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第一章

アンネ・アルメリア

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 その後、子猫とは離れて会場までおさげちゃんと一緒に行った。
 手は洗ってもらった。

 会場までの道中、アンネ・アルメリアという名前と、貴族や士族といった特権階級の家ではなく、町の料理屋の娘なのだということを知った。

 学問の才を認められた特待生なのだという。

 あ、これはもしかしてヒロインとフラグ立てたやつか?
 特にどんな世界観とか知らなかったけど、実は乙女ゲームとか少女漫画の世界とかだった?
 最近流行りの?

 それならBLゲームの方が良かった。

 いやなんにせよ面倒だな出来るだけ関わらないようにしようかなでもあの子かわいかったなぁ。

 等と明後日の方向に思考を乗っ取られながら、ぼんやりと入学式を過ごしてしまった。

 正直入学式の内容は、新入生代表の挨拶をした生徒がこの国の皇太子であったことと、その皇太子が銀髪褐色肌の美男子だったこと以外は印象に残っていない。

 皇太子とは何度か宮殿のパーティで会ったことがあり、美男子であることは知っていた。
 しかし一年ぶりくらいに見た皇太子様は幼さが薄れ、一層美形になっていた。
 男子の成長期すごい。

(あの皇太子と今の私、並んだら引くほど絵になるだろうな~)

 式が終わった後は各自休憩の後、教室へ移動するように言われた。

 並んでみんなで教室行かないのか、と思いつつ、広い敷地内をのんびりと歩く。
 今の私であればギリギリの時間までのんびりしていても、ダッシュすればすぐに教室までたどり着けてしまう。
 
 そう思うと好きなルートで太陽の光を浴びながら散歩してしまおうという気になる。
 
 が、なにやらざわつきが耳に入り目線をやる。
 大きな木の周辺に人集りが出来ていた。

(なんだなんだー?)

 こんな晴れの日に何事だろう、場合によっては教師をと、ほぼ野次馬根性で人の隙間から騒ぎの中心を覗いた。

「貴様、このままここで学生生活が送れると思うな!!」

 低めだがよく通る声が空気を震わせた。
 それも、学生にとっては相当物騒な台詞でだ。

 この声は聞き覚えがある。
 つい先ほど入学式の会場で聞いていた素敵ボイスだ。

(……!皇太子、と……おさげちゃん!!)

 数人のお取り巻きの中心に立って憤っている皇太子、そしてその足元で完全に土下座の体勢になっているアンネを見て即座に隣に居た生徒の腕を掴んだ。

「何が起こった?手短かに教えてくれ」
「え、あ……!あの、木に登って降りれなくなった子猫を助けようとした女子生徒が皇太子の上に落ちて……!」
「ベタか。いや、ありがとう」

 急に声をかけられて驚いただろうに、簡潔に状況を説明してくれた。

 落ちたとなれば2人のどちらか、もしくは両方が怪我をしている可能性がある。
 本来まずそこを確認しなければならないところだが、怒り狂う皇太子を眼前に誰も何も言うことが出来ない。

 そう、まずは安否確認だ。

 私は生徒たちをかき分けて中央の2人に駆け寄った。
 皇太子を含め周囲の目が私へと降り注がれる。

 誰にも聞かれないように深呼吸し、出来るだけ冷静に、落ち着いてこの状況を収めなければ。

「アンネ、顔を上げて。怪我はしていないか?」

 ひとまず、立って怒鳴り散らしていた皇太子は元気そうなので大丈夫だろうと判断し、片膝をついてアンネに声をかけた。

 可哀想に、震えている。

「あ、ありま…ありません…っ…私…」

 地についた手や膝は動かさず、今にも泣きそうな顔がこちらを見上げた。
 可哀想で胸が痛む。
 安心させようと微笑みかけ、ぽん、と肩を叩いた。

「怪我がないなんて奇跡的だな。良かった。後は私に任せてくれ」
「貴様、なんのつもりだ。」

 せっかくアンネの表情が少し和らいだのに、様子を伺っていた皇太子が改めて割って入ってきた。
 私は立ち上がって彼と正面から向かい合う。

「失礼いたしました。こちらの話が終わるまでお待ちいただきありがとうございます。意外と空気が読める方なんですね。か弱い女子生徒を頭ごなしに怒鳴りつけていた方と同一人物とは思えない」

 笑顔のまま開いた口から出てきた言葉はどう考えても喧嘩を売っていた。
 それは誰でも怒るだろう、というような台詞が止まらなかった。
 場を丸く収めなくてはならないのに、どちらかというとこれは私の方が悪くなるのでは。

 自分で思っているより、この高圧的な権力者に対して腹を立てていたようだ。

「貴様、私が誰か分かっているのか」
 
 そう、ここで冒頭に戻る。
 
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