【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

きよひ

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一章

6話 魔術薬学準備室 ⭐︎サブカプイチャイチャ要素有り

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「なんだ?」
 
 何かが床にぶつかるような音を聞いて、ピングは通り過ぎた教室を振り返った。

 ようやく課題が終わり、職員室に提出に行った後のことだ。
 解放感で空が飛べそうな気持ちで歩いていたピングだったが、音がした魔術薬学の教室へ引き返す。
 分厚い石壁の向こうからは人の気配がする。でも、何を話しているかまでは分からなかった。

(まさか薬品を落としてしまったのか!?)

 落とした薬品によっては密室は危険だ。
 ピングはすぐに両開き扉の金の取っ手を握りしめる。
 が、その瞬間に体がふわりと浮いた。

「え……!?」

 いつの間にかピングはホワイトタイガーに咥えられていて、開いていた隣の部屋へと放り込まれてしまう。

 薬草や薬品の独特の香りに満ちた、魔術薬学の準備室だ。
 魔術薬調合のための道具が、棚に所狭しと並んでいる。

「な、何事……っ」

 尻餅をついてしまいながら顔を上げると、ティーグレが準備室から魔術薬学の教室に続く扉にピッタリと張り付いていた。
 なんとも異様な光景だ。

 紫色の瞳がチラリとピングを映す。

「ピング殿下でしたか」

 何が何だか分からないピングだったが、口を閉じ、小声でも聞こえるようにティーグレに静かに近づいていく。
 なんだか真剣な表情をしていて、邪魔をしてはいけないという圧を感じたからだ。

「え……っ」

 ピングはティーグレの隣に立った瞬間、息を飲む。
 ティーグレは扉に透視の魔術を施し、魔術薬学の教室を覗いていたようだ。

 その先ではなんと、リョウイチとアトヴァルが抱き締めあっている。

 薬品棚を背にしてリョウイチの腕の中にいるアトヴァルの顔は、見たことがないほど朱色に染まっていた。
 反対に、ピングは顔から血の気が引いて真っ青になる。
 何かを話しているのが聞こえるが、脳が理解することを拒否した。

 ピングは震える指先で口元を覆う。
 淡い恋心が砕け散る音がした。

「リョ、リョウイチ……なんで……」

 どうしてよりによって相手がアトヴァルなのだと、頭がぐるぐるする。混乱の中で、縋るようにティーグレのローブの袖を引く。

「なぁ、ティーグ」
「しーっ」

 ティーグレはピングの肩をグイッと抱くと、唇に人差し指を当ててきた。安心感のある体温に、ピングの強張った体が一瞬ほぐれる。

「事故ハグのスチル回収中なんで静かにしてください」
「なんだって?」
「事故ハグからの媚薬ぶっかぶりからの抜きあいです」
「なんだって??」

 相変わらず意味の分からないことを言うティーグレは、再び二人が抱き合う教室内へと視線をやった。
 ピングはあまりの不可解さのせいで、心が傷ついたことを忘れる。

「お前は本当に何を言ってるんだ? ジコハグのスチルがなんだって?」
「ずっと雑談してたからイベ発生しないかと思った……良かった」
「質問に答え……っふぐ」

 ピングの声が全く耳に入っていなさそうなティーグレに詰め寄ろうとすると、大きな手が口を塞いできた。
 ティーグレはあくまでも真面目な表情を崩さずにリョウイチとアトヴァルのことを覗き見ている。

「……ぁっ」

 少し冷静になったピングの耳に、あえかな声が聞こえてきた。見たくないと目を逸らしていたのに、思わずティーグレと同じ場所を見てしまう。

「リョ、イチ……っ、離せ!」
「でも、辛そうだしこのままにしとけないだろ?」
「やめ……っ」

 いつの間にか、長机に座らされたアトヴァルのローブの中にリョウイチが手を差し入れていた。迫られているアトヴァルは拒否の声を上げているはずなのに、リョウイチの肩を押す手には全く力が入っていないように見える。

「……っ」

 ピングはティーグレに口を抑えられたまま、耳まで真っ赤になった。

 何が起こっているのか、流石に分かる。
 見てはいけないと思うのに、聞いてはいけないと思うのに。

 淫らな水音と荒い息遣い、甘い声。
 熱を持った二人の顔と、乱れた下衣。

 全てが刺激的すぎて、そのままティーグレと息を潜めて覗いてしまった。

 アトヴァルが魔術で全てを元通りにして、リョウイチから逃げるように教室を出て行くまでずっと。
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