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第三章
本音と建前
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「アンネは私が待っている間に別の女を好きになっても、仕方がないで済ませてしまうらしい……」
あ、思ったより堪えてる。
ふたりの関係が進展したのを見届けた日の夜、私はアレハンドロの自室に呼ばれた。
まさか見られていたとは知らないアレハンドロは今、組んだ手に額を押しつけてうなだれている。
もしかして、そう言われたのがショックであんなに高圧的な態度だったのか。
嫌われるぞそんなんしてたら。
丸テーブルを挟んで向かい合わせで座り、まるで知らなかったかのように相槌を打ちながら話を聞く。
私は出来る限り優しく聞こえるように声を紡いだ。
「身を切るような思いだけどお前の幸せのためなら身を引くってことだよ」
「私を待たせるなんて贅沢なことをしておいて! 自分は簡単に身を引くなどと!」
語気を荒げながら見上げてくる顔は、完全に不貞腐れていた。言い分はよく分からないがご立腹なことはとてもよく伝わってくる。
私に言われても知らんがな。
皇太子殿下を待たせるというのは確かに贅沢というかなんというか、とにかく「よく本人にそれ言えたな」って感じだけども。
告白された側からしたら、贅沢とかそんなん知ったこっちゃない。今じゃないから今じゃないって言っただけだ。
しかも私の知る普通の学生とは違って、その返事は本当に人生を大きく左右するのだから。
結婚したら皇太子妃殿下だぞ。後の皇后陛下。
卒業の時に告白するつもりってことは、アンネにはすでにその覚悟が薄っすらとでもあるということで。すごすぎる。
「嫌なら待たなきゃ良いだろ」
「それが出来れば苦労はしない」
苦々し気に睨まれた。
惚れた弱みというやつだな。
ここで待てないなんていうやつ、器が小さすぎてヒーロー候補にもなれやしないんだろうけど。
いや、そこを強引にいくのもヒーローの資質な気もする。もう分からん。
とにもかくにも、機嫌が悪いのは絡まれる私にとってとても面倒だ。なんとかしなくては、と、溜息を飲み込んで思いついたことを口に出していく。
「別に恋人って関係じゃなくても一緒に居れるだろ? お友達として仲良くしてろ」
「友人では出来ないこともあるだろう!」
「例えば?」
柔らかく首を傾げる私の問いに、困ったように目線を彷徨わせる。なんと答えたものか迷っているようだ。
「……手を、握ったり……」
可愛らしいかよ。
せめてキスとかさ。
私は笑うのを堪えながらソファーを立ち上がる。動きを目で追ってくるアレハンドロの隣まで移動すると、組まれた手をそのまま両手で包んでやった。
ていうか、そのくらいはもうやってなかったっけ? なかったか? ダンスの時はカウントしちゃダメだよな。
アレハンドロは怪訝な顔でこちらを見る。
「何の真似だ」
振り払わないんだ。
私はにっこりと微笑んだ。
「手くらい友人でも握れるぞ、と思ってな。肩も組めるし抱き締められるし一緒に遊びに行けるし一緒に寝られるし何でも出来る、な?」
嘘ではない。
言ったことは全て、攻略対象くんたちとやったことがある気がする。
ヒロインを差し置いてすごいな私。
悪役令息の癖に。
悪役か? まぁいい。
「貴様のそういうとぼけたところは好かん」
吐き捨てるように言いながら手を払われて、「デスヨネー」と思う。すると、突然、手首を掴まれて強く引かれた。
何事かと考える暇もなく、頬に手が触れる。
アレハンドロの豪華で美しい顔が、鼻先が触れるほどまで近づいてきた。
年頃の女の子なら気を失っているかもしれない。
だが私はというと、思わず笑ってしまいながら胸を押した。
「近い近い」
「友人ではこれが限界だろう」
至近距離で眉を寄せる美形に、私は素早く首を左右に振った。
「いや、これは友人はしないやつだ皇太子殿下」
「なんでも出来ると言ったのはどの口だ」
友だちでも常識の範囲でスキンシップくらいとれるよって言っただけなのに。距離感バグってるのか。
いや、わかっているはずだ。分かっててこういうことするから乙女ゲームのメインヒーロー怖い。
そりゃあ私も「違うそうじゃない」っていうのは分かっててふざけたんだけども。
乙女ゲームっていうか完全にBLのワンシーンになっちゃったよ。
ていうか、ずっと顔が近いよ。
話す度にお互いに息を掛け合ってるもん。
「全く、こんなことしてるから変な噂が」
「ふん。今更だな。噂などさせておけ」
らしくないこと言って、投げやりになりすぎだろう。
そう言いながらも、ちゃんと離れて腕を組んで踏ん反り返っているが。
私は溜息を吐きながら丁寧に手入れされた銀髪を乱すように撫でる。
「アンネにお前との関係を聞かれた私の身にもなれ」
迷惑そうに顔を歪ませながらも、拒否はしない。
この子、頭撫でられるの好きだよな。アンネに教えてあげようかな。また変な誤解をされるだろうか。
というか、知っている可能性もあるな。
「どうしてアンネがそんなことを聞くんだ」
どうしてって、好きな人の恋愛事情が気になるからに決まってるだろ! と言いたくなるのを堪える。
ぽふん、と頭のてっぺんに手を置いた。
「お前だって私にアンネとどうなんだと聞いただろう。一緒だよ」
「……そうか」
私の言葉に目を瞬かせた後、満足気に口元を緩める。その単純で分かりやすい男は、良いことを思いついたとでも言いたげに顎に手を添えた。
「今度、シンともしたと言って手を握ってみるか」
「原作と微妙に違う三角関係にすな」
(わざわざヤキモチを妬かせようとするな嫌われるぞ)
あ、本音と建前が逆になった。
あ、思ったより堪えてる。
ふたりの関係が進展したのを見届けた日の夜、私はアレハンドロの自室に呼ばれた。
まさか見られていたとは知らないアレハンドロは今、組んだ手に額を押しつけてうなだれている。
もしかして、そう言われたのがショックであんなに高圧的な態度だったのか。
嫌われるぞそんなんしてたら。
丸テーブルを挟んで向かい合わせで座り、まるで知らなかったかのように相槌を打ちながら話を聞く。
私は出来る限り優しく聞こえるように声を紡いだ。
「身を切るような思いだけどお前の幸せのためなら身を引くってことだよ」
「私を待たせるなんて贅沢なことをしておいて! 自分は簡単に身を引くなどと!」
語気を荒げながら見上げてくる顔は、完全に不貞腐れていた。言い分はよく分からないがご立腹なことはとてもよく伝わってくる。
私に言われても知らんがな。
皇太子殿下を待たせるというのは確かに贅沢というかなんというか、とにかく「よく本人にそれ言えたな」って感じだけども。
告白された側からしたら、贅沢とかそんなん知ったこっちゃない。今じゃないから今じゃないって言っただけだ。
しかも私の知る普通の学生とは違って、その返事は本当に人生を大きく左右するのだから。
結婚したら皇太子妃殿下だぞ。後の皇后陛下。
卒業の時に告白するつもりってことは、アンネにはすでにその覚悟が薄っすらとでもあるということで。すごすぎる。
「嫌なら待たなきゃ良いだろ」
「それが出来れば苦労はしない」
苦々し気に睨まれた。
惚れた弱みというやつだな。
ここで待てないなんていうやつ、器が小さすぎてヒーロー候補にもなれやしないんだろうけど。
いや、そこを強引にいくのもヒーローの資質な気もする。もう分からん。
とにもかくにも、機嫌が悪いのは絡まれる私にとってとても面倒だ。なんとかしなくては、と、溜息を飲み込んで思いついたことを口に出していく。
「別に恋人って関係じゃなくても一緒に居れるだろ? お友達として仲良くしてろ」
「友人では出来ないこともあるだろう!」
「例えば?」
柔らかく首を傾げる私の問いに、困ったように目線を彷徨わせる。なんと答えたものか迷っているようだ。
「……手を、握ったり……」
可愛らしいかよ。
せめてキスとかさ。
私は笑うのを堪えながらソファーを立ち上がる。動きを目で追ってくるアレハンドロの隣まで移動すると、組まれた手をそのまま両手で包んでやった。
ていうか、そのくらいはもうやってなかったっけ? なかったか? ダンスの時はカウントしちゃダメだよな。
アレハンドロは怪訝な顔でこちらを見る。
「何の真似だ」
振り払わないんだ。
私はにっこりと微笑んだ。
「手くらい友人でも握れるぞ、と思ってな。肩も組めるし抱き締められるし一緒に遊びに行けるし一緒に寝られるし何でも出来る、な?」
嘘ではない。
言ったことは全て、攻略対象くんたちとやったことがある気がする。
ヒロインを差し置いてすごいな私。
悪役令息の癖に。
悪役か? まぁいい。
「貴様のそういうとぼけたところは好かん」
吐き捨てるように言いながら手を払われて、「デスヨネー」と思う。すると、突然、手首を掴まれて強く引かれた。
何事かと考える暇もなく、頬に手が触れる。
アレハンドロの豪華で美しい顔が、鼻先が触れるほどまで近づいてきた。
年頃の女の子なら気を失っているかもしれない。
だが私はというと、思わず笑ってしまいながら胸を押した。
「近い近い」
「友人ではこれが限界だろう」
至近距離で眉を寄せる美形に、私は素早く首を左右に振った。
「いや、これは友人はしないやつだ皇太子殿下」
「なんでも出来ると言ったのはどの口だ」
友だちでも常識の範囲でスキンシップくらいとれるよって言っただけなのに。距離感バグってるのか。
いや、わかっているはずだ。分かっててこういうことするから乙女ゲームのメインヒーロー怖い。
そりゃあ私も「違うそうじゃない」っていうのは分かっててふざけたんだけども。
乙女ゲームっていうか完全にBLのワンシーンになっちゃったよ。
ていうか、ずっと顔が近いよ。
話す度にお互いに息を掛け合ってるもん。
「全く、こんなことしてるから変な噂が」
「ふん。今更だな。噂などさせておけ」
らしくないこと言って、投げやりになりすぎだろう。
そう言いながらも、ちゃんと離れて腕を組んで踏ん反り返っているが。
私は溜息を吐きながら丁寧に手入れされた銀髪を乱すように撫でる。
「アンネにお前との関係を聞かれた私の身にもなれ」
迷惑そうに顔を歪ませながらも、拒否はしない。
この子、頭撫でられるの好きだよな。アンネに教えてあげようかな。また変な誤解をされるだろうか。
というか、知っている可能性もあるな。
「どうしてアンネがそんなことを聞くんだ」
どうしてって、好きな人の恋愛事情が気になるからに決まってるだろ! と言いたくなるのを堪える。
ぽふん、と頭のてっぺんに手を置いた。
「お前だって私にアンネとどうなんだと聞いただろう。一緒だよ」
「……そうか」
私の言葉に目を瞬かせた後、満足気に口元を緩める。その単純で分かりやすい男は、良いことを思いついたとでも言いたげに顎に手を添えた。
「今度、シンともしたと言って手を握ってみるか」
「原作と微妙に違う三角関係にすな」
(わざわざヤキモチを妬かせようとするな嫌われるぞ)
あ、本音と建前が逆になった。
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