花嫁はお前だろ?〜揉めた末、虎王子に食われるライオン皇子の物語〜

きよひ

文字の大きさ
上 下
2 / 35

どっちが雄として魅力がある?

しおりを挟む

 この国では、結婚相手は一人と建国当初に法で定められている。
 ファルケのような鳥人たちは、法などできる前から生涯にたった一人の番と契りを交わす。
 狼獣人であるヴォルフも似た貞操観念を持っていた。

 だが哺乳類族には、ディランのように幅広い愛を持つものが多いのも事実だった。
 よく言えば博愛、悪く言えば浮気性だ。
 種族ごとの本能がそうさせているともいえるのだが、トラブルの元ではある。

 友人二人が結婚とは相手を大切にするものだと語り始めたのを、ディランは相槌も打たずにグラスを揺らして聞き流す。
 気晴らしに誰か雌をダンスに誘い、あわよくば今夜の相手をさせようと会場内を見渡した。

 豪華絢爛なシャンデリアに金の装飾が施された白い壁、今日のために用意された豪華な食事の数々。
 会場の中央では色とりどりのドレスを着た雌と趣向を凝らした礼装の雄が手を取り合って踊っている。

(主役を放っておいて、楽しそうにしやがって)

 唾でも吐いてやりたい気持ちになりながら、壁の花は居ないかと隅の方に視線をやる。

 そうしている内に、黒い紋付き袴という見慣れない異国の服装をした雄が数人固まっているのが目に止まった。
 中でも一際目立つ凛とした立ち姿の美男子に、ディランは眉を顰める。

 外側が金色で内側が黒いという変わった色の髪は肩甲骨に届くほどの長さで、それを項の上で束ねてある。
 金と黒の縞模様の毛並みの良い長い尾と黒く縁取られた金色の耳、そしてアイスブルーの瞳が特徴的な虎族の雄だ。

 名前は倭虎影千代わこかげちよ
 倭虎大王国の三男で、本日ディランと結婚した二十三歳の雄である。

 第一印象は「妙に爽やかな奴」であったが、王族らしく常に仮面を被っているようで。
 皇族にも拘らず、常に自分に正直に生きていても見逃されるディランとは正反対であった。

 二人は今日一日中、ほぼ隣に立って過ごしていたが、まともに触れ合うこともなく会話も形式的なものしか交わしていない。
 予定外の会話と言えば、「恋愛の自由」をディランが切り出した時くらいである。
 このパーティーでは、一番始めのダンスを共に踊ったら直ぐに分かれてしまった。

(両方が雄のダンスするなんてな。雌の方、踊れなくもねぇけど……なんか癪だし)

 背は影千代の方が高かったため、ディランが合わせる方が踊りやすくはあっただろう。
 しかし、お互いに譲る気も寄り添いあう気もなかった。双方の持ち前の反射神経や機転のおかげでなんとかダンスの形になっていたと言える。
 本人たちにとっては、とにかく早く終わってほしい時間だった。

 なによりバラバラの婚礼衣装が、この結婚が形式的なものであると主張しているようだ。

 黒く広い袖と意外と動きやすいらしい袴が閃く様子を思い出していると、透き通るような青い瞳と視線が合った。
 不思議とその色から目が離せず、そのまま逸らさずにいると。
 涼し気な目元が緩く細められ、口元は弧を描いた。

 今日一日見ていた作られた笑顔とは違う微笑みに、ディランは一瞬だけ心を奪われる。
 柔らかくも雄々しい、どうしようもなく惹きつけられる表情だった。

 しかしなにも反応を返せないうちに、影千代は倭虎大王国から共に来た者たちとの会話に戻ってしまう。

「なぁ……」
「はい? って、ディラン! 零れてます!!」
「あいつと俺、どっちが雄として魅力がある?」
「あいつ? 何のことだ! そんなことより、その婚礼衣装は私物ではないのだぞ!!」

 白い衣装に広がる赤い模様に慌てふためくヴォルフとファルケを他所に、ディランはじっと異国の集団を見つめる。
 いや、目に映るのは中心の一人だけ。

(別になにもされてねぇのに、負けた気がして気分が悪ぃ……)

 騒ぎを聞いて駆け付けて来た者たちに、着替えるための個室に誘導され立ち上がる。

 移動の間も、胸に打撃を与えた謎の敗北感を打ち消そうと、ディランは頭を巡らせた。
 
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...