【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

きよひ

文字の大きさ
上 下
48 / 83
二章

47話 異変

しおりを挟む
 ティーグレの豹変ぶりに、ピングは目を白黒させてペンギンを抱きしめる。

「あの、ティ」
「違う! こんなまさか!」
「ど、どうしたティーグレ?」
「待て、そんなの……嘘だろ、シナリオが違う!!」

 言葉を挟む隙がないどころか、ピングの言葉は全く耳に入っていないようだ。
 幼いころからずっと一緒に過ごしているが、こんなに取り乱したティーグレは初めて見た。

「し、シナリオ……?」

 前後関係のよく分からないティーグレ特有の単語。シナリオとは一体何のことを言っているのかと質問しているつもりで投げかける。
 が、やはりティーグレは返事をする余裕のないまま、ペンギンをピングの腕から取り上げた。

「吐き出してくれ!!」

 ペンギンを逆さまにして乱暴に揺らし始めたティーグレは、発狂していると言っても過言ではない。
 自分の使い魔がブンブン振り回される様子を唖然と見ていたピングだったが、ハッと我に返る。

 されるがままになっているペンギンは使い魔だから大丈夫だろうが、ティーグレは全然大丈夫そうじゃない。

「落ち着けティーグレ、一体どうしたんだ」
「……っ!」
「ティーグレ!」

 どんなに声を掛けても止まらなかったから、ペンギンを掴む腕にピングはしがみついた。
 止まれと念じながら強く腕を抱き締めれば、流石にティーグレの動きが止まった。

 ペンギンが地面に落ちてポコンッと跳ねて転がり、おきあがりこぼしのように起き上がった。
 ティーグレは脱力して地面にへたり込む。

「……ピング……」

 涼しげな普段の表情は見る影もなく、血の気は引き眉を下げた今にも泣きそうな顔でピングを見上げてくる。
 初対面の人に会っているかのようだ。本当に、こんなティーグレは初めて見た。

 ピングは肩に手を置き、膝をついて目線を合わせた。

「お前らしくないぞ」
「……悪い……」

 先ほどから、敬語を忘れて口調が崩れてしまっている。
 咎める気持ちも全くなく、ピングは項垂れている銀髪を撫でる。
 そういえば撫でてもらってばかりでティーグレの頭を撫でたことはほとんどなかった。身長差のせいもあるのだろうが。

 ピングは小さく息を吸い、努めて落ち着いた声で語りかける。

「シナリオと違うってなんだ」
「……」

 ティーグレは俯いたまま何も答えない。
 いつもティーグレがしてくれるように、辛抱強く待ってあげられる余裕はピングにはなかった。ずっと疑問に思っていたことが解決する機会だと思い、ティーグレの頬を両手で挟む。

 自分から目が離せないように、ピングは顔を近づけた。

「いい加減白状しろ! お前はいつも、まるで未来が分かってるかのように話す!」
「……それは」
「お前には何が見えているんだ? 何を抱えてるんだ?」

 逃げたそうなティーグレが手首を掴んでくるが絶対に逃さないと心を決める。
 どんな時でもティーグレはピングに寄り添って助けてくれる。反対はない。
 ピングが困っていることがあってもティーグレはいつも余裕のある様子だ。

 それでも、どこか違和感があるとは思っていた。変な奴だと流してきたが、今回はそうしてやるわけにはいかない。

 額と額をコツンと合わせ、ピングは溢れてくる気持ちを言葉にする。

「私にも、分けてくれ。お前が困っているなら、助けたいんだ」
「ピング……っ」

 ティーグレはピングを掻き抱いた。
 息苦しいほどの力に驚きながらも、ピングはしっかりと小刻みに揺れる背中に腕を回す。宥めるように撫でてやると、絞り出すような声でティーグレが言葉を紡ぎ出した。

「実は……俺は」

 ピングは一言も聞き逃さないように、呼吸の音さえさせないように集中した。

「この世界の人間じゃないんです」
「え?」

 一文字も聞き逃さなかったはずだ。
 だがピングの頭はティーグレの言葉は理解できても、意味は理解出来なかった。

「正確には、別の世界の記憶がある人間です」

 戸惑っていることが伝わったのだろう。ティーグレの声が少し冷静さを取り戻し、言い直してくれた。
 が、正直言ってよく分からない。

「う、うん」
「俺の世界では異世界への転生者って言うんですけど」
「……転生……ということはつまり、お前は一度」
「別の世界で死んで、その記憶を保持して生まれ変わりました」

 ピングはティーグレの肩に顔を埋めた。
 かつてないほど、脳を働かせて情報を整理しようとする。

 ティーグレは別の世界に生まれたが、死んでしまって、この世界に改めて生まれた。
 前の世界の記憶を持ったまま。

「……最初から、私の頭でも分かるように説明を頼む」

 体の熱はとうに冷めていた。
 理解することを放棄しなかった自分を誰か褒めてほしいと、ピングは心から思った。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...