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第二章

剣術大会

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 冷たい空気が頬を擽る。
 呼吸に合わせて白い息が舞う。
 
 しかしその空間は熱気に包まれていた。

「エラルド・ユリオプス、前へ!」

 風に揺れる明るい緑の短い髪。
 黄色い瞳は真っ直ぐと獲物を見据え。
 胸囲には銀の鎧が輝いて。
 手は剣を強く握っている。
 
 最高にかっこいい私の友人が、真剣な表情で会場の中央へ足を進める。
 
 ああ、ずっと見ていられるなぁ。

「シン・デルフィニウム、前へ!」

 獲物が私じゃなければな!!!!
 
 どうして!
 
 こうなった!!
 
 
 ◇
 
 
 どうしてもこうしても。
 皇太子アレハンドロが、剣術大会の予選を突破してしまったからである。
 フラグ、無事回収。
 以上。
 
 はっはっは!
 誰だよ16人に残るわけないしって本戦まで行けたら代理出場するなんてことを了承したのは。
 騎士階級の皆様が皇太子に負けるわけないジャーンとか思って頷いちゃったのは誰だよ。
 
 過去を消したい。
 
 
 なにも、日々訓練を怠らない騎士階級の皆様の、しかも本戦に出場出来るかもしれないほどの実力者がアレハンドロに負けたわけではない。
 
 私は貴族優位社会の大人の事情を甘く見ていたのだ。
 

 話は、剣術大会の予選の日まで遡る。
 冬休みが終わってすぐ、何日かに分けて予選が行われた。
 
 剣術大会の予選は16ブロックに分けてトーナメントが行われる。
 私は興味なさすぎてよく知らなかったのだが、15のブロックに剣術の成績が均等になるように組み分けされていたらしい。

 そう。
 15のブロックに。

 あと残りの1ブロックはなんと、成績問わず貴族のみが配置されたブロックだった。

 剣術大会は、エラルドのような例外が存在しない限り騎士ばかりの大会になってしまう。
 学園の生徒の割合としては貴族が一番多いので、それでは体裁が悪いと判断されているらしい。

 騎士階級に貴族が負けて何が悪いのか。騎士が負ける方が微妙だわ。
 言いたいことは色々あるが、兎にも角にも。
 私はもちろんアレハンドロも知らなかったことだが、「お貴族様ブロック」が存在し、必ず貴族階級の人間が1人は本戦に出場出来るようになっていたのだ。

 アレハンドロは皇族だがまぁそこはどうでも良い。
 
 アレハンドロは強かった。
 
 予選を観に行っていたアンネもネルスも、超カッコいい皇太子殿下を浴びてテンション爆上がりで帰ってきたし。

 聞いた話では、アレハンドロは1年生貴族の中では3番目に剣術の成績いいんだって。
 1番はエラルド、2番は私ですって。へー。

 ちなみにエラルドは一年生の中で剣術の成績がバレットに続いて2位。
 そのため騎士階級の皆さんに混ぜられていたが、難なく本戦出場を決めてきていた。
 おいおいおい2年3年の剣術得意なお貴族さま達は一体何やってたんだよもっと頑張ってくれよ。
 
 本戦出場になったと聞いた時、私は脳内で喚き散らした。
 声に出すのは格好悪いなと思って口を閉じていたが、許されるならその場にひっくり返ってイヤイヤと手足をバタバタさせたかった。

 15歳のイヤイヤ期なんて目も当てられないからやらないけども。
 そんなに嫌なら引き受けるなって話なんだけども。
 アレハンドロがかわいそかわいかったからもー!
 
 人の気も知らないで、

「悪いなシン、本戦の出場は任せたぞ」

 と、くっそお綺麗な面でドヤ顔してきた皇太子殿下の横っ面しばいてやりたい気持ちだった。
 でもまたそのお顔が。すごく楽しそうで満足そうだった。

 本当は本戦まで自分で出たいのを我慢しているわけだし、全力を尽くしただけなのだから文句を言うわけにもいくまい。

「さすがだな。楽しかったみたいで何よりだ」

 と、私はなんとか笑顔で伝えた。そして、一瞬だけ嬉しそうに口元を緩ませたのを見逃さなかった。

 悔しいかわいい。
 泥んこ遊びで全身ドロッドロにして笑ってる我が子を見た時のような感覚だ。
 楽しそう! かわいい! だからいいけど!
 これ、私が処理するのか!

 という感じ。
 
 とても嫌であることを誰かに聞いて欲しい私は、最終的にはエラルドの部屋まで行って泣きついた。
 
 
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