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初対面なのに
しおりを挟むセルジュの啜り泣く声と、カルロスが静かに相槌を打つ声が部屋に落ちる。
唇を重ねた後、カルロスの温かい腕の中で自分の置かれている状況を説明し始めてしまったセルジュは、まだ新しい服を着れないでいた。
カルロスは泣いていて支離滅裂なセルジュの話を紐解きながら細い体を抱き起こし、横向きに膝に乗せて自分の上着を肩に掛けてくれた。
「ごめんなさい。ほ、他に、オメガの俺が役に立てる方法が思いつかなくて……っ! お願い、誰にも、言わないで」
しゃくり上げて必死に手で涙を拭う。
とにかく惨めで仕方がなかった。
お金がなくてもカルロスのように努力と才能で最高の学校に行ける人もいるというのに、セルジュが思いついたのは騙し討ちのような方法だけだ。
そんなセルジュの話を、元の優しい雰囲気に戻ったカルロスは嗤うことも怒ることもなく聞いてくれる。
「事情も知らず、酷いことをしてしまった」
全て話し終えると、重々しい声で謝罪された。肩に額を擦り寄せると、ずっとあやすように撫でてくれていたカルロスの腕に力が籠る。
包んでくれる体温と香りに安心して、乱暴を働かれたとは思えないほど無防備に体を預けてしまう。
「カッとなってしまって」
「俺が悪いんだ。友だちがこんなオメガに引っ掛かったら嫌だよな」
「違います。貴方がこういうことを他の男ともしているかと思うと……」
改めて謝ろうとセルジュが顔を上げると、まるで嫉妬でもしたかのようにカルロスは言う。
(初対面でそれはないか)
自身にすでに芽生えてしまった恋心は棚に上げて、セルジュはじっと紫色を見つめた。
しかしどんなに見つめてもカルロスの心が読めるわけではない。セルジュは居た堪れなくなって、せっかく合わせた視線を逸らした。
それを不安に駆られていると受け取ったのだろう。
カルロスはそっと頬に触れてきた。
「大丈夫です。誰にも言いませんし、僕が貴方のお力になりますから」
真摯で力強い言葉に、自然と口元が綻ぶ。
この人ならば、重荷を全部持っていってくれる。そんな幸せな錯覚に陥る。
(前にも誰かが、言ってくれたような……)
朧げな記憶が、あぶくの様に浮かんで一瞬で消えた。
一介の学生、しかも平民に男爵家の財政をなんとかできるわけがない。
時間があれば、カルロスを婿に迎えて一緒に手を取り合えたかもしれないが。
もうセルジュの家はギリギリだ。
でも、自分の生活も大変なのに気持ちを掛けてくれることが嬉しかった。
そんな気持ちが伝わったらしい。
カルロスは不服そうに形の良い眉を寄せた。
「信じてませんね?」
「そ、そんなこと」
「貴方が好きなんです。力になりたい」
セルジュの呼吸が止まる。
何を言われたのか理解した瞬間に、思考も止まってしまった。
胸が脈打ち体中の血液が倍速で回っていく。
それでも酸素が足りない。
嬉しいと全身が叫ぶ。
茹だった頭で、何か言わなければと懸命に口を動かす。
「あ、会ったばかりだよ」
理性を総動員して紡ぎ出した言葉は、カルロスの気持ちを受け入れることも拒むことも出来ていない曖昧なものだった。
カルロスは意地悪げに唇に弧を描く。
「初対面で番になれる相手を探している貴方よりましでしょう」
それを言われてしまうと、何も言えない。
あまりにも的を得た反論だ。
モゴモゴと気まずげに言い淀むセルジュの額に、カルロスは口付けた。
「それに、初めてじゃない」
「え?」
「セルジュは覚えてないかもしれないけど、子どもの頃に一度会ったことがあるんだ」
セルジュは思いがけない言葉に目を見開く。
カルロスは、
「10年も前のことですが」
と前置きして、その時のことを話し始めた。
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