45 / 46
44話
しおりを挟む
告白を受け、黙ったコウの手の力が抜ける。
そこを見逃さず、カズユキは素早くドアを開けて室内に入った。
全身がおかしな魔術にかかったかのようだ。燃えるように熱い。
火照った顔を収める時間を稼ぐため、コウを締めだそうとドアを閉める。が、鍵をかける前にとんでもない力でねじ開けられた。
ドアが壊れなかったのが奇跡だ。
コウは後ろ手でドアを閉めると、きっちり鍵まで掛けた。逃がさないというオーラをひしひしと感じる。
あまりにも爛々とした青色と視線が合ったカズユキは、思わず怯んで後ずさる。
「お前、怖すぎ……! やっぱり、やっぱり今のな……っん、ぅ!?」
無かったことにはさせまいと、コウは強引にカズユキの肩を引き寄せて唇を奪う。
手の力は痛いほど強いというのに、触れ合う唇だけは優しかった。
分かってはいたことだが、力で捩じ伏せようと思えばいつでも出来たのだ。そう確信させるほどにカズユキは抗えない。
(違うか、動けないのは俺に抵抗する気がねぇからか……)
長身で戦闘の心得のあるカズユキは経験したことがないが、もし組み敷かれた相手が自分より強かろうとも、気が乗らなければ間違いなく暴れている。
恐怖ですくみ上がることも、カズユキに限ってはおそらくない。
少し思考が逸れていると、集中しろとでも言うように抱き締められ、体が密着してくる。
「……ぁ、……っふ……」
目を閉じて、背伸びをする。10年越しの気持ちと共に口付けを受け入れた。
誘うように唇を薄く開ける。
すぐに舌が侵入してきて背筋が震え、甘い吐息が漏れる。
「……は、……カズユキ……」
「ん、」
コウがゆっくり離れると、2人の唇を銀糸が繋いだ。カズユキが蕩けた目を向けると、もう一度軽く口付けられる。
そして、額と額がコツンと当たった。
「好きだ。ずっと、ずっと、お前だけが好きだ」
近すぎて表情が見えない。
それでも、聞いたことのない震える声が、言葉に乗せた本気を訴えてくる。
「10年で息切れしてねぇだろうな」
「舐めるな。それならとっくにここに居ない」
照れ臭さで思わず出てきたいつもの軽口。
即座に否定しながら頬に口付けられる。
存在を確かめるように、瞼や額、鼻先など至る所にキスが降ってきた。
ひとつひとつに愛情を感じてこそばゆく、カズユキは身を捩る。
「俺も」
「……?」
「俺も、惚れてなきゃこんなに一緒に居なかった」
腕を伸ばしてコウの首に腕を絡める。
こんなに簡単なことであったのに。
幼い頃からただ1人に片想いを続け、何も出来ずに終わってしまった経験のせいだろう。
2回目の恋が、上手くいくイメージが全く分かなかったのだ。
「会った時から、好きだったのに。腹括るのにこんなに時間がかかってすま……っ、」
コウが耳を甘噛みしたせいで言葉が途切れる。
そのまま舌を這わされ、カズユキは濡れた声が上がりそうになる。それを強く抱きつき肩に額を擦り当てることで耐えた。
「良い。これからはもう待たないし……我慢もしない。他の奴には触らせない」
「……他と遊べなくなったな……」
耳元で響く愛しく深い声に、足元が覚束なくなりそうなのを感じながらするつもりもないことを呟く。
「そんな余裕があると思ってるのか?」
顎に手を添えて上を向かされた先では、獰猛な肉食獣のような瞳がカズユキを映している。
赤い瞳を挑戦的に煌めかせ、褐色の首筋に唇を触れさせた。
「俺もお前も、もう若くはねぇからな? 頼むぞ?」
「善処する」
どちらからともなく唇を重ね合わせる。
溶け合うような口付けで、10年間の思いを分かち合う。
そこを見逃さず、カズユキは素早くドアを開けて室内に入った。
全身がおかしな魔術にかかったかのようだ。燃えるように熱い。
火照った顔を収める時間を稼ぐため、コウを締めだそうとドアを閉める。が、鍵をかける前にとんでもない力でねじ開けられた。
ドアが壊れなかったのが奇跡だ。
コウは後ろ手でドアを閉めると、きっちり鍵まで掛けた。逃がさないというオーラをひしひしと感じる。
あまりにも爛々とした青色と視線が合ったカズユキは、思わず怯んで後ずさる。
「お前、怖すぎ……! やっぱり、やっぱり今のな……っん、ぅ!?」
無かったことにはさせまいと、コウは強引にカズユキの肩を引き寄せて唇を奪う。
手の力は痛いほど強いというのに、触れ合う唇だけは優しかった。
分かってはいたことだが、力で捩じ伏せようと思えばいつでも出来たのだ。そう確信させるほどにカズユキは抗えない。
(違うか、動けないのは俺に抵抗する気がねぇからか……)
長身で戦闘の心得のあるカズユキは経験したことがないが、もし組み敷かれた相手が自分より強かろうとも、気が乗らなければ間違いなく暴れている。
恐怖ですくみ上がることも、カズユキに限ってはおそらくない。
少し思考が逸れていると、集中しろとでも言うように抱き締められ、体が密着してくる。
「……ぁ、……っふ……」
目を閉じて、背伸びをする。10年越しの気持ちと共に口付けを受け入れた。
誘うように唇を薄く開ける。
すぐに舌が侵入してきて背筋が震え、甘い吐息が漏れる。
「……は、……カズユキ……」
「ん、」
コウがゆっくり離れると、2人の唇を銀糸が繋いだ。カズユキが蕩けた目を向けると、もう一度軽く口付けられる。
そして、額と額がコツンと当たった。
「好きだ。ずっと、ずっと、お前だけが好きだ」
近すぎて表情が見えない。
それでも、聞いたことのない震える声が、言葉に乗せた本気を訴えてくる。
「10年で息切れしてねぇだろうな」
「舐めるな。それならとっくにここに居ない」
照れ臭さで思わず出てきたいつもの軽口。
即座に否定しながら頬に口付けられる。
存在を確かめるように、瞼や額、鼻先など至る所にキスが降ってきた。
ひとつひとつに愛情を感じてこそばゆく、カズユキは身を捩る。
「俺も」
「……?」
「俺も、惚れてなきゃこんなに一緒に居なかった」
腕を伸ばしてコウの首に腕を絡める。
こんなに簡単なことであったのに。
幼い頃からただ1人に片想いを続け、何も出来ずに終わってしまった経験のせいだろう。
2回目の恋が、上手くいくイメージが全く分かなかったのだ。
「会った時から、好きだったのに。腹括るのにこんなに時間がかかってすま……っ、」
コウが耳を甘噛みしたせいで言葉が途切れる。
そのまま舌を這わされ、カズユキは濡れた声が上がりそうになる。それを強く抱きつき肩に額を擦り当てることで耐えた。
「良い。これからはもう待たないし……我慢もしない。他の奴には触らせない」
「……他と遊べなくなったな……」
耳元で響く愛しく深い声に、足元が覚束なくなりそうなのを感じながらするつもりもないことを呟く。
「そんな余裕があると思ってるのか?」
顎に手を添えて上を向かされた先では、獰猛な肉食獣のような瞳がカズユキを映している。
赤い瞳を挑戦的に煌めかせ、褐色の首筋に唇を触れさせた。
「俺もお前も、もう若くはねぇからな? 頼むぞ?」
「善処する」
どちらからともなく唇を重ね合わせる。
溶け合うような口付けで、10年間の思いを分かち合う。
56
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる