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第二章
将来の目標
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「確かに、シンって剣術の授業は手を抜いてるよな?」
ラナージュの言葉を笑い飛ばしていると、ベッドに後ろ手を着いて体重をかけた姿勢で、エラルドが首を傾げた。
「そんなつもりはないが?」
図星だったが、悟られないように不思議そうな表情で首を傾げ返す。
この子は本当によく見ている。
「そうかなぁ?1回組んだ時、絶対もっとやれると思ったのに途中で引いちゃっただろ?」
「あれは気迫に負けたんだよ」
いつだったかの剣術の授業の時、エラルドに誘われるままに気軽にペアを組んだのを思い出す。
授業だからお互い軽くやっていたのに、だんだんエラルドの剣が重くなってきたのだ。
お互いが本気になってどちらかが怪我をしたらと思うと怖くなったので、負けて強制終了したんだった。
技術的なところはともかく、怖くなってる時点で気持ちで負けてるし絶対勝てないと思うんだけど。
剣術はそもそも、気質が合わない。
今思えば、そりゃそうなるだろうエラルドと組むなんて血迷ったのかって感じなんだが。
初めて会話に興味を持ったらしいバレットが身を乗り出してくる。
「面白いな、今度俺と」
「勝負しないからな」
絶対いきなり本気出してきて怖いじゃないか。
皇太子を吹っ飛ばした前科持ちめ。
「僕も1回、本気で勉強したお前と成績を争ってみたいな」
目をキラキラさせてネルスまでぐいぐいくる。
苦笑いして、肘掛けに頬杖をついてしまう。
「私はテストはいつも真面目にやってるぞ。本気の勉強ってなんだ」
「そうだなぁ……僕と同じ時間勉強しよう!」
「それはなんの冗談なんだ絶対嫌だ」
拗ねて唇を尖らせるネルスはかわいい。
しかしネルス、すごくいいこと思いついた!という顔をしていたけれども。
こうやって誘わなかったら寝るまでほぼ勉強してるのを知っているぞ私は。恐ろしい勉強時間のはずだ。
ネルスの感覚では、剣術とは違ってやればやるほど身につく勉強が楽しいらしい。素晴らしいね。無理。
エラルドやバレットは逆のことを言いそうだなぁ。
「なんというか、お前たちは本気で頑張れるものがあって楽しそうだな」
若いっていいなぁと、目を細めてしみじみと感じてしまう。
なんか、みんなが本当に発光してる気がする。眩しい。
そうしていると、相変わらず背もたれに踏ん反り返りながら話を聞いていたアレハンドロと目が合う。
「貴様はないのか。将来の目標は」
「んー」
大人になったらもうこの世界にいないし夢とか考えたことないな。考えたことなさすぎて気の抜けた返事になってしまう。
「家の跡を継ぐなら私と同じか」
「そうだなぁ……規模が全然違うけどな」
継ぐ気もないなんて口が裂けても言えない。
皇太子なんだから当然というか、仕方ないというか。
アレハンドロは国を治める予定なんだな。本当に凄いな。
責任が重すぎて、逃げたいと言ったら手伝ってあげたいくらいだ。
私は1つの領土すら治めるのはごめんだし、会社とか店とかでも嫌だな。働き蜂でいたい。
「宮廷魔術師とかは、考えないのか?」
バレットが今度はこちらを真っ直ぐ見ている。
なるほど、そういう夢もありなんだろうな。本当にこのままこの世界にいるならば、まだそっちの方がいい気がする。
しかしそもそも長男って選択権ないんじゃないかな。でもエラルドは長男だけど騎士になりたいって親に言っているんだよな。
私はまじめに考えたことがないから、親ともまともにそんな話をしていない。
何も言わなければ当然、跡を継ぐものだと思っているはずだ。
全方面にゴメンって感じ。
「ネルスは中央で行政の仕事がしたいんだっけ?」
私が何も答えないのをどう受け取ったのかわからないが、助け舟を出すようにエラルドがネルスの方に話を振った。
ネルスは特に疑問も持たずに元気に頷く。
「そう。ありがたいことに好きにして良いと父上や兄上に言われているからな! ルース王の右腕の賢者みたいに、一生かけて皇帝陛下や皇太子殿下のお役に立ちたい!」
拳を握りしめてキッパリと言い切るネルス。
その皇太子殿下は隣にいるし、今日のアンネと同じこと言ってるしでなんかすごいな。
照れとかないのかな。
アレハンドロの表情が少し柔らかくなる。
「アンネも同じことを言っていた」
「アンネとよくこの話をするので……お役に立てるようになるまで努力します!」
笑顔を向けあっている2人の間にキラキラしたとてもいい空気が流れている。眩しい。
「本当にアンネとネルスは仲が良いよなぁ」
「親公認だしな」
「その話はよせ!」
エラルドとバレットが茶々入れすると、ネルスは顔を真っ赤にして睨みつけた。
せっかく機嫌がよくなっていたのに。
アレハンドロの口がまたへの字に曲がってしまった。
本当に分かりやすいやつだ。
ラナージュの言葉を笑い飛ばしていると、ベッドに後ろ手を着いて体重をかけた姿勢で、エラルドが首を傾げた。
「そんなつもりはないが?」
図星だったが、悟られないように不思議そうな表情で首を傾げ返す。
この子は本当によく見ている。
「そうかなぁ?1回組んだ時、絶対もっとやれると思ったのに途中で引いちゃっただろ?」
「あれは気迫に負けたんだよ」
いつだったかの剣術の授業の時、エラルドに誘われるままに気軽にペアを組んだのを思い出す。
授業だからお互い軽くやっていたのに、だんだんエラルドの剣が重くなってきたのだ。
お互いが本気になってどちらかが怪我をしたらと思うと怖くなったので、負けて強制終了したんだった。
技術的なところはともかく、怖くなってる時点で気持ちで負けてるし絶対勝てないと思うんだけど。
剣術はそもそも、気質が合わない。
今思えば、そりゃそうなるだろうエラルドと組むなんて血迷ったのかって感じなんだが。
初めて会話に興味を持ったらしいバレットが身を乗り出してくる。
「面白いな、今度俺と」
「勝負しないからな」
絶対いきなり本気出してきて怖いじゃないか。
皇太子を吹っ飛ばした前科持ちめ。
「僕も1回、本気で勉強したお前と成績を争ってみたいな」
目をキラキラさせてネルスまでぐいぐいくる。
苦笑いして、肘掛けに頬杖をついてしまう。
「私はテストはいつも真面目にやってるぞ。本気の勉強ってなんだ」
「そうだなぁ……僕と同じ時間勉強しよう!」
「それはなんの冗談なんだ絶対嫌だ」
拗ねて唇を尖らせるネルスはかわいい。
しかしネルス、すごくいいこと思いついた!という顔をしていたけれども。
こうやって誘わなかったら寝るまでほぼ勉強してるのを知っているぞ私は。恐ろしい勉強時間のはずだ。
ネルスの感覚では、剣術とは違ってやればやるほど身につく勉強が楽しいらしい。素晴らしいね。無理。
エラルドやバレットは逆のことを言いそうだなぁ。
「なんというか、お前たちは本気で頑張れるものがあって楽しそうだな」
若いっていいなぁと、目を細めてしみじみと感じてしまう。
なんか、みんなが本当に発光してる気がする。眩しい。
そうしていると、相変わらず背もたれに踏ん反り返りながら話を聞いていたアレハンドロと目が合う。
「貴様はないのか。将来の目標は」
「んー」
大人になったらもうこの世界にいないし夢とか考えたことないな。考えたことなさすぎて気の抜けた返事になってしまう。
「家の跡を継ぐなら私と同じか」
「そうだなぁ……規模が全然違うけどな」
継ぐ気もないなんて口が裂けても言えない。
皇太子なんだから当然というか、仕方ないというか。
アレハンドロは国を治める予定なんだな。本当に凄いな。
責任が重すぎて、逃げたいと言ったら手伝ってあげたいくらいだ。
私は1つの領土すら治めるのはごめんだし、会社とか店とかでも嫌だな。働き蜂でいたい。
「宮廷魔術師とかは、考えないのか?」
バレットが今度はこちらを真っ直ぐ見ている。
なるほど、そういう夢もありなんだろうな。本当にこのままこの世界にいるならば、まだそっちの方がいい気がする。
しかしそもそも長男って選択権ないんじゃないかな。でもエラルドは長男だけど騎士になりたいって親に言っているんだよな。
私はまじめに考えたことがないから、親ともまともにそんな話をしていない。
何も言わなければ当然、跡を継ぐものだと思っているはずだ。
全方面にゴメンって感じ。
「ネルスは中央で行政の仕事がしたいんだっけ?」
私が何も答えないのをどう受け取ったのかわからないが、助け舟を出すようにエラルドがネルスの方に話を振った。
ネルスは特に疑問も持たずに元気に頷く。
「そう。ありがたいことに好きにして良いと父上や兄上に言われているからな! ルース王の右腕の賢者みたいに、一生かけて皇帝陛下や皇太子殿下のお役に立ちたい!」
拳を握りしめてキッパリと言い切るネルス。
その皇太子殿下は隣にいるし、今日のアンネと同じこと言ってるしでなんかすごいな。
照れとかないのかな。
アレハンドロの表情が少し柔らかくなる。
「アンネも同じことを言っていた」
「アンネとよくこの話をするので……お役に立てるようになるまで努力します!」
笑顔を向けあっている2人の間にキラキラしたとてもいい空気が流れている。眩しい。
「本当にアンネとネルスは仲が良いよなぁ」
「親公認だしな」
「その話はよせ!」
エラルドとバレットが茶々入れすると、ネルスは顔を真っ赤にして睨みつけた。
せっかく機嫌がよくなっていたのに。
アレハンドロの口がまたへの字に曲がってしまった。
本当に分かりやすいやつだ。
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