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第二章
納税し甲斐がある
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「優しくて、物静かでミステリアスで」
待ってくれ。
「誰が?」
「ネルスさまですって!」
パトリシアが素早くつっこんでくれた。
いやいやでも。ネルスって他にも居たのかな。いたら絶対知ってると思うけど。
私の冗談だと思ったらしいアンネが笑いながらネルス(仮)の良いところを更に教えてくれる。
「線が細くて頭が良くて、ここぞという時はバシッと言ってくれるよね」
んー、まぁやっぱり私の親戚のネルスの話かな?
パチン、とパトリシアが両手を合わせた。
「さっき聞いた話とかね!カッコよかったね!」
「その話詳しく」
私は食い気味に身を乗り出す。
黒い瞳を輝かせたパトリシアが、人差し指を立てて話し始めた。
「商人の子に対して『金の匂いをさせすぎてこの場にいるのが相応しくない』とかなんとか言ってきた貴族の方がいたらしくて!」
いかにもモブ雑魚貴族の自己紹介って感じだな。
「近くで本を読んでいたネルスさまが『そういう発言が貴族への反感を生むんだ。口を慎め。君の方がこの場に相応しくない』って仰ったんだそうです」
話を引き継いだアンネのモノマネが意外と上手い。
片手にフォークを持ったままだけど。
ほんで、もっと怒鳴ったりしてたんだろうな本当は。
「座ったまま静かな声で睨んでるのがカッコ良かったんですって!それだけ言ってまた本を読み始めたっていうのがね!ね!」
両拳を握りしめてブンブン振っているパトリシアのお皿を少し彼女から離しながら、私は首を傾げた。
「ネルスってクリサンセマム以外に居たか?」
「クリサンセマムさまのお話ですわよ?」
「……そっかぁ……」
ラナージュが穏やかにとどめを刺してきた。
静かに怒れるのかネルス。
私と居る時と随分違うじゃないか。
『お前のそういう発言が!貴族への反感を生むんだぞ!!』
って仁王立ちしてキャンキャン言ってるとこしか想像できない。
今度クリサンセマム侯爵に伝えよう。
きっと大喜びだ。女の子に人気なことも大喜びだ。
多分、コミュ症気味なところがあるから、親しくない相手には大人しくなってしまうだけだとは思うけど。
私は興奮し切ったパトリシアに紅茶を差し出しつつ、話を広げようとした。
女子会楽しい。スイーツ美味しい。コーヒー最高。
「他に人気がありそうなのはアレハンドロだけど……いや、ないか」
最高品質の美男子だけど、中身が幼児だし。偉っそうだし高圧的だし愛想ないしわがままだし。
アンネが勢いよく首を横に振った。
「大大大人気ですよ?あ、もちろん、本気で恋をすることは畏れ多すぎて。そういう意味でおっしゃったのなら少し違うかもですけれど……!」
本命の女の子に「畏れ多すぎて恋愛対象にならない」って言われているのが不憫すぎる。
逆に言えば、エラルド、バレット、ネルス、ついでに私も、本気で恋愛できる対象って認識なのか。みんなの中で。
自分たちも身分が高い人たちが多いからそうなのか。
話を聞きながら紅茶を一気に飲み干したパトリシアが、再び元気に入ってくる。
喉渇いてたんだな。
「あんな美男子が皇太子殿下なんて、納税し甲斐があるというものです!」
「ノウゼイシガイガアル」
のうぜい…しがいが、ある。
「アレハンドロさまの芸術的なお顔はそのためのものだったんですわね」
すでに皿の上を綺麗にしていたラナージュが、口元を拭きながら目を瞬かせている。
最早、貶してるようにしか聞こえないぞ。貴方の婚約者ですよ一応。
「顔や声以外に良いところあるか?」
私は「貴様、不敬だぞ」という無駄に良い低音ボイスが聞こえてきそうなことを言ってしまった。
「し、シンさま!不敬ですよ!」
焦った口調のパトリシアにほぼそのまま言われた。
「殿下は、お優しい方ですし」
すぐにアンネがフォローに入ってくれる。
だがしかし、それは君にだけでは。
「成績は全て上位にいらっしゃいますし、シンさまが思ってらっしゃるより有能な方ですわよ?」
ラナージュもちゃんと良いところを教えてくれた。
勉強出来て運動出来て顔が良くて身分が高い最高の男。
それが我が国の皇太子アレハンドロだ。
表向きはな。
「それは知っているんだが。正直、性格が幼くないか?」
すぐ拗ねるし。
お願い事するのに命令口調だし。
エビで激ギレするし。
「そういうところもお可愛らしいですわ」
うん、まぁそれは分かる。可愛げがある。
皿をひっくり返したのは別だけど。
あれで中身まで完璧だったらつまらないしな。
それよりもラナージュが可愛らしいって言ったことを本人に伝えても良いだろうか。反応が見たい。
通じ合った私とラナージュとは反対に、パトリシアとアンネはポカンと口を開けていた。
「えー、私、殿下のこと幼いと思ったことないです」
「私も……男らしくていつも素敵です。どちらかというと大人っぽいような」
また年齢的な感覚の違いかな。
いやでもラナージュも若いよな。才色兼備お嬢様の感覚は普通じゃない可能性もあるけど。
それにしても、初対面で絶望的な顔をさせられていたのは君ではなかったのかアンネ。
そこからすごい名誉挽回してるな。
いつも素敵だって!頑張ったなアレハンドロ。
でもね、大人っぽい優しい男はいきなり他人を怒鳴りつけたりしないんだわ。
あー、でも二次元だとそういうのも許されるかなぁ。
この世界のモテる男の価値観は二次元と同じという認識でよさそうだしな。
アレハンドロは俺様キャラってことかな。
「クールでカッコいいよね?」
クールキャラか。クールキャラ。
「ネルスの時から何度もすまないが」
いったい誰の話だ。
待ってくれ。
「誰が?」
「ネルスさまですって!」
パトリシアが素早くつっこんでくれた。
いやいやでも。ネルスって他にも居たのかな。いたら絶対知ってると思うけど。
私の冗談だと思ったらしいアンネが笑いながらネルス(仮)の良いところを更に教えてくれる。
「線が細くて頭が良くて、ここぞという時はバシッと言ってくれるよね」
んー、まぁやっぱり私の親戚のネルスの話かな?
パチン、とパトリシアが両手を合わせた。
「さっき聞いた話とかね!カッコよかったね!」
「その話詳しく」
私は食い気味に身を乗り出す。
黒い瞳を輝かせたパトリシアが、人差し指を立てて話し始めた。
「商人の子に対して『金の匂いをさせすぎてこの場にいるのが相応しくない』とかなんとか言ってきた貴族の方がいたらしくて!」
いかにもモブ雑魚貴族の自己紹介って感じだな。
「近くで本を読んでいたネルスさまが『そういう発言が貴族への反感を生むんだ。口を慎め。君の方がこの場に相応しくない』って仰ったんだそうです」
話を引き継いだアンネのモノマネが意外と上手い。
片手にフォークを持ったままだけど。
ほんで、もっと怒鳴ったりしてたんだろうな本当は。
「座ったまま静かな声で睨んでるのがカッコ良かったんですって!それだけ言ってまた本を読み始めたっていうのがね!ね!」
両拳を握りしめてブンブン振っているパトリシアのお皿を少し彼女から離しながら、私は首を傾げた。
「ネルスってクリサンセマム以外に居たか?」
「クリサンセマムさまのお話ですわよ?」
「……そっかぁ……」
ラナージュが穏やかにとどめを刺してきた。
静かに怒れるのかネルス。
私と居る時と随分違うじゃないか。
『お前のそういう発言が!貴族への反感を生むんだぞ!!』
って仁王立ちしてキャンキャン言ってるとこしか想像できない。
今度クリサンセマム侯爵に伝えよう。
きっと大喜びだ。女の子に人気なことも大喜びだ。
多分、コミュ症気味なところがあるから、親しくない相手には大人しくなってしまうだけだとは思うけど。
私は興奮し切ったパトリシアに紅茶を差し出しつつ、話を広げようとした。
女子会楽しい。スイーツ美味しい。コーヒー最高。
「他に人気がありそうなのはアレハンドロだけど……いや、ないか」
最高品質の美男子だけど、中身が幼児だし。偉っそうだし高圧的だし愛想ないしわがままだし。
アンネが勢いよく首を横に振った。
「大大大人気ですよ?あ、もちろん、本気で恋をすることは畏れ多すぎて。そういう意味でおっしゃったのなら少し違うかもですけれど……!」
本命の女の子に「畏れ多すぎて恋愛対象にならない」って言われているのが不憫すぎる。
逆に言えば、エラルド、バレット、ネルス、ついでに私も、本気で恋愛できる対象って認識なのか。みんなの中で。
自分たちも身分が高い人たちが多いからそうなのか。
話を聞きながら紅茶を一気に飲み干したパトリシアが、再び元気に入ってくる。
喉渇いてたんだな。
「あんな美男子が皇太子殿下なんて、納税し甲斐があるというものです!」
「ノウゼイシガイガアル」
のうぜい…しがいが、ある。
「アレハンドロさまの芸術的なお顔はそのためのものだったんですわね」
すでに皿の上を綺麗にしていたラナージュが、口元を拭きながら目を瞬かせている。
最早、貶してるようにしか聞こえないぞ。貴方の婚約者ですよ一応。
「顔や声以外に良いところあるか?」
私は「貴様、不敬だぞ」という無駄に良い低音ボイスが聞こえてきそうなことを言ってしまった。
「し、シンさま!不敬ですよ!」
焦った口調のパトリシアにほぼそのまま言われた。
「殿下は、お優しい方ですし」
すぐにアンネがフォローに入ってくれる。
だがしかし、それは君にだけでは。
「成績は全て上位にいらっしゃいますし、シンさまが思ってらっしゃるより有能な方ですわよ?」
ラナージュもちゃんと良いところを教えてくれた。
勉強出来て運動出来て顔が良くて身分が高い最高の男。
それが我が国の皇太子アレハンドロだ。
表向きはな。
「それは知っているんだが。正直、性格が幼くないか?」
すぐ拗ねるし。
お願い事するのに命令口調だし。
エビで激ギレするし。
「そういうところもお可愛らしいですわ」
うん、まぁそれは分かる。可愛げがある。
皿をひっくり返したのは別だけど。
あれで中身まで完璧だったらつまらないしな。
それよりもラナージュが可愛らしいって言ったことを本人に伝えても良いだろうか。反応が見たい。
通じ合った私とラナージュとは反対に、パトリシアとアンネはポカンと口を開けていた。
「えー、私、殿下のこと幼いと思ったことないです」
「私も……男らしくていつも素敵です。どちらかというと大人っぽいような」
また年齢的な感覚の違いかな。
いやでもラナージュも若いよな。才色兼備お嬢様の感覚は普通じゃない可能性もあるけど。
それにしても、初対面で絶望的な顔をさせられていたのは君ではなかったのかアンネ。
そこからすごい名誉挽回してるな。
いつも素敵だって!頑張ったなアレハンドロ。
でもね、大人っぽい優しい男はいきなり他人を怒鳴りつけたりしないんだわ。
あー、でも二次元だとそういうのも許されるかなぁ。
この世界のモテる男の価値観は二次元と同じという認識でよさそうだしな。
アレハンドロは俺様キャラってことかな。
「クールでカッコいいよね?」
クールキャラか。クールキャラ。
「ネルスの時から何度もすまないが」
いったい誰の話だ。
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