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第三章

友人

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 露店で買い食いしたり、魔術補助の道具の店に入ったり著名な建築家が設計した建物をみたりと完全に観光を楽しんだ。
 なんとか無事に1日が済んでホッとしながら、街の入り口で馬車を待つ。

「どうせなら一泊くらいしていきたかったな?」
「何を言ってるんだ。でん……アレックスを外泊させるわけにはいかない」
「一晩くらい寝ないで護衛するぞ」
「そういう訳にも行かないだろう」

 嗜めながらも、本当は分かる。
 このままもう少し浸りたいの分かる。
 正直、神経擦り減るから外泊は勘弁願いたいけど、友だちと外泊してみたいよね。

 楽しいぞー!大人になったらいつでもしたまえと言いたいけど、大人になったこの子たちにそんな暇はあるのだろうか。
 無さそうだな。
 卒業までに一度、そんな機会があるといいな。
 
 名残惜しみながら雑談していると、通りすがりのおばあさんたちが、

「あら、まるで王子様の御一行みたいね」
「まぁ本当。綺麗なお顔ねー元気になるわぁ」

 と、私たちを見て微笑んだ。

 この国の人たちの言う王子様の御一行は、魔王討伐の旅をするルース王子の物語に出てくる仲間たちのことだ。

 金髪碧眼の絵に描いたような王子様のルース王子、剣の騎士、盾の騎士、賢者、そして正体が魔王の魔術師の5人組。

 私が金髪碧眼の美男子なばっかりにそう連想するのだろう。はっきり他人にそう言われると、なんだか居た堪れないわ。
 
「今日はよく『王子の一行みたいだ』って言われる日だったな」
「シンの見た目がルース王子すぎるんだよね」

 迎えに来た馬車に乗り込んでから、バレットがふと呟いた。
 バレットの正面のエラルドが小さく笑いながら、隣に座る私を見る。苦笑いを返すしかない。
 なんか目立つから、次からこのメンバーで出かける時は私も髪の色を変えようかな。

「剣を持ってる2人のせいでもあると思うぞ」

 実際その通りなので、軽く言い返してやる。
 それを聞くと、エラルドは正面に座るバレットの方に楽しげに視線をやった。

「バレット、剣と盾どっちがいい?」
「剣」

 食い気味の即答。まぁ普通は剣が良いよな最強だし。裏切らないし。
 エラルドも本当は剣の騎士が良いのかもしれないから申し訳ないが、バレットの方がイメージに合う。

 というか、盾の騎士にある「忠誠心熱い騎士団長」のイメージがバレットに湧かない。

 ぼんやりと剣の騎士はバレットで盾の騎士はエラルドなんだろうな、と考えているとエラルドはネルスの方を向いた。

「ネルスは魔術師の男の子って言われてたぞ」
「僕は賢者がいい」

 この子も食い気味。それはいつも言ってるもんな。
 偶然魔術を使っているところを見た女の子たちが言っていただけだが、なるほど外見的にはありなのかもしれない。

 エラルドは、ネルスとバレットの間に座っているアレハンドロへと目線を移しながら顎に手をやった。

「他の人たちには、アレハンドロとネルスはどっちが魔術師でどっちが賢者に見えてたんだろうな?」
「本を抱えてたネルスの方が賢者っぽく見えていた。アレハンドロはどう思う?」

 答えたバレットがネルスに気を使うとは思えないから、本当にそう思っているのだろう。
 声には出さないが、正直、見た目としてはどっちがどっちでもいいと私は思う。
 アレハンドロは軽く頷いた。

「私もネルスが賢者で良いと思うが?」

 こっちは小さい子に配役を譲ってる感があるな。
 正体が魔王の魔術師と、王子に生涯尽くす賢者なら賢者の方が良いだろう。知らんけど。
 この人、本来なら王子だし。
 
「待て、ちょっと待てエラルド、バレット」

 和やかな空気の中、希望通りの返答を得ている筈のネルスが厳しい口調で割って入って来た。

「もう馬車の中なのにどうして殿下を呼び捨てに!」

 そう言われてみればそうだ。
 2人とも「殿下」と読んでいた筈なのに。
 自然過ぎて気がつかなかった。
 でもまぁ良いじゃないかもうお友達だし。私もそう呼んでいるし。

「え、いいよな? 友人だしな!」
「何か問題あるか?」

 エラルドもバレットも白々しく、指摘されると思わなかったなーという表情でアレハンドロの方を向いた。特に叱りもしない様子に、ぷりぷりしながらネルスもそちらを向く。

「あーもう! 殿下! こういうことはきちんと……っ」

 眉間に皺を寄せてガミガミモードだったが、そこで言葉を切った。

 俯き気味のアレハンドロが、顔を真っ赤にして口元を緩めて。あんまりにも嬉しそうな顔をしていたから。

 腰を浮かす勢いだったネルスは視線を泳がせ、音を立てないように気をつけながら正面を向いて座り直した。

「殿下が良いなら、良い、のか……?」
 
 アレハンドロの可愛らしい反応のせいで、いつも通り微笑んでいるエラルドも心なしか顔が赤いし、窓を向いたバレットも耳が赤い。

 どうするこの空気。
 こういう時に役に立つ、空気クラッシャー系の陽キャが居ないわそういえば。
 
(ぐ……! かわいい……!!)

 会話に入れないくらい尊い。むず痒い。
 にやけそうなのを表情筋を総動員して真顔になる。
 
 私はとりあえず、目を瞑って寝たふりを決め込む事にした。
 
 疲れてたから本当に寝てしまった。もったいない。
 
 目を覚ました時には、肩にエラルドの頭が乗っていた。アレハンドロとバレット、ネルスももたれ掛かり合いながらバランスを取って寝ている。
 
 動けないけど、まぁいいかー。

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