上 下
63 / 134
第二章

ご一緒してよろしい?

しおりを挟む
 
 授業が終わってアフタヌーンティーの時間。
 二学期に入ってからは夏休みに騎士の皆さんから刺激を受けたエラルドがあまり付き合ってくれなくなってしまったので1人で食堂へ向かう。
 悲しみ。

 元々、甘いものが大好きってわけでもなく私に付き合ってくれていただけなので、申し訳ないなぁと思ってはいたからいいんだけど。
 
 テーブルに運ばれてきた今日のデザートはパフェだ。
 しかも苺パフェかチョコレートパフェかを選べる贅沢さ。
 チョコレートも食べたいけど苺も食べたかった私は給仕の人が心配するほど真剣に悩んでから苺のパフェを選んだ。

 たっぷりと生クリームが絞ってあり、そこに苺がいくつも綺麗に飾り付けられたものだった。
 縦長のグラスの中はカットされたいちごや、イチゴソースの赤色とアイスクリームの白色の層が描かれている。

 パフェオブパフェ。
 最高。
 柄の長いスプーンを片手に口元が緩む。
 まずは苺から、と掬ったところ。
 
「まぁデルフィニウム様。お1人ですの?」
 
 綺麗な声に話しかけられた。
 良かった口に入れる前で。
 顔を上げるとラナージュがテーブルの横で微笑んでいた。
 
「珍しいですわね、どなたもいらっしゃらないなんて」
「最近は1人なんだ」

 私よりもラナージュがお取り巻きを連れずにいる方がよっぽど珍しい。
 白くて綺麗な手をテーブルに置き、長い髪を揺らしながら首を傾げた。

「1人同士、ご一緒してよろしい?」
「もちろん、喜んで」

 笑って即答したものの、友だちの婚約者と2人でアフタヌーンティーってありなんだろうか。社交の1つだと思えばありか。

 ラナージュは特に悩むこともなくチョコレートパフェを注文していた。決断力があって素晴らしい。
 女友達同士なら、相手が良ければちょっと頂戴が出来るのに!
 いや貴族はちょっと頂戴とかしないか!

 雑談している最中にやってきたパフェは、天辺の生クリームが絞ってあるところに円形の薄い板チョコが1枚と、小さい立方体の生チョコがたくさん飾られていた。やっぱりそっちも美味しそうだ。

 そういえばアンネはチョコが好きだと言っていたな、と呟くと。

「アンネといえば、今日はなんだか元気が無くて……」

 スプーンとは逆の手を頬に当てながらラナージュが小さくため息を吐く。

「何かあったのか?」

 昨日の昼に会ったときは確かいつも通り元気だったはずだ。

「大好きな演劇のお席がとれなかったそうですわ。」
「それは元気出ないだろうな」

 辛すぎる。
 生活する上での楽しみが1回分減ってしまったということなのだから。

 聞くところに依ると、アンネが好きな演者であるライムンド・アイという人が主演の演劇が2ヶ月後にある。
「ルース・コロニラ」という、過去に実在した王子の名を冠した冒険物語の観劇券の販売日が昨日だったのだが、どうしても授業が終わってからだと間に合わなかったらしい。

 趣味のために授業を休むわけにはいかず、一縷の望みを掛けて授業後に走ったが、人気の公演だったため予想通り完売。
 泣く泣く帰って来て、今日もまだ浮上できていないとか。可哀想に。

 私に言ってくれたら授業をサボって並んであげたのに。
 
「わたくしに事前言ってくださればいくらでも都合をつけましたのに、とパトリシアと2人で同じことを言ってしまいましたわ」

 ああ、その手もあったか。今からでも間に合わないかな。
 そんなコネみたいなのは嫌がられるかなー。なんか他のファンに悪いなって気持ちになるし。

「アンネは言わないだろうな。もう完売してしまったから君たちに話したんだ」
「ええ。本当に欲の無い子ですの。シン様、もしアンネに会ったら元気付けてあげてくださいましね」
「善処するよ……」

 演劇を観れる権利以外でどうやって元気付けたらいいんだかさっっっっぱりだ。
 確かアンネは、ルース・コロニラ関連の物語が元々好きだったはずだ。
 推しが好きな物語の主演をするなんて絶対見たいやつなのに!また同じキャストで同じ公演がされることを祈るのみ…!

 それでもその時に観るのとはちょっと違うというのに。
 
「ところでシン様」

 話している最中も上手く間を使って丁寧にパフェを食べていたラナージュの手が止まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...