子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
68 / 134
第二章

私のいない世界で

しおりを挟む
 
「気になっていたんだが、白い服の者が多いが何かあるのか?」
「これですか?これは、ライモンドさまは白馬の王子さまなので!」
「……」

 なるほど、公式か非公式かは謎だけどファンの共通認識でライモンドのイメージカラーが白なのか。
 白い洋服の人たちはライモンドの女、いや、ファンというわけだ。
 しかし白とは。もう少しファンの洗濯事情に優しい色だったら良かったのに。

 嬉しそうに服と同じく白い肩掛けポーチを見せるアンネとは対照的に、アレハンドロは口をへの字に曲げて嫌そうな顔だなぁ。分かりやすいやつだ。

 だが残念ながら、推しに嫉妬するのは不毛だ。
 土俵が違う。
 
 私の隣で真剣な顔と声でラナージュが呟く。

「わたくし、魔王役の方のファンの方々と同じ色の服装がしてみたいですわ」
「それは今度アンネに聞いてみてくれ」

 お察しの通り、私たちはアンネとアレハンドロの会話を聞いている。
 魔術を使って音を拾っているのだ。

 本当にごめん2人とも。
 負けた。
 己の好奇心とお嬢様のしつこさに負けた。
 絶対にバレないようにしないといけない。

「申し訳ありません、私ばっかり話してしまって」
「いや、きさ……アンネが楽しいならそれでいい」

 そんなことが言えるようになったのか!

「本当に、殿下はお優しいですね。ありがとうございます!」

 伝わらないかなぁ。他の人には絶対言わないことなんだけどなぁ。
 
 ひたすら楽しそうにアンネはアレハンドロに向かって首を傾げた。

「殿下は、好きな場面はありましたか?」

 アレハンドロは目線を泳がせて返事を考え、感想が聞きたくてウズウズしているアンネに気圧されながら口を開いた。

「……好き、ではないが。最後の魔王が消える場面が、頭から離れないな」

 ラナージュがうんうんと深く頷いた。

「やはり殿下も……」

 このアレハンドロもラナージュも、浮世離れしてるのに意外と普通の感性してるんだよな。
 そりゃラストシーンが印象に残るよね。
 普段読んでる物語の結末と違っていたのだから余計に。

 ちなみに私はイケメンたちが旅する中で「あ、この2人付き合ってるな」って思ったシーンが組み合わせ問わず印象に残ってます。もちろんラストシーンもそのひとつ。

 邪な目で見ずに純粋に楽しむ脳みそを返してほしい。
 
 アンネもその場面を思い出しているのか、眉を下げて笑った。

「悲しくて美しかったですね」
「『私のいない世界で……』おかしなことだと聞き流して欲しいのだが」

 表情はよく見えないが、目線をアンネから逸らし、空の方へ向けてアレハンドロが言葉を紡ぐ。

「なぜか、魔王がシンと重なって…」
(私か)
「シンさま?」

 少し驚いたような声を出したアンネ。
 言葉に迷っているアレハンドロは今度は地面の方へ目を落とした。

「もちろん、決して、魔族がどうというわけではなくな。親ゆ……優秀な魔術師が、消えてしまう……」

 親友って言ったらいいのに。
 なんというか、隣でラナージュも聞いてるのに、私が恥ずかしくなる会話をし始めたな?とんだ流れ弾だ。

「あんな風にアレもいなくなりそうだと……いや、そんな訳もないんだが」

 ごめんアレハンドロ。
 多分そんな感じで私消えます。
 私のいない世界で世界一の皇帝になってね!

「いえ、おっしゃること、分かります」

 分かっちゃう!?
 勘が良すぎるね!

「シンさま、たまに心ここに在らずで、遠くを見てらっしゃるような時があって……どこか儚さがお有りですから」

 あ、それ多分、妄想の世界にトリップしてる時のやつですね。
 しかもだいたい君たちもその犠牲者だね!
 ごめんね!!
 そんな風に見えるんだぁ!
 顔がいいってすごい!!

「でも、きっと殿下に黙って急に消えてしまったりなんてしませんよ!」

 する予定だったなー。
 そうだな最後どうしようかなー。
 卒業と共にフェードアウト出来る雰囲気じゃないなー。

 あんな寂しそうな声をされてしまうと。
 お別れの挨拶、考えとかないと。

「気を遣わせてすまないアンネ。演劇の出来が良すぎたせいだろう。ルース王に自分を重ねるなど身の程知らずにもほどがある」
「殿下は、ルース王を超える方になられます」

 自嘲気味に笑っている様子のアレハンドロの手をアンネは明るい声を出しながら両手で握りしめた。
 ちょっとオペラグラス欲しい。表情が見たい。

「私も、一生お力になれるように頑張りますね」
「……アンネ……」
「賢者さまみたいに!!」

 あ、そっち。
 ラナージュは額に手を当てて頭を左右に振る。

「アンネ……そこは王女さまですわ……」
「うん。でもそれはそれで問題だけどな」

 そこ、今のところ君のポジションなんだわ。
 
 おそらくガッカリしたであろうアレハンドロは、アンネに握られている手を片方だけ解いた。
 そしてそのまま手を繋いだ。
 めげない。やりおる。

「そろそろ行くか」
「……!あ、あの……!は、はい!」

 焦った声のアンネは、繋いだまま引かれた手とアレハンドロの顔を交互に見てから深々と頭を下げた。
 顔が赤い。気がする。良い席だったからオペラグラス持ってこなかった自分を恨む。

「今日はお誘いいただいて本当に本当にありがとうございました!お礼がしたいので、私にできることならなんでも言ってください!」
「なんでも?」

 あ、言っちゃったな。
 そのワード。

「なんでも」
「なんでも……」

 思わず復唱してしまったところ、ラナージュとハモってしまった。
 
 アレハンドロは細い腕を引くと一歩近づいた。

「では、少し目を閉じていろ。良いと言うまで開けるな」
「……?はい!」

 元気よく返事をしたアンネが目を閉じた。
 鈍すぎかな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...