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第三章
私、何かやっちゃいました?
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「いやー! 堅苦しかったなー! 皆、疲れただろう!」
上品な濃紺のクッションのついた椅子の背に豪快にもたれ掛かった。
結局、議論したって魔王の居場所は分からない。
とにかく「森」というキーワードがあるからには、私は出来るだけ森に近づかないようにと言われて終わった。
うーん、私は、今から森に入りまくって魔王探しするつもりだったけど。勝手に探して見つけてくれるならその方が良いのかな。
そんな格式ばった質問会の後、呼び出された私たち8人とその父親は別室に案内された。
部屋の中央には大きな円卓のテーブルが置いてあり、そこに全員が並んで座っている。椅子も全て同じ物で揃っているところを見ると、これは「皆平等に」という皇帝の気遣いなのだろう。
そんな感じの有名な話があった気がする。
なんにせよ円卓は、皆の顔が見やすくてとても良い。
色とりどりの果物の盛り合わせと、マフィンにマドレーヌなどの焼き菓子、そして数種類のホールケーキがテーブルには並べられている。
控えているメイドさんに頼めば取り分けてくれる仕様だ。
とても美味しそうである。
しかし「くつろいでくれ」と皇帝は言うが、正直、この場で脚を広げて寛げるのは皇帝ただひとりだろう。
だって目の前に皇帝、皇后、皇太子が揃ってるのにどうやって寛ぐんだよ寛いでいいのか。
皇族を相手にすることもある大商人のパトリシアのところはともかく、平民のアンネのところは親子揃ってもうカチンコチンだよ同情する。
「陛下、お気遣い痛み入ります。わざわざこのような」
「デールーフィーニーウームー! お前がそんな畏まってたら皆がくつろげないだろう! もっと率先して砕けろ! ふたりで居る時みたいに!」
私の父、デルフィニウム公爵が代表して口を開くと、皇帝が眉を寄せてビシッと指差した。
職場の上司の無茶振り怖い。
ふたりで居るときとか、詳しくって気持ちもあるけど。
そういえば一緒に昼寝しちゃうくらい仲良しだったなこの2人。
場の空気が「いや無理ー」って感じになってしまっている気がする。
皇后はニコニコしているが、アレハンドロも「この人まためちゃくちゃ言ってんな」って顔をしている。
デルフィニウム公爵は、綺麗な顔を歪めて額に手を当てた。
「陛下。本日私は臣下として」
「いいからいいから。今日は子供の同級生の親としてちょっと話したいなと思っただけだ。なぁ、アコニツム」
真面目に返答しようとするのを遮って、暗赤色の髪の男性に視線を向けた。
黒い騎士服に銀のマント、バレットがそのまま大人になったかのような男らしい顔とがっしりした体の人だ。
話を振られたアコニツム騎士団長は、面倒臭そうに腕を組んで溜息を吐いた。
「それは初耳だ。そういうことなら妻を呼ぶから私は仕事に戻らせろキナロイデス」
さすがバレットの父親。無礼に躊躇がない。無さすぎる。
「ほら、この感じだこの感じ!」
良いんだ。めっちゃ嬉しそう。
「これを手本に頑張ってみてくれオルキデ、クリサンセマム!」
「お断りいたします陛下」
「アコニツム騎士団長は普段からこんな感じでしょう。我々にはとても出来ません」
ラナージュとネルスの父親にはあっさりと断られている。そりゃそうだ。
そもそも親同士って、よっぽど仲良くならないとフランクな会話にならないしな。
割と仲良さそうなバッサリ感な気もするけど。
それにしても、アレハンドロ以外は全員クローンかよってくらい父親似。
髪や目のカラーリングが全員父親と一緒。
母親の遺伝子どこいった。
「皆真面目だよな。そう思わないかユリオプス。貴方は私より年上だし、我儘を聞いてくれるよな?」
「ははは、陛下。年齢ならクリサンセマム侯爵も貴方より随分上だよ。見た目がお若いから忘れがちだけどな」
エラルド父、マジ大人のエラルド。50歳くらいかな。
待ってくれすごい好き。
すごい好きだけど、ごめんもっと人が良くて気弱そうな人を想像してた。
「騎士になりたいの? 家のことなんて気にせずなったらいいよ」
とか、普通に言いそう。
本来はそういう人なのか、それともやっぱり騎士の仕事って危ないから止めているのか。
エラルド、剣術大会で大怪我したし。
この人が領地のために息子の政略結婚を了承したなんて、相当ヤバかったとみた。
「ふふ、エラルド様とバレット様は見た目も性格もお父様似でしたのね」
皇帝に声を掛けられるまで黙っていないといけない空気を、ラナージュがぶち破った。
私と全く同じことを考えていたらしい。
バレットよりも随分表情が動くアコニツム騎士団長は、その言葉に笑って首を振り、バレットの頭に手を乗せた。
「バレットの性格は母親似だ。可愛らしいだろう」
可愛らしいとは。
可愛らしいってなんだっけ。
可愛らしいの定義が行方不明。
バレットが無表情で手を振り払う。
「頭が腐ってるから医師に見てもらえそして二度と帰ってくるな」
それにしても辛辣だなバレット。
「いつまでも反抗期な三男だ。末っ子だから甘やかしすぎたか」
本気で不思議そうに顎に手を添えて首を傾げるアコニツム騎士団長に対し、それ以上何も言わずに憮然と黙ってしまうバレット。
甘やかされてる感じが全く見受けられないんだよなぁ。お兄ちゃんたちに揉まれたせいなのかな。
舞踏会の話からすると、バレットが逆らえないお母さんも相当強そうなんだけど。
きっと「甘やかし」のレベルや種類が違うんだろうな、甘いといえばそろそろケーキ食べたいなーなどと思っていると。
「末っ子は甘やかしてしまうのはよく分かる。私も、いつまでもネルスだけは幼子のように見えているからね」
ネルスの父、クリサンセマム侯爵がニコニコと話に乗っかってきた。
うん、それは見てきたから知ってる。
家族全員で猫可愛がりしてるの知ってる。
「でもすごく優秀なんだこの間も」
「父上、皇帝陛下の御前でそういったことを言うのはおやめください」
真顔のネルスが顔も見ずに話を断ち切った。
どこの息子さんも反抗期気味でかわいいな。
「え! じゃあさっきは大勢の前でとてもしっかりお話が出来ているなって感動した話は!?」
「後で母上にでもお伝えください!」
本当に、幼児の親みたいだもんな。
ネルスは普段からこういう扱いだから、親戚内でいるときには「もー恥ずかしいなー」って感じに唇尖らせるくらいなんだけど。
他人がいる前では本当にやめて欲しいらしい。お年頃だな。
「優秀といったら、うちの娘も」
「お父様、入っていくのはお止めくださいませ。話がややこしくなりますわ」
次はラナージュの父親のオルキデ侯爵がここぞとばかりに口を開く。そして嗜められた。
しかし、この父親はめげずにゆったりダンディーに微笑んだ。
「この世で一番美しい娘を自慢して悪いことがあるだろうか」
「それは娘のいる全ての親への宣戦布告ですわよ。ねぇ、シン様」
(急に私に話を振るんじゃない!!)
声に出して言いそうなところを飲み込んで、笑顔でラナージュへと視線を向ける。
本当に親バカばっかに見えて、この子たち実際すごいんだよな。ところでケーキ食べたいなーと、のほほんと聞いていたからなんの心の準備も無かった。
私は「そうだそうだ! うちの妹も世界一可愛いですよ!」と笑いをとるか、ラナージュを褒める無難な方をとるかで一瞬迷う。
「はは、親は皆、自分の子が一番だからな。でもオルキデ侯爵の気持ちも分かるよ。ラナージュは多少振り回されても仕方ないと思えるほど綺麗だ。でもなにより、君の本当の魅力は面倒見の良さや話しやすさなどの内面にあると思うな」
滑ったら嫌だから、ヒヨッて無難な方を取ってしまう。
だって笑えないくらい可愛いもんなうちの妹。
が、なんだか皆ものすごい興味深そうな顔で私を見ていた。
特にオルキデ侯爵は赤い目をかっぴらいてこっち見てる。怒ってるわけじゃなさそうなんだけど圧がすごい。
え、何?
隣に座っている父、デルフィニウム公爵も、私とラナージュを意味深に見比べているのに気がついてしまった。
焦って、思わずエラルドへと目線を向ける。
なんか、やっちゃったねって笑顔を向けられた。
あれ、なんか変なこと言ったか私。
あ、名前呼びか? 名前呼びダメだった?
私、何かやっちゃいました?
上品な濃紺のクッションのついた椅子の背に豪快にもたれ掛かった。
結局、議論したって魔王の居場所は分からない。
とにかく「森」というキーワードがあるからには、私は出来るだけ森に近づかないようにと言われて終わった。
うーん、私は、今から森に入りまくって魔王探しするつもりだったけど。勝手に探して見つけてくれるならその方が良いのかな。
そんな格式ばった質問会の後、呼び出された私たち8人とその父親は別室に案内された。
部屋の中央には大きな円卓のテーブルが置いてあり、そこに全員が並んで座っている。椅子も全て同じ物で揃っているところを見ると、これは「皆平等に」という皇帝の気遣いなのだろう。
そんな感じの有名な話があった気がする。
なんにせよ円卓は、皆の顔が見やすくてとても良い。
色とりどりの果物の盛り合わせと、マフィンにマドレーヌなどの焼き菓子、そして数種類のホールケーキがテーブルには並べられている。
控えているメイドさんに頼めば取り分けてくれる仕様だ。
とても美味しそうである。
しかし「くつろいでくれ」と皇帝は言うが、正直、この場で脚を広げて寛げるのは皇帝ただひとりだろう。
だって目の前に皇帝、皇后、皇太子が揃ってるのにどうやって寛ぐんだよ寛いでいいのか。
皇族を相手にすることもある大商人のパトリシアのところはともかく、平民のアンネのところは親子揃ってもうカチンコチンだよ同情する。
「陛下、お気遣い痛み入ります。わざわざこのような」
「デールーフィーニーウームー! お前がそんな畏まってたら皆がくつろげないだろう! もっと率先して砕けろ! ふたりで居る時みたいに!」
私の父、デルフィニウム公爵が代表して口を開くと、皇帝が眉を寄せてビシッと指差した。
職場の上司の無茶振り怖い。
ふたりで居るときとか、詳しくって気持ちもあるけど。
そういえば一緒に昼寝しちゃうくらい仲良しだったなこの2人。
場の空気が「いや無理ー」って感じになってしまっている気がする。
皇后はニコニコしているが、アレハンドロも「この人まためちゃくちゃ言ってんな」って顔をしている。
デルフィニウム公爵は、綺麗な顔を歪めて額に手を当てた。
「陛下。本日私は臣下として」
「いいからいいから。今日は子供の同級生の親としてちょっと話したいなと思っただけだ。なぁ、アコニツム」
真面目に返答しようとするのを遮って、暗赤色の髪の男性に視線を向けた。
黒い騎士服に銀のマント、バレットがそのまま大人になったかのような男らしい顔とがっしりした体の人だ。
話を振られたアコニツム騎士団長は、面倒臭そうに腕を組んで溜息を吐いた。
「それは初耳だ。そういうことなら妻を呼ぶから私は仕事に戻らせろキナロイデス」
さすがバレットの父親。無礼に躊躇がない。無さすぎる。
「ほら、この感じだこの感じ!」
良いんだ。めっちゃ嬉しそう。
「これを手本に頑張ってみてくれオルキデ、クリサンセマム!」
「お断りいたします陛下」
「アコニツム騎士団長は普段からこんな感じでしょう。我々にはとても出来ません」
ラナージュとネルスの父親にはあっさりと断られている。そりゃそうだ。
そもそも親同士って、よっぽど仲良くならないとフランクな会話にならないしな。
割と仲良さそうなバッサリ感な気もするけど。
それにしても、アレハンドロ以外は全員クローンかよってくらい父親似。
髪や目のカラーリングが全員父親と一緒。
母親の遺伝子どこいった。
「皆真面目だよな。そう思わないかユリオプス。貴方は私より年上だし、我儘を聞いてくれるよな?」
「ははは、陛下。年齢ならクリサンセマム侯爵も貴方より随分上だよ。見た目がお若いから忘れがちだけどな」
エラルド父、マジ大人のエラルド。50歳くらいかな。
待ってくれすごい好き。
すごい好きだけど、ごめんもっと人が良くて気弱そうな人を想像してた。
「騎士になりたいの? 家のことなんて気にせずなったらいいよ」
とか、普通に言いそう。
本来はそういう人なのか、それともやっぱり騎士の仕事って危ないから止めているのか。
エラルド、剣術大会で大怪我したし。
この人が領地のために息子の政略結婚を了承したなんて、相当ヤバかったとみた。
「ふふ、エラルド様とバレット様は見た目も性格もお父様似でしたのね」
皇帝に声を掛けられるまで黙っていないといけない空気を、ラナージュがぶち破った。
私と全く同じことを考えていたらしい。
バレットよりも随分表情が動くアコニツム騎士団長は、その言葉に笑って首を振り、バレットの頭に手を乗せた。
「バレットの性格は母親似だ。可愛らしいだろう」
可愛らしいとは。
可愛らしいってなんだっけ。
可愛らしいの定義が行方不明。
バレットが無表情で手を振り払う。
「頭が腐ってるから医師に見てもらえそして二度と帰ってくるな」
それにしても辛辣だなバレット。
「いつまでも反抗期な三男だ。末っ子だから甘やかしすぎたか」
本気で不思議そうに顎に手を添えて首を傾げるアコニツム騎士団長に対し、それ以上何も言わずに憮然と黙ってしまうバレット。
甘やかされてる感じが全く見受けられないんだよなぁ。お兄ちゃんたちに揉まれたせいなのかな。
舞踏会の話からすると、バレットが逆らえないお母さんも相当強そうなんだけど。
きっと「甘やかし」のレベルや種類が違うんだろうな、甘いといえばそろそろケーキ食べたいなーなどと思っていると。
「末っ子は甘やかしてしまうのはよく分かる。私も、いつまでもネルスだけは幼子のように見えているからね」
ネルスの父、クリサンセマム侯爵がニコニコと話に乗っかってきた。
うん、それは見てきたから知ってる。
家族全員で猫可愛がりしてるの知ってる。
「でもすごく優秀なんだこの間も」
「父上、皇帝陛下の御前でそういったことを言うのはおやめください」
真顔のネルスが顔も見ずに話を断ち切った。
どこの息子さんも反抗期気味でかわいいな。
「え! じゃあさっきは大勢の前でとてもしっかりお話が出来ているなって感動した話は!?」
「後で母上にでもお伝えください!」
本当に、幼児の親みたいだもんな。
ネルスは普段からこういう扱いだから、親戚内でいるときには「もー恥ずかしいなー」って感じに唇尖らせるくらいなんだけど。
他人がいる前では本当にやめて欲しいらしい。お年頃だな。
「優秀といったら、うちの娘も」
「お父様、入っていくのはお止めくださいませ。話がややこしくなりますわ」
次はラナージュの父親のオルキデ侯爵がここぞとばかりに口を開く。そして嗜められた。
しかし、この父親はめげずにゆったりダンディーに微笑んだ。
「この世で一番美しい娘を自慢して悪いことがあるだろうか」
「それは娘のいる全ての親への宣戦布告ですわよ。ねぇ、シン様」
(急に私に話を振るんじゃない!!)
声に出して言いそうなところを飲み込んで、笑顔でラナージュへと視線を向ける。
本当に親バカばっかに見えて、この子たち実際すごいんだよな。ところでケーキ食べたいなーと、のほほんと聞いていたからなんの心の準備も無かった。
私は「そうだそうだ! うちの妹も世界一可愛いですよ!」と笑いをとるか、ラナージュを褒める無難な方をとるかで一瞬迷う。
「はは、親は皆、自分の子が一番だからな。でもオルキデ侯爵の気持ちも分かるよ。ラナージュは多少振り回されても仕方ないと思えるほど綺麗だ。でもなにより、君の本当の魅力は面倒見の良さや話しやすさなどの内面にあると思うな」
滑ったら嫌だから、ヒヨッて無難な方を取ってしまう。
だって笑えないくらい可愛いもんなうちの妹。
が、なんだか皆ものすごい興味深そうな顔で私を見ていた。
特にオルキデ侯爵は赤い目をかっぴらいてこっち見てる。怒ってるわけじゃなさそうなんだけど圧がすごい。
え、何?
隣に座っている父、デルフィニウム公爵も、私とラナージュを意味深に見比べているのに気がついてしまった。
焦って、思わずエラルドへと目線を向ける。
なんか、やっちゃったねって笑顔を向けられた。
あれ、なんか変なこと言ったか私。
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私、何かやっちゃいました?
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