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一章
絶対におかしい
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杉野がドアの近くで険しい顔をして立っていた。
そのまま手に持った布袋を揺らしながら大股で近づいてくる杉野は、普通ならば震え上がるほどの迫力がある。
しかし、藤ヶ谷はそれをものともせずに懐のスマートフォンを取り出した。
「ほら、これ」
近くまで迫ってきた杉野と、2人の様子を見守る八重樫に画面を見せる。
そこに映るメッセージを思い出すだけで、藤ヶ谷は嬉しくて体温が上がる気分だ。
『抑制剤は持っているかい?今日は仕事が立て込んでいるから今すぐは難しいんだ。仕事が終わったら、このホテルで会おう』
記載されたURLを開くと、会社からそう遠くはない場所にある高級ホテルの情報が出てくる。
今日会ってくれるということは、この後ヒートが収まるまで一緒にいてくれるかもしれない。
もしずっとは無理でも、熱を持った身体に寄り添ってくれる時間があると思うと心が昂る。
(待ってる間に、巣作りさせて貰えるかもしれない)
「おかしいだろ。せめて迎えに来いよ」
のぼせ上がってきた頭に、怒気を含んだ言葉が降りかかる。
いつもの静かで平坦なツッコミとは違う圧のある声色に、思わず体が強張った。
改めて顔を上げる。
爆発しそうな憤りを抑え込み拳を震わせている杉野が、画面を睨みつけている。
理由の分からない怒りに戸惑いつつも、藤ヶ谷は口を開いた。
「で、でも仕事が忙しいって」
「アルファならパートナーのヒートに合わせて休みがとれます。誰も文句は言わないです」
「でも」
「行くのやめてください。絶対におかしい」
全く話を聞く気がない杉野との会話に、胸に黒いものがモヤリと広がる。
ただそれは杉野への苛立ちではなく、元々燻っていたナニかが姿を表した感覚だった。
ソレかどういう感情なのか分からない藤ヶ谷は、喚き散らしたいのを抑えて唇を震わせる。
「なんでお前にそんなこと言われないといけないんだよ」
「部長も可笑しいと思いますよね?」
自分だけでは止められないと思ったのだろう。
杉野は藤ヶ谷が全幅の信頼を寄せる八重樫に話を振った。
そして、黙って聞いていた八重樫は重々しく首を縦に振る。
「そうだな。行くのは止めた方が良い」
「部長、まで?」
火照り気味の体が冷える心地だった。
通常なら、部下のプライベートのことでここまではっきりと意見するような人柄ではない。
胸の奥で警鐘が鳴る。
このまま2人の話を聞いていたら、ようやく掴めそうな幸せが目の前で形を無くしてしまいそうだと。
蓮池ほど理想的な人には、もう出会えないかもしれないというのに。
「君が思っているより、アルファは独占欲が強い。私が君の番なら、ヒートの今こうして他のアルファと話していることすら耐えがたい」
「俺だって、すぐに駆けつけます。抑制剤だって万能じゃない」
2人のアルファの言葉に嘘は感じない。
真剣に、無防備な藤ヶ谷を案じて意見してくれている。
俯いた藤ヶ谷の呼吸が浅くなり、肩が震える。
「じゃあ、蓮池さんが俺のこと大事にしてないっていいたいのか」
「ハッキリ言って、そうです」
口にするだけで胸が張り裂けそうで、本当は否定するか曖昧にしてほしかったというのに。杉野は強く肯定した。
ただ好きな人と過ごせると思っていただけなのに、思いもよらない展開になってきて。
藤ヶ谷は忠告を上手く受け入れることが出来ず叫んだ。
「迎えに来ないとかそんなの、その時の都合で分からないだろ!」
「待て!」
立ち上がって、部屋のドアへと走りだす。
手を離したカップのコーヒーが床に散る。
しかしそんなことには構わず、勢いよく廊下へと飛び出した。
そのまま手に持った布袋を揺らしながら大股で近づいてくる杉野は、普通ならば震え上がるほどの迫力がある。
しかし、藤ヶ谷はそれをものともせずに懐のスマートフォンを取り出した。
「ほら、これ」
近くまで迫ってきた杉野と、2人の様子を見守る八重樫に画面を見せる。
そこに映るメッセージを思い出すだけで、藤ヶ谷は嬉しくて体温が上がる気分だ。
『抑制剤は持っているかい?今日は仕事が立て込んでいるから今すぐは難しいんだ。仕事が終わったら、このホテルで会おう』
記載されたURLを開くと、会社からそう遠くはない場所にある高級ホテルの情報が出てくる。
今日会ってくれるということは、この後ヒートが収まるまで一緒にいてくれるかもしれない。
もしずっとは無理でも、熱を持った身体に寄り添ってくれる時間があると思うと心が昂る。
(待ってる間に、巣作りさせて貰えるかもしれない)
「おかしいだろ。せめて迎えに来いよ」
のぼせ上がってきた頭に、怒気を含んだ言葉が降りかかる。
いつもの静かで平坦なツッコミとは違う圧のある声色に、思わず体が強張った。
改めて顔を上げる。
爆発しそうな憤りを抑え込み拳を震わせている杉野が、画面を睨みつけている。
理由の分からない怒りに戸惑いつつも、藤ヶ谷は口を開いた。
「で、でも仕事が忙しいって」
「アルファならパートナーのヒートに合わせて休みがとれます。誰も文句は言わないです」
「でも」
「行くのやめてください。絶対におかしい」
全く話を聞く気がない杉野との会話に、胸に黒いものがモヤリと広がる。
ただそれは杉野への苛立ちではなく、元々燻っていたナニかが姿を表した感覚だった。
ソレかどういう感情なのか分からない藤ヶ谷は、喚き散らしたいのを抑えて唇を震わせる。
「なんでお前にそんなこと言われないといけないんだよ」
「部長も可笑しいと思いますよね?」
自分だけでは止められないと思ったのだろう。
杉野は藤ヶ谷が全幅の信頼を寄せる八重樫に話を振った。
そして、黙って聞いていた八重樫は重々しく首を縦に振る。
「そうだな。行くのは止めた方が良い」
「部長、まで?」
火照り気味の体が冷える心地だった。
通常なら、部下のプライベートのことでここまではっきりと意見するような人柄ではない。
胸の奥で警鐘が鳴る。
このまま2人の話を聞いていたら、ようやく掴めそうな幸せが目の前で形を無くしてしまいそうだと。
蓮池ほど理想的な人には、もう出会えないかもしれないというのに。
「君が思っているより、アルファは独占欲が強い。私が君の番なら、ヒートの今こうして他のアルファと話していることすら耐えがたい」
「俺だって、すぐに駆けつけます。抑制剤だって万能じゃない」
2人のアルファの言葉に嘘は感じない。
真剣に、無防備な藤ヶ谷を案じて意見してくれている。
俯いた藤ヶ谷の呼吸が浅くなり、肩が震える。
「じゃあ、蓮池さんが俺のこと大事にしてないっていいたいのか」
「ハッキリ言って、そうです」
口にするだけで胸が張り裂けそうで、本当は否定するか曖昧にしてほしかったというのに。杉野は強く肯定した。
ただ好きな人と過ごせると思っていただけなのに、思いもよらない展開になってきて。
藤ヶ谷は忠告を上手く受け入れることが出来ず叫んだ。
「迎えに来ないとかそんなの、その時の都合で分からないだろ!」
「待て!」
立ち上がって、部屋のドアへと走りだす。
手を離したカップのコーヒーが床に散る。
しかしそんなことには構わず、勢いよく廊下へと飛び出した。
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