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第三章
かすりもしてない
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春休みが終わってから、ラナージュと話す機会が多くなった。
それは周囲から見ても明らかだろう。
そこに、意外とあっさり決まった皇太子の婚約解消が重なった。
もちろん恋愛関係にあるというわけではない。出来るだけ情報共有がしたいからだ。
主にカフェタイムにラナージュと「どうしたら死なずに済むか」「ラナージュは今まで何を試したか」といったことを中心に話し合った。
ゲームを知らない私からは、伝えられる情報などほぼないかと思っていたのだが。
なんと、ラナージュの推しはシン・デルフィニウムらしい。
推しにすでに4回殺されてるの凄いな。
そういうわけで、私の身の回りのことはなんでも知りたがった。
親がどうとか兄弟はとか使用人はとか何を着て寝るのかとか。
ゲームのシンがどうだったか知らないよ。あくまで私の話だよ。と何回言ったことか。
気持ちは分かるけど。
ちなみに本物のシンの一人称は「俺」らしい。
一人称が変わってるなんて私なら解釈違いで憤死するわ。なんかごめん、と謝ってしまった。
生き残るための話をする予定が、毎回話がどんどんオタクの会話になっていくので未だに建設的な案は出ていない。
とにもかくにも、急に仲良くなった私たちを見たら10代の学生でなくとも何かあると勘違いするだろう。
エラルドは楽しげに首を傾げてくる。
「で、将来を誓い合ってた相手は実はラナージュだった?」
そういえばそんな話を1年前にしてたな。その設定忘れそうだ。本当のことだけど忘れそうだ。
私は現実世界の伴侶の姿とラナージュの姿を頭に浮かべ、にっこりと笑った。
「かすりもしてないから安心しろ」
「だよな? 良かったー」
「良かった?」
言葉通りに、本当にホッとした様子のエラルドに強めに瞬きしてしまった。
「だって、シンは純粋にアレックスのこと応援してるだろ? ラナージュと恋人同士だったら、婚約解消を誘導した、みたいになるしな」
「誰かに言われたのか?」
「そんな訳ないって言っといたから大丈夫だよ」
柔和な笑顔で流された。
(言われたのか)
わざわざ私に伝えるということは、エラルドも否定はしてくれたものの確証がなくて安心したかったんだろう。
仕方ないよな。私でもそう思うだろうし。
エラルドって私やアレハンドロ本人には言えない不満、というか悪口の捌け口にされてしまってる気がする。
ネルスだと貴族でも上位な上に口でボコボコにされるし、バレットだと物理的にボコボコにされる可能性を恐れて何も言わないんだろう。
実際、エラルドの悪口を言った貴族がバレットに聞かれて殴られたところを、通りかかったエラルドが仲裁するという意味の分からない事件があった。
私とエラルド、自分の悪口を言った相手を庇わないといけないシチュエーション多すぎだから。
もう悪口言う時は本当に心して言って。というか、誰も聞いてないところでこっそり言おうね。
そんな悪口言われるようなことしてるつもりないんだけどなぁ。
「バレットが居たから声かけようと思ったら近くにいる生徒を思いっきり殴っててびっくりしたよー」
と苦笑していたが笑い事ではないぞ。
その生徒がどうなったか?
バレットが殴ったのはお腹だったけど、吹っ飛んで頭ぶつけて気絶して、頭から血が出てたのをエラルドが私のところに連れてきたから治してあげたわ。
保健室だとバレットが貴族を殴ったことが先生にバレるからね。闇医者か何かか私は。
まぁ、次の日には噂になってたけど。
その点、エラルドが怒ったのは「魔族」と私を罵った生徒に対してのみ。
他のことは自分のことも友人のことも、悪質な噂話以外は聞いても適当に流しているらしい。
悪口というより僻み嫉みだからキリがないんだと言っていた。
その態度が「こいつになら言ってもいいんだ」と思わせているらしくて。
なんかもう馬鹿なのかな。聞かされるエラルドが可哀想。怒んないから私には直接言いにおいで。
そういえば、エラルドが優しすぎてメンタル壊さないか心配だとラナージュに溢したことがある。
「ゲームでは1年生の準決勝でシンに敗れて、夜に剣を抱えて涙を零すイベントがあります。まぁアンネがすぐ立ち直らせるんですけれど。それ以降は何があってもだいたい笑ってますわ。え? バレットに負けて泣くイベントが既に発生しているですって? 詳しく!」
と、オタク特有の早口で教えてくれたので大丈夫だとは思うのだが。
しかし私、エラルドに勝つ予定だったんだなぁ。
と、そんな話をしながら飲み物を買う列に並んでいると。
「さっきの人たちかっこよかったねー! 長い黒髪の人、強くて素敵!」
「私、魔術師の男の子がかわいくて好みだった!」
「小さくて可愛かったねー! でも私、1番大きい赤い髪の人! 一気に2人も倒しちゃったかっこいい!」
若い女性の弾む声が通り過ぎていった。
「……」
私たちは無言無表情で目を合わせる。
「なぁ、エラルド」
「なぁに? シン」
「私たちは、なんであの3人を置いて2人で来てしまったんだ?」
不味いな、という心とは裏腹に淡々と言葉が滑り出てきた。
バレットがいるから安心して動いてしまった。身の安全についてはそれで良かったかもしれないが、どうやらそういう問題ではなかったようだ。
エラルドは顎に手を当て、目線を上にする。
「んー……世話する人とされる人に分かれた結果?」
それな。
何の違和感もなく二手に分かれてしまったな。
私はエラルドに手を差し出した。
「掴まれ魔術で移動する」
「あはは、便利だなー!」
笑うエラルドが手を握ったことを確認して、詠唱を開始した。
それは周囲から見ても明らかだろう。
そこに、意外とあっさり決まった皇太子の婚約解消が重なった。
もちろん恋愛関係にあるというわけではない。出来るだけ情報共有がしたいからだ。
主にカフェタイムにラナージュと「どうしたら死なずに済むか」「ラナージュは今まで何を試したか」といったことを中心に話し合った。
ゲームを知らない私からは、伝えられる情報などほぼないかと思っていたのだが。
なんと、ラナージュの推しはシン・デルフィニウムらしい。
推しにすでに4回殺されてるの凄いな。
そういうわけで、私の身の回りのことはなんでも知りたがった。
親がどうとか兄弟はとか使用人はとか何を着て寝るのかとか。
ゲームのシンがどうだったか知らないよ。あくまで私の話だよ。と何回言ったことか。
気持ちは分かるけど。
ちなみに本物のシンの一人称は「俺」らしい。
一人称が変わってるなんて私なら解釈違いで憤死するわ。なんかごめん、と謝ってしまった。
生き残るための話をする予定が、毎回話がどんどんオタクの会話になっていくので未だに建設的な案は出ていない。
とにもかくにも、急に仲良くなった私たちを見たら10代の学生でなくとも何かあると勘違いするだろう。
エラルドは楽しげに首を傾げてくる。
「で、将来を誓い合ってた相手は実はラナージュだった?」
そういえばそんな話を1年前にしてたな。その設定忘れそうだ。本当のことだけど忘れそうだ。
私は現実世界の伴侶の姿とラナージュの姿を頭に浮かべ、にっこりと笑った。
「かすりもしてないから安心しろ」
「だよな? 良かったー」
「良かった?」
言葉通りに、本当にホッとした様子のエラルドに強めに瞬きしてしまった。
「だって、シンは純粋にアレックスのこと応援してるだろ? ラナージュと恋人同士だったら、婚約解消を誘導した、みたいになるしな」
「誰かに言われたのか?」
「そんな訳ないって言っといたから大丈夫だよ」
柔和な笑顔で流された。
(言われたのか)
わざわざ私に伝えるということは、エラルドも否定はしてくれたものの確証がなくて安心したかったんだろう。
仕方ないよな。私でもそう思うだろうし。
エラルドって私やアレハンドロ本人には言えない不満、というか悪口の捌け口にされてしまってる気がする。
ネルスだと貴族でも上位な上に口でボコボコにされるし、バレットだと物理的にボコボコにされる可能性を恐れて何も言わないんだろう。
実際、エラルドの悪口を言った貴族がバレットに聞かれて殴られたところを、通りかかったエラルドが仲裁するという意味の分からない事件があった。
私とエラルド、自分の悪口を言った相手を庇わないといけないシチュエーション多すぎだから。
もう悪口言う時は本当に心して言って。というか、誰も聞いてないところでこっそり言おうね。
そんな悪口言われるようなことしてるつもりないんだけどなぁ。
「バレットが居たから声かけようと思ったら近くにいる生徒を思いっきり殴っててびっくりしたよー」
と苦笑していたが笑い事ではないぞ。
その生徒がどうなったか?
バレットが殴ったのはお腹だったけど、吹っ飛んで頭ぶつけて気絶して、頭から血が出てたのをエラルドが私のところに連れてきたから治してあげたわ。
保健室だとバレットが貴族を殴ったことが先生にバレるからね。闇医者か何かか私は。
まぁ、次の日には噂になってたけど。
その点、エラルドが怒ったのは「魔族」と私を罵った生徒に対してのみ。
他のことは自分のことも友人のことも、悪質な噂話以外は聞いても適当に流しているらしい。
悪口というより僻み嫉みだからキリがないんだと言っていた。
その態度が「こいつになら言ってもいいんだ」と思わせているらしくて。
なんかもう馬鹿なのかな。聞かされるエラルドが可哀想。怒んないから私には直接言いにおいで。
そういえば、エラルドが優しすぎてメンタル壊さないか心配だとラナージュに溢したことがある。
「ゲームでは1年生の準決勝でシンに敗れて、夜に剣を抱えて涙を零すイベントがあります。まぁアンネがすぐ立ち直らせるんですけれど。それ以降は何があってもだいたい笑ってますわ。え? バレットに負けて泣くイベントが既に発生しているですって? 詳しく!」
と、オタク特有の早口で教えてくれたので大丈夫だとは思うのだが。
しかし私、エラルドに勝つ予定だったんだなぁ。
と、そんな話をしながら飲み物を買う列に並んでいると。
「さっきの人たちかっこよかったねー! 長い黒髪の人、強くて素敵!」
「私、魔術師の男の子がかわいくて好みだった!」
「小さくて可愛かったねー! でも私、1番大きい赤い髪の人! 一気に2人も倒しちゃったかっこいい!」
若い女性の弾む声が通り過ぎていった。
「……」
私たちは無言無表情で目を合わせる。
「なぁ、エラルド」
「なぁに? シン」
「私たちは、なんであの3人を置いて2人で来てしまったんだ?」
不味いな、という心とは裏腹に淡々と言葉が滑り出てきた。
バレットがいるから安心して動いてしまった。身の安全についてはそれで良かったかもしれないが、どうやらそういう問題ではなかったようだ。
エラルドは顎に手を当て、目線を上にする。
「んー……世話する人とされる人に分かれた結果?」
それな。
何の違和感もなく二手に分かれてしまったな。
私はエラルドに手を差し出した。
「掴まれ魔術で移動する」
「あはは、便利だなー!」
笑うエラルドが手を握ったことを確認して、詠唱を開始した。
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