【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
80 / 83
番外編 ティーグレ目線

一番のハッピーエンドとは 3

しおりを挟む
 必ずやピングも一緒にハッピーエンドを迎えようと決めたティーグレだったが、彼はまだ子ども。
 前世での記憶はあるものの一般常識やゲーム関連のこと以外はあやふやで、精神年齢は外見通りだった。
 攻略本をポンっと渡された子供にすぎない。

 ピングを守るためにまずしたことは、とにかくそばにいることだった。
 一緒に勉強したり剣術の稽古をしたり、休憩中には子供らしく走り回ったりと友人として過ごす。

 皇后もピングの乳母をしていたティーグレの母も、これには大喜びだった。
 必然的にティーグレは母親といる時間も増えて良いこと尽くし。
 2人とも、何のトラブルにも見舞われずに育っていくことになる。

「ティーグレ、今日はお前が好きなトロトロチョコの入ったケーキを用意するように頼んでおいたんだ!」
「俺のためみたいに言ってるけど、ピング殿下が食べたかったんでしょ?」
「そんなこと言うなら私だけで食べる!」
「嘘です嘘です! ありがとうございますいただきます!」

 素直に泣いて怒って笑って、表情がクルクル変わるピングを見ているのが楽しかった。
 ピングが一生懸命に努力するのを一番近くで感じ、実を結ばず落ち込むときには寄り添った。

 こんなに頑張っている人が、何も報われないまま死んで良いはずがない。
 共に過ごす時間が重なれば重なるほど、必ず守ると言う気持ちが心に積もって固められていく。

 だんだん記憶に体と精神が追い付くにつれて、ゲームの内容も詳しく思い出していった。

 その中で、ティーグレは光を見出す。

 パーフェクトハッピーエンド、とファンの中で呼ばれているストーリーがあるのだ。
 全ての攻略対象をクリアした場合にのみ出てくるおまけルートで、リョウイチとピングが恋人になるルート。

 通常のストーリーでのリョウイチは、一番初めにアトヴァルと出会う。誰のルートに分岐するにしても、そのオープニングは変わらない。

 だがピングルートでは、ピングと一番最初に出会うのだ。
 天使のように可愛いピングにリョウイチが一目惚れし、ピングは気さくに話しかけてくれるリョウイチに恋をする。

 その後はリョウイチがピングと居残りして、他のキャラクターのやり取りを覗き見して、二人で他のキャラクターたちの問題を解決して。
 自己肯定感が底辺に落ちているピングの心の棘が少しずつ抜けていく。

 ストーリーを通して順調に仲を深めて、最後はリョウイチがピングに告白して終わる純情ストーリー。
 基本的に体を合体させることで仲が深まっていく、18禁ゲームらしい他のルートとは一線を画す内容だった。

 ストーリー分岐もなく、何を選んでも良い感じに進んでいく。おまけ、というのが相応しいルート。

 アトヴァル推しだったティーグレの前世は、

「へー」

 と思いながら軽く流しプレイして終わってしまっていたようだ。

 だが今のティーグレにとっては、目指すべきはそこだった。
 アトヴァルとの和解ルートでもピングは生存できるけれど、条件が厳しい。

 それに比べてリョウイチとピングが恋に落ちる条件は「リョウイチが学園で最初に出会う相手をピングにする」だけなのだから。
 後は流れに任せれば、大した問題も起こらずピングとリョウイチは両思いになる。
 ピングは命の危険に晒されることもない。

 アトヴァルとのイベントを発生させるためにリョウイチを誘導したり、他のキャラクターたちをリョウイチから遠ざけるために走り回ったりする必要もなかった。

(絶対、ピングとリョウイチを恋人同士にする)

 ティーグレは本気でそう思っていたのだ。
 リョウイチが転入してくるその日までは。

「今日は転入生が来るらしいですよ。この学園の代表として、一番に顔を見せてあげたらどうですか?」
「そうだな! きっと緊張してるだろうし、そうしよう!」

 適当な理由でリョウイチに出会うようにティーグレが誘導したところ、ピングは快諾した。

(かわいい)

 鼻歌を奏でながらスキップで校門へと向かう後ろ姿を眺め、ティーグレは目を細める。

 リョウイチと恋に落ちれば、ピングの幸せは約束される。
 アトヴァルとも上手く行く上、ローボ、オルソ、担任のシュエットも幸せな2人の味方になる。
 何よりもティーグレが、ピングの幸せを阻む者を許さない。

 やっとここまできたのだ。必ずパーフェクトハッピーエンドにしなければ。

 ストーリーの最後に出てくる2人の仲睦まじいイラストを思い出し、ティーグレは口元を緩めようとした。

(…………ハッピーエンド…………)

 脳裏に描かれたのはこの世の幸福を一身に集めるような笑顔を浮かべたピングの顔。
 細い腰には逞しい腕が回っていて、リョウイチが金色の髪に頬を寄せて微笑んでいる。
 2人でリョウイチの使い魔のドラゴンに乗って、大空を飛ぶイラストだ。

 不意に、ティーグレの中で黒い何かが渦巻き始める。

 腹なのか胸なのか頭なのか。
 どこからかは分からないが、得体の知れないその感情は急激にティーグレを侵食した。

(その、場所は)
「わぁああ!」

 突然ピングの悲鳴が鼓膜を揺らし、ティーグレは我に帰った。
 顔を上げれば、ホワイトタイガーがピングのローブを咥えて、自分の背中へと放り投げているところだった。
 目を白黒させているピングが、なんとかホワイトタイガーにしがみついて振り返ってくる。

「な、なんだティーグレ!?」
「え、え!? 俺、何もしてない……! おい待て言うことを……っ」

 大慌てで駆け寄ったティーグレが戻るように指示を出しても全く言うことを聞かない。
 それどころか、ティーグレも同じように背中に乗せられた。

 浮遊感の後、ふわふわの毛皮の上に尻で着地したかと思うと、ホワイトタイガーは空高く駆け上がる。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

処理中です...