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どっからどこまでが夢だよ
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白いカーテンの隙間から差し込む日の光が顔に当たる。
毎朝、ディランを起こす光だった。
朝が来たのだと、重い瞼は伏せたまま腕を上げようとする。
しかし、
「……んー……?」
動けなかった。
小さく唸り声を上げ体を捩ろうとするが、それも上手くできない。
寝起きで頭が働かないディランは、異常事態にも関わらずのんびりと大きな欠伸をした。
仕方なく薄く目を開ける。
「んん!?」
誰かの顔が目に飛び込んできた。
ようやく頭が覚醒して目を見開くと、それは影千代の寝顔であった。
「な、なんで……」
隣に寝ているだけではなく、影千代の腕の中にディランはいた。
慌てて離れようとするが、シーツが擦れる音がするだけだった。
紺色の浴衣を纏った逞しい腕は、ディランが身動き出来ないほどに強く締め付けてきている。
よく、問題なく熟睡していたものだとディランは自分に感心した。
なんとか抜け出すために腕に力を込めながらも、脳内で昨夜からの経緯を整理しようとする。
(なんか……すげぇ気持ちいい思いをしたような……)
断片的にではあるが、記憶が蘇ってくる。
ディランが自由に動けたならば、布団を頭まで被って半日は出てこない体勢をとっただろう。
酔っていたとはいえ、あまりにも酷い。
記憶を消してしまいたいほど酷い。
少なくとも今のディランは寝間着のローブをきちんと着ており、体に違和感はない。
記憶が正しければ、寝てしまう前は服を着ておらず、精を放った下半身はどろどろになっていたはずだ。
(どっからどこまでが夢だよ……)
欲求不満のあまり、夢を見た可能性も大いにあり得た。
むしろ夢だと信じたかった。
自ら口づけ、ベッドに引きずり込んだ挙句に胸への愛撫で啼かされたなど。
屈辱以外の何物でもない。
格闘の末になんとか腕だけは抜くことが出来たディランは、目の前の端正な寝顔を見つめる。
金と黒の髪、白い肌、凛々しい眉に雄らしく通った鼻、丸みのない輪郭。
今は隠れている透き通るようなアイスブルーの瞳が、美しいと感じながらもディランは苦手だ。
「なんか、何考えてるかわかんねぇんだよな……」
昨夜のことが夢でないならば、抵抗していた割にはずっとその目は熱を帯びていた。
手や唇は、なんの躊躇もなくディランを弄んだ。
「くそ……無駄に綺麗なツラしやがって……」
まだ触れられた感覚が残っているような気がして落ち着かない気持ちになる。
忌々しい唇だと、起こさないように静かに指先で触れた。
柔らかい赤色の感触は、確かに知っているもののような気がした。
ゆっくりと形をたどっていると、濡れたものが指に軽く触れる。
「……っ」
ピクンとディランの体が跳ねた。
影千代の舌が、唇に悪戯する指を舐めたのだ。
ディランは慌てて手をひっこめながら、本気で抜け出そうと藻掻き始める。
胸が妙に騒ぎ、体に熱が集まるような変な気分になってきてしまった。
そうしている内に、腕が緩んだ。
その隙を逃さずに影千代に背を向ける格好に体の向きを変え、拘束している腕を掴んだ。
しかし、改めて抱き締め直されてしまった。
影千代が寝ている間に抜け出して、何事もなかったかのように振る舞う予定だったディランだが、諦めることにして声を上げる。
「おい、お前そろそろ起き……っ、ぁっ」
鼻先が髪に寄せられたかと思うと、項に甘く歯が立てられた。
項はネコ科の獣人にとっては、一種の弱点だ。
無防備な状態だと、心地よさに抗えずに力が抜けてしまう。
ライオン族のディランも例外でなく、抵抗する手が緩む。
すると、影千代の温かい手がローブの隙間から滑り込んできた。
「ど、どこ触って……! ゃ、起きてんの、か? おい……んっ」
昨夜のように胸の突起を弄られ、あえかな声が上がってしまう。
影千代からの返事はないことから、おそらく寝ぼけているのだろう。
髪を掻きわけて項に舌が這う。
それと同時に胸への愛撫を受け、ディランは中心に熱が集まり始めるのを感じ快感に身を任せそうになる。
だが、ふと、これが無意識に行われているのだと頭を過る。
その瞬間に、急激に熱が引き正気に戻った。
ディランは首を出来る限り曲げた。
「誰と間違えてやがんだ! 起きやがれ!」
「……ッ」
声を張り上げながら後頭部を影千代の顔面にぶつけると、くぐもった唸り声が上がる。
毎朝、ディランを起こす光だった。
朝が来たのだと、重い瞼は伏せたまま腕を上げようとする。
しかし、
「……んー……?」
動けなかった。
小さく唸り声を上げ体を捩ろうとするが、それも上手くできない。
寝起きで頭が働かないディランは、異常事態にも関わらずのんびりと大きな欠伸をした。
仕方なく薄く目を開ける。
「んん!?」
誰かの顔が目に飛び込んできた。
ようやく頭が覚醒して目を見開くと、それは影千代の寝顔であった。
「な、なんで……」
隣に寝ているだけではなく、影千代の腕の中にディランはいた。
慌てて離れようとするが、シーツが擦れる音がするだけだった。
紺色の浴衣を纏った逞しい腕は、ディランが身動き出来ないほどに強く締め付けてきている。
よく、問題なく熟睡していたものだとディランは自分に感心した。
なんとか抜け出すために腕に力を込めながらも、脳内で昨夜からの経緯を整理しようとする。
(なんか……すげぇ気持ちいい思いをしたような……)
断片的にではあるが、記憶が蘇ってくる。
ディランが自由に動けたならば、布団を頭まで被って半日は出てこない体勢をとっただろう。
酔っていたとはいえ、あまりにも酷い。
記憶を消してしまいたいほど酷い。
少なくとも今のディランは寝間着のローブをきちんと着ており、体に違和感はない。
記憶が正しければ、寝てしまう前は服を着ておらず、精を放った下半身はどろどろになっていたはずだ。
(どっからどこまでが夢だよ……)
欲求不満のあまり、夢を見た可能性も大いにあり得た。
むしろ夢だと信じたかった。
自ら口づけ、ベッドに引きずり込んだ挙句に胸への愛撫で啼かされたなど。
屈辱以外の何物でもない。
格闘の末になんとか腕だけは抜くことが出来たディランは、目の前の端正な寝顔を見つめる。
金と黒の髪、白い肌、凛々しい眉に雄らしく通った鼻、丸みのない輪郭。
今は隠れている透き通るようなアイスブルーの瞳が、美しいと感じながらもディランは苦手だ。
「なんか、何考えてるかわかんねぇんだよな……」
昨夜のことが夢でないならば、抵抗していた割にはずっとその目は熱を帯びていた。
手や唇は、なんの躊躇もなくディランを弄んだ。
「くそ……無駄に綺麗なツラしやがって……」
まだ触れられた感覚が残っているような気がして落ち着かない気持ちになる。
忌々しい唇だと、起こさないように静かに指先で触れた。
柔らかい赤色の感触は、確かに知っているもののような気がした。
ゆっくりと形をたどっていると、濡れたものが指に軽く触れる。
「……っ」
ピクンとディランの体が跳ねた。
影千代の舌が、唇に悪戯する指を舐めたのだ。
ディランは慌てて手をひっこめながら、本気で抜け出そうと藻掻き始める。
胸が妙に騒ぎ、体に熱が集まるような変な気分になってきてしまった。
そうしている内に、腕が緩んだ。
その隙を逃さずに影千代に背を向ける格好に体の向きを変え、拘束している腕を掴んだ。
しかし、改めて抱き締め直されてしまった。
影千代が寝ている間に抜け出して、何事もなかったかのように振る舞う予定だったディランだが、諦めることにして声を上げる。
「おい、お前そろそろ起き……っ、ぁっ」
鼻先が髪に寄せられたかと思うと、項に甘く歯が立てられた。
項はネコ科の獣人にとっては、一種の弱点だ。
無防備な状態だと、心地よさに抗えずに力が抜けてしまう。
ライオン族のディランも例外でなく、抵抗する手が緩む。
すると、影千代の温かい手がローブの隙間から滑り込んできた。
「ど、どこ触って……! ゃ、起きてんの、か? おい……んっ」
昨夜のように胸の突起を弄られ、あえかな声が上がってしまう。
影千代からの返事はないことから、おそらく寝ぼけているのだろう。
髪を掻きわけて項に舌が這う。
それと同時に胸への愛撫を受け、ディランは中心に熱が集まり始めるのを感じ快感に身を任せそうになる。
だが、ふと、これが無意識に行われているのだと頭を過る。
その瞬間に、急激に熱が引き正気に戻った。
ディランは首を出来る限り曲げた。
「誰と間違えてやがんだ! 起きやがれ!」
「……ッ」
声を張り上げながら後頭部を影千代の顔面にぶつけると、くぐもった唸り声が上がる。
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