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一章
9話 校庭
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晴れ渡る青い空とは対照的に、ピングの青い瞳は濁っていた。
寝不足だ。
主に精神の面でとても疲れていたというのに、ベッドの中で一人で色々考えてしまって眠れなかった。
ティーグレのせいだ。
ついでにリョウイチとアトヴァルのせいだ。
(あんなこと……! あんな……)
あれからずっと頭が熱っている。
胸がギリギリと締め付けられる。
ずっと、ほぼ一部始終、見てしまった。聞いてしまった。その罪悪感と。
好きな人が他の誰かと淫らな行為に及んでいるのを目の当たりにした、胸を抉られるような衝撃と。
その相手が、常に自分の上を行くアトヴァルだったという苦悩を。
校庭の地面に立つペンギンに向かって、炎を纏わせるための魔術を唱えながらも考えてしまう。
授業中に他のことを考えるなんて、いけないことだと分かっていてもグチャグチャな思考を止められない。
(あの二人、あの後は……いやそんなことよりも……!)
昨日の夜からどんどん落ち込んでいくのだが、どん底に辿り着く前にいつも銀髪と紫の瞳が頭を過ぎる。
ずっと、世話焼きな親友だと思っていたのに。
幼なじみで乳兄弟でもあるティーグレを、心の底から信頼していたというのに。
(私はリョウイチが好きなのに……!)
何度呪文を唱えても全く炎を纏う様子のないペンギンと見つめ合いながら、ピングの内心はメラメラと燃えていた。
片想いとはいえ好きな相手がいるピングに、まさかあんなことをするとは。
(気持ち、よかったけど………って、何を考えているんだしっかりしろ!)
ピングは首を左右に振って、温かい手や覚えてしまった快感を振り払う。
腹を立てているはずなのに、ティーグレとのことを思い出すと体が熱を持ってきてしまって。
自分が自分で分からなくなっていた。
「さすがアトヴァル様!」
「お見事!」
不意に、頭を悩ませている原因の一人の名前が聞こえてきた。
顔を上げると、アトヴァルのシャチが紅蓮の炎を纏って空を悠々と泳ぐ姿が眼前に広がる。
すごい迫力だ。
アトヴァルのしなやかな手や腕の動きに合わせて、シャチは優美に泳ぎ回っている。
皆がそれを見て感嘆していた。
この授業は二つのクラスが合同で授業を行っており、通常より生徒数が多い。
頭数が多いため、使い魔に炎を纏わせる魔術を早い段階で成功させたものは他にもいるが。
アトヴァルほど注目を浴びる者はいない。
格の違いを見せつけられている気がして、ピングは心の底から合同授業が嫌だった。
(……昨日のあられもない姿を他の者にも見せてやりたい)
思ってしまってから、我ながら性格が悪いとため息がでる。
とにかく、優秀な弟が羨ましく妬ましい。
自分はどうせこの後は居残りなのに、とピングは眉を下げた。
「頑張って燃えてくれ、ほら」
ペンギンに手をかざし、力なくボソボソと呪文を唱える。
すると、赤い光がピングの手のひらとペンギンを結んだ。
寝不足だ。
主に精神の面でとても疲れていたというのに、ベッドの中で一人で色々考えてしまって眠れなかった。
ティーグレのせいだ。
ついでにリョウイチとアトヴァルのせいだ。
(あんなこと……! あんな……)
あれからずっと頭が熱っている。
胸がギリギリと締め付けられる。
ずっと、ほぼ一部始終、見てしまった。聞いてしまった。その罪悪感と。
好きな人が他の誰かと淫らな行為に及んでいるのを目の当たりにした、胸を抉られるような衝撃と。
その相手が、常に自分の上を行くアトヴァルだったという苦悩を。
校庭の地面に立つペンギンに向かって、炎を纏わせるための魔術を唱えながらも考えてしまう。
授業中に他のことを考えるなんて、いけないことだと分かっていてもグチャグチャな思考を止められない。
(あの二人、あの後は……いやそんなことよりも……!)
昨日の夜からどんどん落ち込んでいくのだが、どん底に辿り着く前にいつも銀髪と紫の瞳が頭を過ぎる。
ずっと、世話焼きな親友だと思っていたのに。
幼なじみで乳兄弟でもあるティーグレを、心の底から信頼していたというのに。
(私はリョウイチが好きなのに……!)
何度呪文を唱えても全く炎を纏う様子のないペンギンと見つめ合いながら、ピングの内心はメラメラと燃えていた。
片想いとはいえ好きな相手がいるピングに、まさかあんなことをするとは。
(気持ち、よかったけど………って、何を考えているんだしっかりしろ!)
ピングは首を左右に振って、温かい手や覚えてしまった快感を振り払う。
腹を立てているはずなのに、ティーグレとのことを思い出すと体が熱を持ってきてしまって。
自分が自分で分からなくなっていた。
「さすがアトヴァル様!」
「お見事!」
不意に、頭を悩ませている原因の一人の名前が聞こえてきた。
顔を上げると、アトヴァルのシャチが紅蓮の炎を纏って空を悠々と泳ぐ姿が眼前に広がる。
すごい迫力だ。
アトヴァルのしなやかな手や腕の動きに合わせて、シャチは優美に泳ぎ回っている。
皆がそれを見て感嘆していた。
この授業は二つのクラスが合同で授業を行っており、通常より生徒数が多い。
頭数が多いため、使い魔に炎を纏わせる魔術を早い段階で成功させたものは他にもいるが。
アトヴァルほど注目を浴びる者はいない。
格の違いを見せつけられている気がして、ピングは心の底から合同授業が嫌だった。
(……昨日のあられもない姿を他の者にも見せてやりたい)
思ってしまってから、我ながら性格が悪いとため息がでる。
とにかく、優秀な弟が羨ましく妬ましい。
自分はどうせこの後は居残りなのに、とピングは眉を下げた。
「頑張って燃えてくれ、ほら」
ペンギンに手をかざし、力なくボソボソと呪文を唱える。
すると、赤い光がピングの手のひらとペンギンを結んだ。
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