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第三章

恋愛イベント

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 エラルドに関しては、そこで死んだりなんかしたら物語の流れが断ち切られるし、シンの死が際立たないからからではないかという大人の考察をラナージュはしている。
 本当のところは製作者に聞かないと分からない。

 そして、この魔王討伐最終決戦はメインヒーローであるアレハンドロルートのみで発生するものらしい。
 他のキャラのルートだと、アンネと2人で協力して魔王を倒すんだって。

 2人で倒せるんかい。そういえば2人の愛の力で倒すとか前にも言ってたな。
 アンネは聖女とか特殊能力持ちでもないのに。

 意外と普通に倒せそうな魔王だな。私が乗っ取られる心配が無ければなー。

「魔王を弱らせる薬の作り方を調べるかとりあえず。で、それを持って魔王が封印されてるところに行ってかけてみるとか」
「すでにシンに取り憑いた状態ですが試したことがあります。あれは魔王が実体化してないと飲ませても頭から掛けても意味をなさないんですの」
「試したのかぁ」

 そりゃ確かに、4回も繰り返してたら思いつかないわけがない。
 ちなみに、魔王出現の際に遠くへ逃げておくというのも試したらしいがダメだったらしい。
 物語の引力怖い。

 私はひたすら思いつくことを提案していくことにした。

「じゃあ魔王の封印を強化しにいこう。もし私が乗っ取られたら、抵抗せずに実体化させるから即座に薬をかけてもらうのはどう?」

 私の意識が無くなるのでリスクは大きいが、無力化出来ればチャンスがあるかもしれない。
 何事もなく封印を強化できれば、魔王復活そのものを阻止できる。

「同行者がわたくしでは、ゲームオーバーが早まる恐れがあるので他の協力者が必要かと」
「うーん」

 確かにラナージュにとっては魔王復活は死に直結の恐れがある。

 しかしながら。
 魔王が封印されている場所があるのでその封印を強化しに行きます。その際、私の身体が魔王に乗っ取られる可能性があるのでそうなったら即この薬を使ってください。

 なんて聞いて「はーい」て言う人いる?
 魔族が最早伝説と化してる世界で?

「病院行きになりそうだな」
「それによく考えたら、一時的に弱体化させてその後どうするかって話になりますわね」
「とりあえず拘束してもらって、成人するまで王都の地下牢に結界張りまくって隔離を」
「それは油断していたら卒業式直前に突破されて大事になるフラグですわ」
「あるあるだな」

 そもそも、「魔王」と称されるような力の持ち主ならすぐに出てきそうだ。

 美男美女が膝枕をしながら真顔であーでもないこーでもないと、淡々と話をしている様子は客観的にはどんな状況に見えるのか。
 ちょっと別のモブになって見てみたいわ。
 話してる内容が変すぎることに気づいて真っ青になりそう。

「魔王の封印場所の特定と薬の用意をしながら考えるか……」
「このまま何もせず平穏に終わってくれたら一番ですけれど、そうしましょう。薬の方は任せてくださいまし。一度作っていますので」

 そういえばラナージュは薬学が得意だった気がする。
 もしかしたら、その薬を作るために努力した結果なのかもしれない。ありがたく任せることにしよう。

 問題は封印場所だ。魔王や魔族に関しては、図書館の本を読み尽くしてしまった気がするが、どうしたものか。
 私は自分の前髪をかき上げる。

「もっと古い文献がある場所はないかな……薬の作り方はどうやって調べた?」
「あれは魔力を強制的に抑える薬なんですの。魔力の制御が効かなかった時などに使用するものです。全ての原動力が魔力にあるらしい魔王には効くはずだ、とゲームのネルスが言ってましたわ」

 パトリシアのように、保持する魔力と魔術の技術が釣り合っていないと暴走してしまうことがある。
 その時に私のように魔術に長けた人間が近くに居ればいいが、いない場合のために作られたものだった。
 特に幼い子どもの場合は死活問題なため、平民にも普及している薬だ。

「それは、作らなくても売ってるんじゃないのか?」
「市販のものよりも強力にするために色々と必要なことがありますのよ。ふふ。こっそり薬を飲み物に混ぜた後、魔術が丸一日使えなかった時のシン。なかなか良かったですわ」
「推しじゃありませんでしたっけ」

 いつも通り美しいはずの笑顔なのに、背中に寒気が走った。
 魔王にまでは効果を及ぼせなくても、シンの体には効果が絶大だったらしい。
 彼は絶望的に慌てふためいたに違いない。

 推しがあたふたしているのを見るのは楽しいけども。

 シンが可哀想だから詳しくは聞かないけども。

 いやもう本当に不憫だからシン・デルフィニウムが幸せになる世界線もほしいよな。
 二次創作で良いから誰か幸せにしてあげてくれ。
 アンネと相思相愛になって魔王からも上手く解放されてっていう感じで。
 
 ん? アンネ?

「あ! しまった!」

 突如声を上げて起き上がった私に、ラナージュの身体が大きく跳ねた。

「き、急にどうなさいましたの!?」
「今日はアレハンドロがアンネにお土産のペンダントを渡すっていうから覗こうと思っていたのに!!」

 ものすごい説明口調で叫んでしまった。
 
 我ながら最低だ。
 
 いやでもちょっとだけ見せてもらうくらいなら許されるかなって。わざわざ宣言されたら見たくなるに決まっている。

「なんでそんな大切なことを忘れていましたの!?」

 恐ろしい剣幕でラナージュが立ち上がって今度は私がびっくりした。

「こんな話をしている場合ではなくてよ! 早く2人を探さなければ!」
「私が言うのもなんだが、命が掛かってる話をしていたんだが!?」

 拳を握りしめて走り出したラナージュを追いかけながら声を上げる。
 一体、どこに行くつもりなのだろう。

 イベント的にココだ! みたいな場所があるのだろうか。
 他に当てがないので追いかけることにした。
 
 恋愛イベントを逃したくないオタクの情熱はすごいなぁ、などと他人事のように思う私であった。
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