【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

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番外編 ティーグレ目線

一番のハッピーエンドとは 1

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 隠れて泣いているようで、誰かが気付いてくれるのを待っている。
 そんな素直さがいじらしくて可愛かった。

「泣いてる時には俺が一番に見つけ出そう」

 なんて思った時には、もう堕ちていたんだろう。

 ◆

「かわいい」

 ティーグレは頬を緩めた。腕に乗る頭の重みに心地よさを感じながら、涙の跡のある目元を指先で撫でる。

 喉が枯れるまで声を上げ、何も出なくなるほど絶頂し続けたからだろう。
 服も着ずにぐったりとベッドに体を預けるピングは、触れても全く反応しない。
 静かに寝息を立て、呼吸に合わせて薄い掛け布団が上下に動くだけだ。

 ティーグレが呪文を唱えれば、金色の魔法陣が淡い光を放つ。光はピングの体を包み込んで、服を着せた。自分がつけた痕が散る、白く細い体を隠してしまうのは勿体無い気がする。

 でも、体が冷えて風邪でも引いたらと思うとそうするしかなかった。
 何度もこの穏やかな時間を過ごすうちに、ピングが寒くても布団を被り直さないということを知ったから。

「ごめんな」

 ふわふわとした触り心地の良い金髪を撫でて独り言葉を落とす。

 ティーグレには黙っていることがあった。
 きっと、墓場まで一人で持っていくことだ。
 極々たまに頭をよぎる罪悪感で、ピングが寝入っている時にだけ謝ってしまう。


「リョウイチと、両思いにさせてあげられなくて」

 静かな部屋に沈む声に返事はない。

 実は、ピングが生き残るルートは二つあった。
 ひとつはアトヴァルと和解し、ペンギンが魔力の塊を食べないルート。

 もうひとつは、リョウイチとピングが結ばれるルートだ。

「そっちのが、簡単だったってのに」

 ティーグレは、前世の記憶が蘇ったときに思いを馳せる。

 ◆

 そこに行ったのは特に意味はなかった。
 皇太子の乳母をしている母に会いにきて、帰りに宮殿の庭を走り回ってから帰ろうとしただけ。

 幼かった当時のティーグレに何故走り回ろうとしたかなどと聞いても、「そうしたかったから」以上の答えはないだろう。
 色とりどりの花が咲き、庭師たちが整えた庭園は凹凸もなく走りやすいのだ。

 そこで、蹲っている小さな背中を見つけた。
 庭園の端っこの、薔薇の生垣。
 その影から太陽に反射するキラキラふわふわとした金髪がチラつく。

 ここは皇族の居住区だ。
 こんなところにいる子供は、母が働いているからと許された自分以外には二人しかいない。

 皇太子のピングと、第二皇子のアトヴァルだ。
 どちらも眩い金色の髪だが、アトヴァルの髪は真っ直ぐでサラリとしている。
 となると、あそこに居るのはピングだ。

(……皇太子、何してるんだこんなとこで。体調悪いのか?)

 ティーグレはピングがあまり好きではなかった。
 乳母をしていた母はいつも皇太子にかかりきりで、ティーグレとの時間をなかなか作ってくれなかったから。

 何故、本物の息子である自分より皇太子を優先するのかと喚いたこともある。
 もちろん、何の意味もなさなかった。

 それでも蹲っているのを放っておくほどの恨みはない。
 ティーグレは同い年の乳兄弟にそっと近づいた。

「ピング殿下、大丈夫ですか?」
「……っ」

 見上げてきた大きな空色の瞳は濡れていた。
 扇のような金のまつ毛も、薔薇色の柔らかそうな頬も、子供らしくふっくらとした唇も、びしゃびしゃだ。
 鼻を真っ赤にして泣きじゃくっている。

 ティーグレは狼狽して、ピングと同じようにしゃがみ込んで目線を合わせた。

「だ、大丈夫じゃなさそうだな?」
「てぃ、てぃーぐえ……」

 しゃくり上げて回らない舌で名を呼ばれた時だった。
 頭の中に、軽快な音楽が流れ始めたのは。

 音楽のリズムに合わせて、知らない大人たちが次々に脳裏に浮かんでは消えていく。いや、そのうち3人には覚えがあった。

 シャチを背景にこちらを流し見る長髪の男、ペンギンを抱きしめて頬を膨らませる男。
 そしてホワイトタイガーに腰掛けて笑う男。

 どう見ても大人なのだが、間違いない。
 アトヴァル、ピング、ティーグレだ。
 何故だか分からないが、自分は未来を見ている。

(なに、なんだこれ……っ)

 ティーグレは混乱しながらも胸が躍った。
 何か、心の奥底から熱いものが湧き出てくる。

(そうだ、これはオープニング……!)

 そこからは早かった。

 自分が別の世界からの転生者であることや、前世の自分はBLが大好きだったこと。
 この世界が前世で最も夢中になったBLゲームの世界であることなど、大量の情報の波で脳内を掻き回される。

「ティーグレ、わたしを笑いにきたのか」

 混乱の最中、ピングが鼻声で眉を寄せてきた。
 固まっていたティーグレは、目の前に焦点を当てる。
 鼻を啜り唇をへの字に曲げた愛くるしい顔と視線が合い、意識が現実に引き戻された。

「……ピング、か……」
「なんだ」

 見覚えがある泣き顔だ。ピングはいつもぐずぐず泣いている。
 確かゲーム内のピングも、いつもプンスカ怒っているか悔しそうな涙目だった。

 主人公と結ばれるルートではよく笑うが、他のルートでは笑顔のスチルなんて一枚もない。
 前世では全く気にしたことが無かったけれど、幼い子どもの泣き顔を目の前にすると、とても残酷なことのように思えた。
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