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優しい

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 端っこにいたはずなのに、じゃれているうちにはみ出してしまったらしい。
 二人は慌てて廊下の隅に寄った。

「ごめんな……あ!」
「三年って思ったよりガキだな」

 振り返って謝罪した先に、ポケットに両手を突っ込んで立つ甘井呂がいた。呆れ返った表情で諏訪を見下ろしていたが、佐藤に気がつくと腰を屈めて顔を覗き込む。
 ピシッと硬直した佐藤が諏訪の肘を掴んだ。

「顔色、良さそうだな」
「う、うん! この前はありがとう!」

 佐藤の声はひっくり返っていたが、甘井呂は慣れているのか気にした風でもない。次は諏訪の方へと視線を寄越し、整った眉を顰める。

「……お前は死にかけの顔してるぞ」
「大袈裟!」

 睨まれて何を言われるのかと内心冷や汗をかいたが、心配されていることが伝わって笑い飛ばした。
 病院に行けと言われたのが自分の中でずっと引っかかっていたせいで叱られる気がして。
 諏訪は居心地が悪くてすぐに話題を変えようとする。

「つーかさ、全然部活に来てくんないじゃん! その体格と観察眼を生かしてサッカー」
「しねぇ。この会話、会うたびにするつもりか」

 あわよくば部活に入って欲しいという気持ちはありつつも、想定通り嫌そうな顔になった甘井呂に諏訪は明るく歯を見せる。

「お前がサッカーするって言うまでするつもりだけど」
「二度と顔を合わせたくねぇ」

 舌打ちをしながら吐き捨てられたが、長めの前髪を掻き上げる仕草は絵になった。
 前髪を上げる髪型も似合いそうだと綺麗な容姿に意識を奪われていると、長いまつ毛に囲まれた目とバッチリ視線があった。

「でも、病院はいけ」

 ズンっと澄んだ眼差しに射抜かれる。
 頷いてしまいそうになる自分に、諏訪は必死で抗った。

「夏の大会までは部活休めない。……俺たち、お互いにこないだと同じこと言ってんな」
「もう勝手にしろよ。知らね」

 へらりと苦笑いする諏訪に甘井呂はため息をついて、大股でその場を去ってしまった。
 甘井呂がずんずん進むのを察知した周りの生徒が、慌てて道を開けている。

「見かけによらず心配性だよな」
「うん、それに……Domなのにすごく優しい」

 後ろ姿を眺めながら呟いた諏訪の言葉に、佐藤が深く頷いた。

 見た目はDomそのものといった高圧的な雰囲気なのに、一度会っただけの諏訪や佐藤を気にかけてくれる。
 世話焼きな部分が強いタイプのDomなのだろうか。

「あんな子がパートナーなら、幸せだろうな」
「分かる」

 うっとりと目を細める佐藤に同意してしまってから、諏訪はハッとする。
 一体、自分は何が「分かる」のだろう。
 パートナーがどうとか、Normalが考えることではない。

「いや、分かるっていうかっ! 優しい相手のがなんでもやりやすいよな! やりやすいって変な意味じゃなくて……っえっと、作戦とかも相談しやすかったりするもんな!」

 何も言われてないのに焦って早口で捲し立てると、内容の脈絡のなさに佐藤は不思議そうな顔をしていた。
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