112 / 134
第三章
ご機嫌麗しゅう
しおりを挟む
「エラルド、そろそろ離れないか」
「あ、ごめんごめん。食べにくいか」
軽く咳払いすると、エラルドが身体を離してくれる。私は力を抜いて溜息をつきそうなところを、ケーキを食べることで誤魔化した。
「いや、うん。そうだな」
「貴様、私が相手の時とは随分と反応が違うな」
アレハンドロは私の様子が面白いのか、馬鹿にしたように笑ってくる。お前、私の立場になってみろ!
絶対硬直するぞ!
いや、しないだろうな。
「正直、同じくらい驚いてるぞ」
「シンって固まっちゃうから面白いよね」
エラルドが今度は背後から腕を回して抱きついてくる。顎が頭に乗るのを感じながら、その言葉の通り私は再び固まった。
アイドルのブロマイドかよ。
私も見たいから誰か撮ってくれよ。
「私の時は笑っていたが?」
「今も笑うのを耐えてるんだよ近すぎて」
だんだんエラルドの重さに馴染んできた私は、なんでもないように口元を緩めることに成功した。
分かっていてやっているのなら、君たちは私で遊ぶのをやめていただきたい。
納得したのかしていないのかは分からないが、アレハンドロの目線は私に体重をかけているエラルドの方へ向いた。
「ふん。エラルド、アンネに何か言われたのか」
「『頭の中が好きな人でいっぱいで、最近は勉強に身が入らなくて困る』っていう惚気を聞いてただけだよ」
朗らかな声で紡がれる可愛らしい言葉が頭の上から聞こえてきた。なにそれかわいい。
鼻を鳴らすだけで返事をしないアレハンドロは、なんだかとても嬉しそうだ。分かりやすい。
ホワホワとした花が周りに舞ってそう。
私は首席になったら告白するという約束を思い出して、横から口を挟んだ。
「アンネが勉強できないと、アレハンドロも困るんじゃないか?」
「そうだったな。気をつけよう」
ハッとして顔を引き締めようとしている。さては忘れていたな。
そうは言ったものの、アレハンドロが離れても結果は同じな気がするな。べったりだったやつが急に来なくなったら気になるだろうし。
勉強に集中できなくて首席を逃したら一大事だ。
「押してダメなら引いてみろって言うしな! 行かなかったらアンネから休み時間に会いに来てくれるかもしれない!」
明るい声と共に拳を握って見せているエラルドかわいい。
さてはエラルド、勉強のことはどうでもいいな?
普通に恋の応援してるな?
知らないもんな、2年生の最後に首席になったらどうこうの話。
ところでそろそろ私からどいてくれこの体勢じゃ君の顔が見えない。
「アンネから会いにくる」
その手があったかみたいな顔してるけども。
「そうそう。バレットの一番上のお兄さんも、引きの効果は抜群だったって言ってたしな!」
バレットの一番上のお兄さん、だと?
サラッと新キャラを増やすんじゃないよびっくりする。
確かアコニツム家は三人兄弟。
リルドットが次男でバレットが三男だったか。
じゃあやっぱり、長男は私は会ったことがない人だな。
「ああ、あれか。あんな女を押し付けられて気の毒だと思っていたが、男の方からだったか」
待て待て、私だけ置いてかれてる。
あんな女ってどんな女だ。アレハンドロの知り合いなのか。
これはあれだ、出身地や学校が同じ人たちの中に1人紛れ込んでしまった時の疎外感。
しかし内容は気になるので詳しく聞きたい。
何から聞こうかと頭を整理していると。
「ところで、バレットといえば一緒じゃないのか?」
「期末テストの準備日が近づいてきたからネルスに連れてかれたよー」
別の話題に移ってしまった。
残念無念。
内心ガッカリしながらも、この会話には参加出来るので相槌を打つことにした。
「へぇ、準備日まだなのにな」
ネルスが真面目で、教えることにも熱心なのは今に始まったことではないが。よくもまぁバレットが言うことを聞いたもんだ。
もしかしてふたりきりになりたい理由でもあるのか?
BLフラグか、そうなのか。
ちょっと私も図書室行こうかな。
「皆さん、ご機嫌麗しゅう」
大変麗しいことになっていた私の頭を見透かされたのかというタイミングで、鈴が転がるような声が聞こえた。
顔を上げると、学園一美しい、という設定に違わぬ美女が立っている。
「ラナージュ?」
「シンさまとエラルドさまはいつも仲がよろしいですわね」
「はは、ご覧の通りなー」
良い笑顔のラナージュにいつも通りの調子で返事をしたエラルドは、更に私に体重を掛ける。
「エラルド、重い。本当に重い」
苦情を言う私を見ながら、良いぞもっとやれって紅い目が言ってる気がする。
羨ましい、変わってほしい。
じゃれている私たちを横目にアレハンドロが口を開く。
「何か用があったのか?」
ラナージュはその言葉ににっこりと頷いた。
「皆さま、夏休みに少し自由な時間はお有り?」
おおこれは。
何やら夏のイベント発生の予感。
「あ、ごめんごめん。食べにくいか」
軽く咳払いすると、エラルドが身体を離してくれる。私は力を抜いて溜息をつきそうなところを、ケーキを食べることで誤魔化した。
「いや、うん。そうだな」
「貴様、私が相手の時とは随分と反応が違うな」
アレハンドロは私の様子が面白いのか、馬鹿にしたように笑ってくる。お前、私の立場になってみろ!
絶対硬直するぞ!
いや、しないだろうな。
「正直、同じくらい驚いてるぞ」
「シンって固まっちゃうから面白いよね」
エラルドが今度は背後から腕を回して抱きついてくる。顎が頭に乗るのを感じながら、その言葉の通り私は再び固まった。
アイドルのブロマイドかよ。
私も見たいから誰か撮ってくれよ。
「私の時は笑っていたが?」
「今も笑うのを耐えてるんだよ近すぎて」
だんだんエラルドの重さに馴染んできた私は、なんでもないように口元を緩めることに成功した。
分かっていてやっているのなら、君たちは私で遊ぶのをやめていただきたい。
納得したのかしていないのかは分からないが、アレハンドロの目線は私に体重をかけているエラルドの方へ向いた。
「ふん。エラルド、アンネに何か言われたのか」
「『頭の中が好きな人でいっぱいで、最近は勉強に身が入らなくて困る』っていう惚気を聞いてただけだよ」
朗らかな声で紡がれる可愛らしい言葉が頭の上から聞こえてきた。なにそれかわいい。
鼻を鳴らすだけで返事をしないアレハンドロは、なんだかとても嬉しそうだ。分かりやすい。
ホワホワとした花が周りに舞ってそう。
私は首席になったら告白するという約束を思い出して、横から口を挟んだ。
「アンネが勉強できないと、アレハンドロも困るんじゃないか?」
「そうだったな。気をつけよう」
ハッとして顔を引き締めようとしている。さては忘れていたな。
そうは言ったものの、アレハンドロが離れても結果は同じな気がするな。べったりだったやつが急に来なくなったら気になるだろうし。
勉強に集中できなくて首席を逃したら一大事だ。
「押してダメなら引いてみろって言うしな! 行かなかったらアンネから休み時間に会いに来てくれるかもしれない!」
明るい声と共に拳を握って見せているエラルドかわいい。
さてはエラルド、勉強のことはどうでもいいな?
普通に恋の応援してるな?
知らないもんな、2年生の最後に首席になったらどうこうの話。
ところでそろそろ私からどいてくれこの体勢じゃ君の顔が見えない。
「アンネから会いにくる」
その手があったかみたいな顔してるけども。
「そうそう。バレットの一番上のお兄さんも、引きの効果は抜群だったって言ってたしな!」
バレットの一番上のお兄さん、だと?
サラッと新キャラを増やすんじゃないよびっくりする。
確かアコニツム家は三人兄弟。
リルドットが次男でバレットが三男だったか。
じゃあやっぱり、長男は私は会ったことがない人だな。
「ああ、あれか。あんな女を押し付けられて気の毒だと思っていたが、男の方からだったか」
待て待て、私だけ置いてかれてる。
あんな女ってどんな女だ。アレハンドロの知り合いなのか。
これはあれだ、出身地や学校が同じ人たちの中に1人紛れ込んでしまった時の疎外感。
しかし内容は気になるので詳しく聞きたい。
何から聞こうかと頭を整理していると。
「ところで、バレットといえば一緒じゃないのか?」
「期末テストの準備日が近づいてきたからネルスに連れてかれたよー」
別の話題に移ってしまった。
残念無念。
内心ガッカリしながらも、この会話には参加出来るので相槌を打つことにした。
「へぇ、準備日まだなのにな」
ネルスが真面目で、教えることにも熱心なのは今に始まったことではないが。よくもまぁバレットが言うことを聞いたもんだ。
もしかしてふたりきりになりたい理由でもあるのか?
BLフラグか、そうなのか。
ちょっと私も図書室行こうかな。
「皆さん、ご機嫌麗しゅう」
大変麗しいことになっていた私の頭を見透かされたのかというタイミングで、鈴が転がるような声が聞こえた。
顔を上げると、学園一美しい、という設定に違わぬ美女が立っている。
「ラナージュ?」
「シンさまとエラルドさまはいつも仲がよろしいですわね」
「はは、ご覧の通りなー」
良い笑顔のラナージュにいつも通りの調子で返事をしたエラルドは、更に私に体重を掛ける。
「エラルド、重い。本当に重い」
苦情を言う私を見ながら、良いぞもっとやれって紅い目が言ってる気がする。
羨ましい、変わってほしい。
じゃれている私たちを横目にアレハンドロが口を開く。
「何か用があったのか?」
ラナージュはその言葉ににっこりと頷いた。
「皆さま、夏休みに少し自由な時間はお有り?」
おおこれは。
何やら夏のイベント発生の予感。
11
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
死んだと思ったら異世界に
トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。
祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。
だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。
そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。
その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。
20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。
「取り敢えず、この世界を楽しもうか」
この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる