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第二章 殺人
第四話 ヒロイン決定
しおりを挟む十分後、片桐あずさとともに、舞台上に並んで立たされた。
マスコミに向けてミミ役が正式発表されるのだ。
正装した滝沢が下手からゆっくりと現れ、マイクを手に詰めかけた観客に謝意を述べた後、重々しい声音で審査結果を告げた。
「ファーストキャストは、片桐あずさに決定しました」
客席からどよめきが湧き起こり、すぐに盛大な拍手となって場内に鳴り響いた。
あずさは信じられないという顔で目を見開き、満面を紅潮させて口元を手でおおった。身体を折り曲げて泣き崩れる彼女に、滝沢は舞台前面へ出てスピーチをするように促した。
あずさはしゃくり上げながら歩み出ると、一ヶ月間稽古をともにした俳優仲間や滝沢への謝意を、涙と笑顔が入り混じった顔で述べ始めた。
客席前方に陣取るカメラマンたちが一斉にフラッシュを浴びせかける。
私はその様子を放心状態で眺めていた。頭が熱を帯びたようにボーッとして、思考が働かない。
あずさの声が遠くからこだまのように聞こえてくる。意味や内容はまったく入ってこなかった。
やがて数人のマスコミが、私に向かってフラッシュを焚き始めた。
あまりの眩しさに、はっとして我に返った。カメラマンたちの顔は、意地悪くほほ笑んでいる。
――こんな姿を撮るのはやめて。
私は右手で顔を隠した。敗者の顔を写してどうしようというの。
だがマスコミの数はみるみる増えていく。
「徳大寺さん、一言お願いします」
「この結果に満足していますか」
「感想を一言」
彼らは好奇心むきだしの眼差しで、私から過激な発言を引き出そうと、矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。下手なことを言えば、また炎上騒ぎとなり、猛烈なバッシングに晒されるのは目に見えている。
この人たちは、私が負けたことが嬉しくて仕方がないのだ。ザマアミロと心の中であざ笑っているのだ。
傷口に塩を塗りたくるような彼らの態度に我慢がならず、私は逃げるように舞台袖に駆け込んだ。
晒し者にされる屈辱に耐えることができなかった。
なぜ私の人生は、いつもいつもこんなことばかり続くのだろう。
楽屋に戻った私は、床に突っ伏して大声を出して泣いた。
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