1 / 12
顔がお金にしか見えない
しおりを挟む
「大丈夫だよ。私が力になるから」
温かくて柔らかい手。
愛らしくて高い声。
透き通るような紫の瞳。
そして、みずみずしい果物に似た爽やかな香り。
返事をしようとしても声が出ず、手を伸ばすとそのまま全てが消えてしまう。
ただの想像なのか幼い頃の記憶なのか曖昧な、そんな夢。
物語の王子のような男の子が微笑むなんて、まるで年端もいかない少女がみるような夢だ。
「手伝ってくれる人なんていない。俺が、全部なんとかしないと」
ベッドから起き上がった青年は、艶のある金色の髪を掻き上げて大きく息を吐いた。
継ぎ接ぎのあるカーテンからは、朝日が昇る途中の光が差し込んでいた。
◆
セルジュ・ド・エトワールは男爵家の長男だ。
長男と言っても、後継ではない。
第二性がオメガであるためだ。
だから、爵位は最近ベータ性であることが分かった弟が継ぐことになっている。
彼にとってそれは大きな問題でもなければ理不尽に感じることもなかった。
爵位は愛する弟が継げば良い。
しかし、懸念が一つ。
エトワール男爵家は今、財政難なのだ。
ここ数年治める領地が不作続きで、兎にも角にもお金がない。
領民たちが飢えないように税を抑えて、なんとか凌いでいる状態だ。
そこに、元々体の弱かった父が病に倒れた。
もうてんてこ舞いである。
長男である自分がなんとかしなければならない。
悩みに悩んだセルジュの結論は。
(なにがなんでもお金のある家に嫁いで援助してもらう!)
セルジュは責任感から様々な社交会に参加するようになった。
幸い、オメガらしく容姿には恵まれている。
星の光を写したような金色の髪に薔薇色に色づいた頬と唇。扇のようなまつ毛に縁取られた翠の瞳はいつも宝石に例えられた。
この国では結婚をするには丁度良い18歳で、社交会では貴族や大商人の子息に声をかけられぬ日はなかった。
それにも関わらず今まで婚約者どころか恋人もいなかったのは、セルジュが内気で上手く人の前で笑えなかったからだ。
どうせ跡を継ぐこともないのだからと、今までは無理矢理連れ出される日以外は部屋に篭って本を読み暮らしていた。
しかし、もうそんなことは言っていられない。
セルジュは己の武器を全て使い、必ず家の財政を立て直してから弟に爵位を継がせると決意した。
が。
「結婚の、ご予定……ですか……」
数少ないオメガ仲間である伯爵家令嬢に招待されて、新年を祝うパーティに参加していた時のこと。
シャンデリアの輝く豪華な広場では、男性も女性も色とりどりの正装をして談笑している。
そんな中でダンスにと声を掛けてくれたのは、この国では誰もが知る大商人の息子だった。
様々な女性やオメガと浮き名を流す典型的な遊び人だったが、セルジュにとってそんなことはどうでもいい。
(美男子で有名なアルファに向かって申し訳ないけど、もう顔がお金にしか見えない)
麗しいと評される顔に笑みを浮かべ、水色の服を翻して彼とダンスを踊った。
慣れた手つきで腰を抱かれ、肩を抱かれ、顔と顔が近づく。
とにかく、距離の近い男だった。
周りから羨望の眼差しを受けるが、正直なところセルジュは鳥肌を立てている。
アルファとしてのフェロモンに流行りの香水の甘ったるい匂いが混ざって、腹が気持ち悪い。
会話の内容が入ってこなくなってきた。
温かくて柔らかい手。
愛らしくて高い声。
透き通るような紫の瞳。
そして、みずみずしい果物に似た爽やかな香り。
返事をしようとしても声が出ず、手を伸ばすとそのまま全てが消えてしまう。
ただの想像なのか幼い頃の記憶なのか曖昧な、そんな夢。
物語の王子のような男の子が微笑むなんて、まるで年端もいかない少女がみるような夢だ。
「手伝ってくれる人なんていない。俺が、全部なんとかしないと」
ベッドから起き上がった青年は、艶のある金色の髪を掻き上げて大きく息を吐いた。
継ぎ接ぎのあるカーテンからは、朝日が昇る途中の光が差し込んでいた。
◆
セルジュ・ド・エトワールは男爵家の長男だ。
長男と言っても、後継ではない。
第二性がオメガであるためだ。
だから、爵位は最近ベータ性であることが分かった弟が継ぐことになっている。
彼にとってそれは大きな問題でもなければ理不尽に感じることもなかった。
爵位は愛する弟が継げば良い。
しかし、懸念が一つ。
エトワール男爵家は今、財政難なのだ。
ここ数年治める領地が不作続きで、兎にも角にもお金がない。
領民たちが飢えないように税を抑えて、なんとか凌いでいる状態だ。
そこに、元々体の弱かった父が病に倒れた。
もうてんてこ舞いである。
長男である自分がなんとかしなければならない。
悩みに悩んだセルジュの結論は。
(なにがなんでもお金のある家に嫁いで援助してもらう!)
セルジュは責任感から様々な社交会に参加するようになった。
幸い、オメガらしく容姿には恵まれている。
星の光を写したような金色の髪に薔薇色に色づいた頬と唇。扇のようなまつ毛に縁取られた翠の瞳はいつも宝石に例えられた。
この国では結婚をするには丁度良い18歳で、社交会では貴族や大商人の子息に声をかけられぬ日はなかった。
それにも関わらず今まで婚約者どころか恋人もいなかったのは、セルジュが内気で上手く人の前で笑えなかったからだ。
どうせ跡を継ぐこともないのだからと、今までは無理矢理連れ出される日以外は部屋に篭って本を読み暮らしていた。
しかし、もうそんなことは言っていられない。
セルジュは己の武器を全て使い、必ず家の財政を立て直してから弟に爵位を継がせると決意した。
が。
「結婚の、ご予定……ですか……」
数少ないオメガ仲間である伯爵家令嬢に招待されて、新年を祝うパーティに参加していた時のこと。
シャンデリアの輝く豪華な広場では、男性も女性も色とりどりの正装をして談笑している。
そんな中でダンスにと声を掛けてくれたのは、この国では誰もが知る大商人の息子だった。
様々な女性やオメガと浮き名を流す典型的な遊び人だったが、セルジュにとってそんなことはどうでもいい。
(美男子で有名なアルファに向かって申し訳ないけど、もう顔がお金にしか見えない)
麗しいと評される顔に笑みを浮かべ、水色の服を翻して彼とダンスを踊った。
慣れた手つきで腰を抱かれ、肩を抱かれ、顔と顔が近づく。
とにかく、距離の近い男だった。
周りから羨望の眼差しを受けるが、正直なところセルジュは鳥肌を立てている。
アルファとしてのフェロモンに流行りの香水の甘ったるい匂いが混ざって、腹が気持ち悪い。
会話の内容が入ってこなくなってきた。
50
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
僕が再婚するまでの話
ゆい
BL
旦那様が僕を選んだ理由は、僕が彼の方の血縁であり、多少顔が似ているから。
それだけで選ばれたらしい。
彼の方とは旦那様の想い人。
今は隣国に嫁がれている。
婚姻したのは、僕が18歳、旦那様が29歳の時だった。
世界観は、【夜空と暁と】【陸離たる新緑のなかで】です。
アルサスとシオンが出てきます。
本編の内容は暗めです。
表紙画像のバラがフェネルのように凛として観えたので、載せます。 2024.10.20
初めてを絶対に成功させたくて頑張ったら彼氏に何故かめっちゃ怒られたけど幸せって話
もものみ
BL
【関西弁のR-18の創作BLです】
R-18描写があります。
地雷の方はお気をつけて。
関西に住む大学生同士の、元ノンケで遊び人×童貞処女のゲイのカップルの初えっちのお話です。
見た目や馴れ初めを書いた人物紹介
(本編とはあまり関係ありませんが、自分の中のイメージを壊したくない方は読まないでください)
↓
↓
↓
↓
↓
西矢 朝陽(にしや あさひ)
大学3回生。身長174cm。髪は染めていて明るい茶髪。猫目っぽい大きな目が印象的な元気な大学生。
空とは1回生のときに大学で知り合ったが、初めてあったときから気が合い、大学でも一緒にいるしよく2人で遊びに行ったりもしているうちにいつのまにか空を好きになった。
もともとゲイでネコの自覚がある。ちょっとアホっぽいが明るい性格で、見た目もわりと良いので今までにも今までにも彼氏を作ろうと思えば作れた。大学に入学してからも、告白されたことは数回あるが、そのときにはもう空のことが好きだったので断った。
空とは2ヶ月前にサシ飲みをしていたときにうっかり告白してしまい、そこから付き合い始めた。このときの記憶はおぼろげにしか残っていないがめちゃくちゃ恥ずかしいことを口走ったことは自覚しているので深くは考えないようにしている。
高校時代に先輩に片想いしていたが、伝えずに終わったため今までに彼氏ができたことはない。そのため、童貞処女。
南雲 空(なぐも そら)
大学生3回生。身長185cm。髪は染めておらず黒髪で切れ長の目。
チャラい訳ではないがイケメンなので女子にしょっちゅう告白されるし付き合ったりもしたけれどすぐに「空って私のこと好きちゃうやろ?」とか言われて長続きはしない。来るもの拒まず去るもの追わずな感じだった。
朝陽のことは普通に友達だと思っていたが、周りからは彼女がいようと朝陽の方を優先しており「お前もう朝陽と付き合えよ」とよく呆れて言われていた。そんな矢先ベロベロに酔っ払った朝陽に「そらはもう、僕と付き合ったらええやん。ぜったい僕の方がそらの今までの彼女らよりそらのこと好きやもん…」と言われて付き合った。付き合ってからの朝陽はもうスキンシップひとつにも照れるしかと思えば甘えたりもしてくるしめちゃくちゃ可愛くて正直あの日酔っぱらってノリでOKした自分に大感謝してるし今は溺愛している。
会社を辞めて騎士団長を拾う
あかべこ
BL
社会生活に疲れて早期リタイアした元社畜は、亡き祖父から譲り受けた一軒家に引っ越した。
その新生活一日目、自宅の前に現れたのは足の引きちぎれた自称・帝国の騎士団長だった……!え、この人俺が面倒見るんですか?
女装趣味のギリギリFIREおじさん×ガチムチ元騎士団長、になるはず。
βの僕、激強αのせいでΩにされた話
ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。
αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。
β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。
他の小説サイトにも登録してます。
同室のイケメンに毎晩オカズにされる件
おみなしづき
BL
オカズといえば、美味しいご飯のお供でしょ?
それなのに、なんで俺がオカズにされてんだ⁉︎
毎晩って……いやいや、問題はそこじゃない。
段々と調子に乗ってくるあいつをどうにかしたいんです!
※がっつりR18です。予告はありません。
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる