、ネルスが今度はエラルドに話を振った。

「先輩たちも相手をしてくれていい感じだよ。ここは設備も整ってるし、広いから剣術も体力作りもしやすくていいな」

 笑っているエラルドを見ながら、初めて剣術の修練場へ行く際に、ついて行った時のことを思い出す。
 
 
 剣の修練場は、好きな時にいつでも使える。
 屋根はあるが壁はなく、石の柱だけが何本か立っていた。
 石畳の敷かれている床には剣の練習器具の棒が立っている、いかにもな場所だ。

 剣術の授業でも使うが、放課後に行ったため、その場に居たのは騎士の家系の生徒が多いようだった。
 産まれた時から、戦うために育てられた戦士たちだ。

 各々好きなスタイルの稽古着を着ていて、かーっこいい。
 筋肉も、目の保養。

 エラルドと私が名乗ると、「お貴族さまが何か用か?」という空気になってしまったが。

 体格の良いエラルドはともかく、キラキラお貴族代表のような外見の私は、完全に「聖域に入ってきた異物」のような目で見られていた。
 
 いや、私、魔術無しでもめちゃくちゃ強いんですよ。
 チートなので。
 授業の時とかは手を抜いてるけど。面倒だから。

 スポーツマンシップに則ると、本気を出さないのは相手に失礼かもしれない。
 しかし私はスポーツマンではないので全く気にせず、必要なければほどほどにする。

 怪我をするのもさせるのも嫌だ。
 
 そうは言っても、私は本当に見に来ただけなので何も言えない。
 しかしエラルドは騎士になる目標のために頑張ろうとしているだけなのに。
 この空気、どうしたものか。

(部活とかじゃないし、好きに使って良いんだから端っこで1人で鍛錬してもいいんだろうけど、なんだかなぁ)

 エラルドはどうするつもりかと隣を見ると、本人はその場を見回してから、あるひとりの生徒をじっと見つめていた。

 身長が高く、肩幅も広い生真面目そうな、如何にも騎士、といった風格の青年だ。
 後で分かったことだが、その場に居た生徒たちのリーダー格だったらしい。
 
 その生徒と真っ直ぐに目線を合わせながら、エラルドはいつもの人好きする笑顔を浮かべた。

「ここで鍛錬するには何か資格が必要ですか?」

 自分に話しかけられていると問題なく判断したその生徒は、生真面目そうな表情を動かさず首を横に振った。

「いえ、何も必要ありません。生徒なら誰でも使えます。しかし……我々と一緒に、となると怪我を負う可能性が高い」
(多分先輩なのに敬語だ。身分って本当にすごいな)

 知っていたはずなのだが、学校の生徒となると服装なども同じなので忘れてしまっていた。
 伯爵家のエラルドと騎士の家系の先輩とではエラルドの方が上なのだ。

「なんだ、そんなことか! 俺は怪我なんて慣れてるから大丈夫です。よければお相手願います」

 私の快活な友人は、「怪我をしない内にさっさと帰れ」と遠回しに伝えられても全く気にしないらしい。好き。
 でも相手は気になると思う。

 生真面目くん、「はぁ?」て顔になっちゃっている。
 
 その後のことは、なんとなく想像出来るだろうか。
 
 
 接戦の末、エラルドが辛勝した。
 
 私としてはこの流れは圧勝かなと思っていたが流石にリーダーは強かった。
 
 ふわふわと笑っていたエラルドが、相手と向かい合って稽古用の剣を構えたときの、真剣な表情と迫力あるオーラがこの日のハイライト。
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