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第三章
品のない雑魚モブ
しおりを挟む青い空。
青い海。
ギラギラ太陽。
水着。
夏って感じですね!
はい! 夏です!!
夏休み!!!
今、私は国内でも有数のビーチに来ております。
メンバーはアンネとパトリシア、ラナージュと攻略対象くんたちの計8人! 多い!
今まで行ったことがあるのは、デルフィニウム公爵家所有のプライベートビーチだけだったから新鮮だ。
何が新鮮って、人がめちゃくちゃ多いところが!
家族連れにカップルに友達同士のグループに、色んな人たちが歩いている。泳いでいる。
食べ物や飲み物の売店なども大盛況だ。
16年間常々思ってたけど、この異世界の舞台設定どうなってるんだろうな!
まぁ、異世界だからいいのか。良いとこどりで。
真っ赤なパラソルの下で白いシーツにすわりながら、私は隣に目線をやる。
優雅に脚を組み、後ろ手をついて座るラナージュがいた。
長い髪を後頭部で編み込み団子にしていて、白い頸が眩しい。
濃いピンク色をした、最低限しか隠していないような大胆なビキニを着ている。強い。
今は、他のみんなは泳ぎに行ったり飲み物を買いに行ったりとバラけているのでラナージュと私が荷物番だった。
「ようやくふたりになったな。色々言いたいことがあるんだが。とりあえずすごい水着だな」
「ええ。これだけ完璧なスタイルだったら見せてしまおうと。日焼け止めも塗っていませんわ。なんて楽なんでしょう!」
嬉しげに体を起こすと、上に手を広げて満面の笑顔だ。私は真顔で頷いた。
「分かる」
本来ならばラッシュガードのようなものやハーフパンツなどを着て体を隠してもいいと思うのだが。
私も藍色のボクサー型の水着一枚だ。
だって良い体すぎて隠す必要ないもん。
自分の体じゃないから恥ずかしくもないし、開放的な気分を味わえるだけ味わっておこうという気持ちだ。
太陽の元にいても特に日焼けで体が痛いということもない。こんなに色白なのにノーダメージ。
二次元のイケメンすごい。
「しかしなんでまた、こんな人が多いところにしたんだよ。護衛の人が大変だろ」
皇帝陛下や本人や、その他の大人の努力でなんとか「初・友達との旅行」に参加できたアレハンドロはもちろんのこと。
今回はアンネ、バレット、エラルド以外は親が「護衛付きなら」としか許可を出さなかった。
エラルドも伯爵家なんだけど。信頼がすごいのか単に余裕がないだけなのか。
いや本人が強くなきゃ護衛なしは怖すぎるか。
とにかく、平民が楽しむこのビーチ内には護衛の騎士たちが至る所に潜んでいる。
基本的には干渉しないようにとは言ってあるが、果たしてどうなるのか。
誰かの家のプライベートビーチならここまで大掛かりなことにはならないのに、大迷惑である。
「まぁ、何故だなんて。愚問ですわ。品のない雑魚モブがいないと発生しないイベントが、海では盛り沢山でしょう?」
美しい笑顔でモブに対して酷い言いよう。
いや分かるけど。
古今東西、物語で海といえば、なんかしらのトラブルが発生するものだ。
でなければわざわざ舞台を海に持ってくる必要もない。
モブが関わるトラブルとは限らないけどな。
しかし、もしモブ関連のトラブルだとすると。
「ネルス襲われてないかな大丈夫かな」
「そこはアンネでしょう」
ウキウキだったくせにとても冷静にツッコんでくる。そりゃそうだ。
でもこちとらBL脳だから仕方がない。
男性陣、簡単に襲えそうなのネルスだけだなぁ。
私は真面目な顔を作り、人差し指を立てて左右に振る。
「いや分からないぞ。『こんなにかわいい顔なら』」
「こんなにかわいい顔なら男でもいけるわオレ!」
「彼女たちのついでに一緒にどうだ?」
居たわ。品のない雑魚モブいた。
私はラナージュと真顔で顔を見合わせた。
さて、ネルスは先程、アンネ、パトリシアと3人で飲み物を買いに行くと言っていた。
家族や友だちとこういうところに遊びにくるアンネも一緒なら大丈夫だろうと思ってのことだったのだが。
しかし待て。
言われてるのがネルスであるとは限らない。
美少年は何もこの世界にネルスだけではないのだ。
私たちはナンパする気が本当にあるのか疑問に思える、嘲笑に近い声の方を向く。
「僕にはそっちの趣味はない。この2人も他の友人が待っている。離してくれ」
やっぱりネルスだった。
3人組の典型的なチャラ男に手首を掴まれているのが見える。
表情は分からないが、不快な顔をしているだろう。
どこにいるか騎士たちがすぐ分かるようにと、ネルスの母親が持たせた蛍光ピンクの長袖ラッシュガードと蛍光イエローのハーフパンツを律儀に着ている。
本当に目立つ。
ネルスの姿を見たときにバレットが何か言いそうな顔をしていたのを、まさかのアレハンドロが口を塞いだのは少し前のことだった。
アンネとパトリシアは一歩後ろにいるので、ネルスが庇っているような配置だ。実際、庇っているのかもしれない。
手首を掴む以上の何かがないようにという保護者心と、少しのワクワク感で目を離せなかった。
私たちは視線はそのまま早口で会話を始める。
「いきなりナンパイベントが発生してますわね」
「BLで500万回読んだ台詞言ってるな」
「では少女漫画少年漫画アニメゲームで、100億回聞いた台詞で助けに行きません?」
「『俺のツレになにか』ってやつですね分かります。アレハンドロとか待たないのか?」
「待っていて本当に連れていかれたら一大事ですもの」
言うや否やラナージュは立ち上がって駆け出した。
それはそう。
しかもネルスやパトリシアが魔術発動させたら面倒がすぎる。
その前に護衛の方々が出てくるかな。
とにかく、周りに大迷惑だ。
私もラナージュの後を追う。
「この人はあなたたちが気軽に触って良い人じゃないのよ!」
相手はニヤニヤしながらなかなか手を離さない。パトリシアはネルスの腕を引っ張って対抗する。
「私たちも、お断りします!」
アンネもキッパリお伝えしているのが見える。
しかし、相手は完全に舐めているのでゲラゲラと笑っている。
別に笑うところじゃないよナンパしてフラれてるんだから。
本当に放っておいたら18禁になりかねないような下心しかないんだろう。そのまま女の子たちにも手を伸ばす。
下品な手が触れるか触れないかのところで、左右から別の2種類の手が伸びてきた。
褐色肌の大きな手は不躾な手を掴み。
白く指の細い手は無礼者の手を払う。
「貴様たち、私の友人に何か用か?」
「わたくしの可愛い方に何かご用?」
アレハンドロはアンネを後ろから片腕で胸に抱き、ラナージュはパトリシアを後ろから抱きしめた。
美男美女の圧が凄い。
燃え盛る目で見下ろすアレハンドロと、冷ややかに微笑むラナージュで表情は全く違うのだが。
男たちはその共通する「失せろ」のオーラにたじろいだ。
「殿下、早いなー」
「後ろに立って圧だけ掛けとくか」
アレハンドロと泳ぎに行っていたエラルドとバレットもすぐにやってきたが、私と共に完全に出遅れている。
「どっちかネルスのとこにも行ってくれ」
ひとり、背中が空いてますよー。
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