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二章
47話 異変
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ティーグレの豹変ぶりに、ピングは目を白黒させてペンギンを抱きしめる。
「あの、ティ」
「違う! こんなまさか!」
「ど、どうしたティーグレ?」
「待て、そんなの……嘘だろ、シナリオが違う!!」
言葉を挟む隙がないどころか、ピングの言葉は全く耳に入っていないようだ。
幼いころからずっと一緒に過ごしているが、こんなに取り乱したティーグレは初めて見た。
「し、シナリオ……?」
前後関係のよく分からないティーグレ特有の単語。シナリオとは一体何のことを言っているのかと質問しているつもりで投げかける。
が、やはりティーグレは返事をする余裕のないまま、ペンギンをピングの腕から取り上げた。
「吐き出してくれ!!」
ペンギンを逆さまにして乱暴に揺らし始めたティーグレは、発狂していると言っても過言ではない。
自分の使い魔がブンブン振り回される様子を唖然と見ていたピングだったが、ハッと我に返る。
されるがままになっているペンギンは使い魔だから大丈夫だろうが、ティーグレは全然大丈夫そうじゃない。
「落ち着けティーグレ、一体どうしたんだ」
「……っ!」
「ティーグレ!」
どんなに声を掛けても止まらなかったから、ペンギンを掴む腕にピングはしがみついた。
止まれと念じながら強く腕を抱き締めれば、流石にティーグレの動きが止まった。
ペンギンが地面に落ちてポコンッと跳ねて転がり、おきあがりこぼしのように起き上がった。
ティーグレは脱力して地面にへたり込む。
「……ピング……」
涼しげな普段の表情は見る影もなく、血の気は引き眉を下げた今にも泣きそうな顔でピングを見上げてくる。
初対面の人に会っているかのようだ。本当に、こんなティーグレは初めて見た。
ピングは肩に手を置き、膝をついて目線を合わせた。
「お前らしくないぞ」
「……悪い……」
先ほどから、敬語を忘れて口調が崩れてしまっている。
咎める気持ちも全くなく、ピングは項垂れている銀髪を撫でる。
そういえば撫でてもらってばかりでティーグレの頭を撫でたことはほとんどなかった。身長差のせいもあるのだろうが。
ピングは小さく息を吸い、努めて落ち着いた声で語りかける。
「シナリオと違うってなんだ」
「……」
ティーグレは俯いたまま何も答えない。
いつもティーグレがしてくれるように、辛抱強く待ってあげられる余裕はピングにはなかった。ずっと疑問に思っていたことが解決する機会だと思い、ティーグレの頬を両手で挟む。
自分から目が離せないように、ピングは顔を近づけた。
「いい加減白状しろ! お前はいつも、まるで未来が分かってるかのように話す!」
「……それは」
「お前には何が見えているんだ? 何を抱えてるんだ?」
逃げたそうなティーグレが手首を掴んでくるが絶対に逃さないと心を決める。
どんな時でもティーグレはピングに寄り添って助けてくれる。反対はない。
ピングが困っていることがあってもティーグレはいつも余裕のある様子だ。
それでも、どこか違和感があるとは思っていた。変な奴だと流してきたが、今回はそうしてやるわけにはいかない。
額と額をコツンと合わせ、ピングは溢れてくる気持ちを言葉にする。
「私にも、分けてくれ。お前が困っているなら、助けたいんだ」
「ピング……っ」
ティーグレはピングを掻き抱いた。
息苦しいほどの力に驚きながらも、ピングはしっかりと小刻みに揺れる背中に腕を回す。宥めるように撫でてやると、絞り出すような声でティーグレが言葉を紡ぎ出した。
「実は……俺は」
ピングは一言も聞き逃さないように、呼吸の音さえさせないように集中した。
「この世界の人間じゃないんです」
「え?」
一文字も聞き逃さなかったはずだ。
だがピングの頭はティーグレの言葉は理解できても、意味は理解出来なかった。
「正確には、別の世界の記憶がある人間です」
戸惑っていることが伝わったのだろう。ティーグレの声が少し冷静さを取り戻し、言い直してくれた。
が、正直言ってよく分からない。
「う、うん」
「俺の世界では異世界への転生者って言うんですけど」
「……転生……ということはつまり、お前は一度」
「別の世界で死んで、その記憶を保持して生まれ変わりました」
ピングはティーグレの肩に顔を埋めた。
かつてないほど、脳を働かせて情報を整理しようとする。
ティーグレは別の世界に生まれたが、死んでしまって、この世界に改めて生まれた。
前の世界の記憶を持ったまま。
「……最初から、私の頭でも分かるように説明を頼む」
体の熱はとうに冷めていた。
理解することを放棄しなかった自分を誰か褒めてほしいと、ピングは心から思った。
「あの、ティ」
「違う! こんなまさか!」
「ど、どうしたティーグレ?」
「待て、そんなの……嘘だろ、シナリオが違う!!」
言葉を挟む隙がないどころか、ピングの言葉は全く耳に入っていないようだ。
幼いころからずっと一緒に過ごしているが、こんなに取り乱したティーグレは初めて見た。
「し、シナリオ……?」
前後関係のよく分からないティーグレ特有の単語。シナリオとは一体何のことを言っているのかと質問しているつもりで投げかける。
が、やはりティーグレは返事をする余裕のないまま、ペンギンをピングの腕から取り上げた。
「吐き出してくれ!!」
ペンギンを逆さまにして乱暴に揺らし始めたティーグレは、発狂していると言っても過言ではない。
自分の使い魔がブンブン振り回される様子を唖然と見ていたピングだったが、ハッと我に返る。
されるがままになっているペンギンは使い魔だから大丈夫だろうが、ティーグレは全然大丈夫そうじゃない。
「落ち着けティーグレ、一体どうしたんだ」
「……っ!」
「ティーグレ!」
どんなに声を掛けても止まらなかったから、ペンギンを掴む腕にピングはしがみついた。
止まれと念じながら強く腕を抱き締めれば、流石にティーグレの動きが止まった。
ペンギンが地面に落ちてポコンッと跳ねて転がり、おきあがりこぼしのように起き上がった。
ティーグレは脱力して地面にへたり込む。
「……ピング……」
涼しげな普段の表情は見る影もなく、血の気は引き眉を下げた今にも泣きそうな顔でピングを見上げてくる。
初対面の人に会っているかのようだ。本当に、こんなティーグレは初めて見た。
ピングは肩に手を置き、膝をついて目線を合わせた。
「お前らしくないぞ」
「……悪い……」
先ほどから、敬語を忘れて口調が崩れてしまっている。
咎める気持ちも全くなく、ピングは項垂れている銀髪を撫でる。
そういえば撫でてもらってばかりでティーグレの頭を撫でたことはほとんどなかった。身長差のせいもあるのだろうが。
ピングは小さく息を吸い、努めて落ち着いた声で語りかける。
「シナリオと違うってなんだ」
「……」
ティーグレは俯いたまま何も答えない。
いつもティーグレがしてくれるように、辛抱強く待ってあげられる余裕はピングにはなかった。ずっと疑問に思っていたことが解決する機会だと思い、ティーグレの頬を両手で挟む。
自分から目が離せないように、ピングは顔を近づけた。
「いい加減白状しろ! お前はいつも、まるで未来が分かってるかのように話す!」
「……それは」
「お前には何が見えているんだ? 何を抱えてるんだ?」
逃げたそうなティーグレが手首を掴んでくるが絶対に逃さないと心を決める。
どんな時でもティーグレはピングに寄り添って助けてくれる。反対はない。
ピングが困っていることがあってもティーグレはいつも余裕のある様子だ。
それでも、どこか違和感があるとは思っていた。変な奴だと流してきたが、今回はそうしてやるわけにはいかない。
額と額をコツンと合わせ、ピングは溢れてくる気持ちを言葉にする。
「私にも、分けてくれ。お前が困っているなら、助けたいんだ」
「ピング……っ」
ティーグレはピングを掻き抱いた。
息苦しいほどの力に驚きながらも、ピングはしっかりと小刻みに揺れる背中に腕を回す。宥めるように撫でてやると、絞り出すような声でティーグレが言葉を紡ぎ出した。
「実は……俺は」
ピングは一言も聞き逃さないように、呼吸の音さえさせないように集中した。
「この世界の人間じゃないんです」
「え?」
一文字も聞き逃さなかったはずだ。
だがピングの頭はティーグレの言葉は理解できても、意味は理解出来なかった。
「正確には、別の世界の記憶がある人間です」
戸惑っていることが伝わったのだろう。ティーグレの声が少し冷静さを取り戻し、言い直してくれた。
が、正直言ってよく分からない。
「う、うん」
「俺の世界では異世界への転生者って言うんですけど」
「……転生……ということはつまり、お前は一度」
「別の世界で死んで、その記憶を保持して生まれ変わりました」
ピングはティーグレの肩に顔を埋めた。
かつてないほど、脳を働かせて情報を整理しようとする。
ティーグレは別の世界に生まれたが、死んでしまって、この世界に改めて生まれた。
前の世界の記憶を持ったまま。
「……最初から、私の頭でも分かるように説明を頼む」
体の熱はとうに冷めていた。
理解することを放棄しなかった自分を誰か褒めてほしいと、ピングは心から思った。
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