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第一章

心臓に悪い

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 用のなくなった教室で話すものなんだしせっかくだから一緒に食事でも、とスマートにナンパに成功して並んで回廊を歩く。

 この学校には身嗜み確認のための鏡がそこかしこにあった。
 通りすがる時に衣服や髪が乱れていたら、さっと直したり近くのトイレなどで整えるためだ。

 そこに映る自分とエラルドの絵面が良すぎて永遠に眺めたかったし、ニヤける顔を隠すために腕で顔を覆って咳払いする羽目になったしで大変だった。

 さすがに3回目でエラルドに「風邪か?大丈夫?」と覗き込まれ、蹲りそうになるのを耐えた。

(しまった……! ご飯一緒になんて言うんじゃなかった死ぬ……初対面なのに一挙一動に萌えすぎて死ぬ!! ここまでドンピシャだと自分がイケメンでも心臓に悪い!)

 なんとか爽やかフェイスと健やかボイスに慣れてきたころ、驚愕の事実が判明した。

「落下速度を落とす呪文!?」
「んー、正確には落下を止めたかったんだ。でもあんまり魔術って得意じゃなくて。詠唱が間に合わなくてゆっくり落ちるだけになってしまって……」

 アンネが落下した時。
 離れたところからそれに気付いたエラルドは、助けるための魔術を飛ばしていたらしい。

(道理で2人とも怪我がないわけだ)

 高さのある木から落ちて、人と人がぶつかって、なんともないとは凄い奇跡だとは思っていた。

「どうしてあの場で名乗り出なかったんだ。皇太子が怪我をしなかったのは君のおかげじゃないか」
「名乗り出ると言うか、止められなかったのを謝ろうとは思ったんだけど……皇太子の怒鳴り声を聞きながら急いであの場に着いた時には、君が『器が小さい』って言い放ってるところだったんだ」

 その様子を見て、何もしない方が良さそうだと判断したらしい。

「不甲斐ないなと思ったけど、下手に入っていったら話がややこしくなるだろ?」

 助けに入らなくてごめん、と申し訳なさそうに笑われて、首を左右に振る。

「2人に怪我がなかったから切り抜けられたようなものだ。皇太子が怪我をしていたら話が変わってきていたしな。今こうしていられるのも君のおかげだよ。ありがとう」

 エラルドは私の言葉が意外だったのか、目を丸くして瞬きをする。
 それから嬉しそうに微笑んだ。好き。
 
 そうか、じゃああのまま私が助けに入らなくても、エラルドがアンネを助けていたのかもしれない。
 別にあんな頑張る必要もなかったのか。
 まぁあの場でとりあえず様子見、という選択肢はなかったとは思うが。

 思うのだが。

(……私、青春の始まりをひとつ潰したか!?)

 ていうか野次馬としてアンネとエラルドと皇太子のイベント観たかった!!

 いやイベントってなんだ異世界とはいえこれは実際にある世界で、別にゲームやらなんやらではなく生きている人間のことなのだから不謹慎か。
 今更だけど。

 エラルドと会話しながら頭はぐちゃぐちゃと色々考えていたが、そうこうしている間にようやく食堂に着いた。

 と、その時。
 
「ようやく見つけたぞシン!!」
 
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