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第六章 第二次長州征伐
第十七話 伊東甲子太郎の提言
しおりを挟む五日後。
近藤は、別宅である休憩所に伊東甲子太郎と藤堂平助を迎え入れた。
深雪太夫を部屋から退け、三人だけで密談をもった。
「考えていただけましたか?」
伊東が慇懃に問いかける。
近藤は先週、伊東から長州との和解案をもちかけられていた。
幕府が消滅し、仕えるべき将軍がいなくなることで、薩長とこれ以上事を構えるのは得策ではないというのが伊東の考えだった。
特に長州とは池田屋事件以降、仇敵の関係にあり、これを解消しなければ新撰組に未来はないと力説した。
「この機を捉えて長州と和解すべきです。私が間に立ちますから」
「しかし……」
近藤としてはあまり乗り気になれなかった。
「和解は難しいと思う」
「なぜです?」
「今の新撰組は佐幕派が大勢を占めている。大政奉還後に徳川家がどのような形で政治権力にかかわるかが明確になっていない段階で、薩長に尻尾を振るような真似はできない。たとえ俺が和解の方針を示しても、隊士の中には長州憎しの者が大勢いる。大義のない和解案を受け入れるはずがない」
「土方さんですね」
と、藤堂が言った。
「土方さんの勢力のことを言っているんですね」
「それだけじゃないよ」
「近藤さん」
と伊東が膝を進める。
「今日はそのこともお話ししなければと思っていたのです」
「何のことだ」
「土方さんですよ。あの人はあまりにも佐幕に寄り過ぎた。長州憎しの感情が嵩じすぎて、本来の目的を見失っている」
「それなら俺も同じだ」
「いいえ、近藤さんは違います」
藤堂が言った。
「山南さんが切腹した時だって、涙を流してその死を悼んだそうじゃないですか。永倉さんや原田さんから聞きましたよ」
「……」
「私は土方さんの気持ちも分からないではない。あの時点ではぎりぎりの選択だったのでしょう。汚れ役にならなきゃ隊が纏まらないという危機感もあったはずです」
近藤は眉一つ動かさず聞いている。
「だから同情はするが、あの人はもはや引き返すことのできない地点まで行ってしまった。古い価値観にしがみつくことでしか己を保てない精神状態に陥ってしまった」
問いかけるように近藤を見る。
「でも近藤さんは違います。まだ引き返せる。自由な立場で、広い視野で物事を見渡せる。もはや幕府はないのです。将軍もいないのです。新しい時代の、新しい政冶へ向かって共に進んでいこうではありませんか」
近藤は静かに目を閉じ、藤堂の言葉を反芻するように考え込んだ。それから息を一つ吐き出すと、伊東と藤堂を交互に見る。
「……で」
一拍置いて言葉を継いだ。
「俺に、何をしろと言うんだい」
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