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第二章

ラブロマンスが見られるかも

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 満席の劇場が明るくなる。
 人が立ち上がったり口を開いたりと急にザワザワと雑音が大きくなった。
 私は座ったまま、大きく息を吐いてすでに幕の閉じた舞台を眺める。
 
(良き――)
 
 とても面白かった。
 休憩を挟みつつ上演時間は約3時間。
 視覚と聴覚から供給される物語は、意識しないと呼吸を忘れてしまいそうなほど。

 それくらい没頭した。
 あとメインの登場人物イケメンばっか。
 
 隣を見ると、金髪の美人がハンカチで目元を抑えながら肩を震わせている。
 上演中から薄々気配を感じていたが、ガチ泣きしている。

「ラナージュ嬢、大丈夫か?」

 泣き顔ですら崩れることなく綺麗な女の子は、ハンカチを鼻へ移動させながらこちらへ目線をよこした。

「だ、大丈夫じゃありませんわっ!」

 うん、そうだろうね。
 声を震わせながら深呼吸しようとしている様子を見て、綺麗に纏められた頭を崩さないように静かに撫でる。
 
 
 私はラナージュと舞台の観劇に来ていて、たった今、終演したところだ。

 演目は「ルース・コロニラ」。
 アンネが好きな演者が主演をする舞台ということで、アレハンドロとアンネもこの会場のどこかにいるはずだ。

 何故私たちがこんなところにいるのかというと、ラナージュが2人の様子をこっそり見たいと言い出したからだった。

 自分が促したくせに浮気現場を抑えに行くつもりなんだろうか怖いわ!と思っていたが、そういうわけでもないらしい。

「もしかしたらおふたりのラブロマンスが見られるかもしれませんわ!」

 と本当にワクワクしているご様子だった。
 あなたの婚約者なんですけど。
 アレハンドロ、本当に相手にされてないんだろうなご愁傷様です。

 アレハンドロはアレハンドロでアンネに完全に参ってるからあれなんだけど。
 完全にビジネスカップルなんだなんかちょっと寂しい。まだ10代半ばでその割り切り方。

 私の気持ちは置いておいて、1人で行くのは寂しいのでついてきてくださいとお願いされたのだ。
 今回は親にも内緒だから護衛がいないんだそうだ。危なすぎて一緒に行く以外の選択肢が無かった。

 羽を伸ばしたかったのかもしれないが、皇太子が他の女の子と2人で来ているところをもしラナージュの家の人に知られたら面倒だからというのもあるんだろう。
 アレハンドロ側は護衛が絶対いるし誰と来たか皇帝陛下に報告行くと思うんだけどなーいいのかなー。
 友だちです!で押し通すしか無いだろうな。
 
 完売したはずのチケット、もとい観劇券が何故手に入ったのか。
 どうやらこの世界にもあの忌々しい輩たちが存在するらしい。
 人気の観劇券を高額で取引する転売屋だ。

 だが、もちろん転売屋から買ったわけではない。
 ラナージュの実家であるオルキデ侯爵家の指示で、彼らを取り締まったのだという。
 親の権力の使いどころがすごい。

 そして転売屋から巻き上げ、いや、押収したチケットは改めて販売されたのだが、その時に2枚だけ融通してもらったのだとか。
 ちゃっかりしている。
 
 と、そういうわけで私はラナージュと観劇デートすることになったのだ。
 
「ルース・コロニラ」はこの国が帝国になるもっと前に実在した王の名前だ。
 様々な伝承がある人物で、彼の在位中は戦争は起こらなかったという。

 今回の副題は「光の王子と魔族の王」。
 闇の王じゃないんだ。そこそのまま魔族なんだ。と思ったがそれはいいとして。

 ルース・コロニラの即位前の話で、1番有名かつ人気の話だ。
 舞台だけでなく小説、児童書、絵本、人形劇など様々な形で物語が紡がれている。

 作者の好みで細部は物語によって違っているのがまた面白い。
 
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