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第六章 第二次長州征伐
第十六話 土方の怒り
しおりを挟む土方は、大政奉還の報せを江戸で受け取った。
隊士募集はうまく進んでいなかった。最低でも五十名を見込んでいたのに、蓋を開けてみると集まったのは僅か二十数名。
それも大政奉還の噂が流れるや数名が脱落し、二十名にまでその数を減らした。
――おのれ土佐め。
建白書を提出した土佐藩への怒りに打ち震えた。
まさかこれほど早く幕府が消滅する日が来るとは思ってもみなかった。
幕臣となった自分たちの運命はどうなるのであろうか。
急遽、予定を切り上げて帰路につく。
京の屯所へ戻った土方は、まっすぐ近藤の書斎に乗り込んだ。
「どういうことだ、近藤さん。なぜ慶喜公は政権を返上したんだ」
土方は頭に血がのぼっていた。
「歳さんが江戸へくだってる間に色々あったんだよ」
「色々じゃ分からん」
「まあ、落ち着け」
近藤は自分の知りうる限りの事実を順を追って説明した。
すなわち……坂本龍馬の船中八策から始まったこと。それに共感した後藤象二郎が山内容堂に進言し、容堂によって建白書が提出されたこと――。天皇との争いを避けたい徳川慶喜がそれを承諾したこと――。
「あんたは幕閣にいながら黙って見ていたのか」
「黙ってたわけじゃない」
「なぜ身体を張って阻止しなかった」
「坂本さんや後藤さんの言う事にも一理あると思ったんだ」
「一理だと?」
「大政奉還しなければ内戦が勃発していたかもしれなかった」
「望むところだ」
「ただの内戦じゃない。薩長側には錦の御旗が翻るんだぞ」
「そんなものはただのお飾りだ。戦に勝利して奪い返せばよいだけのこと」
「慶喜公が望まれたことなんだ。逆賊、朝敵と呼ばれることには耐えられぬと」
「くそっ」
土方は床を踏み鳴らした。
「どいつもこいつも腰抜けばかりだ」
「大政奉還したって現体制が滅びるわけじゃない。徳川家を中心とした新しい国の形が始まるんだ」
「何だい、そりゃ」
「はっきりとは分からんが、欧米諸国では皆そうしているそうだ」
「坂本龍馬の受け売りか」
「いや」
「近藤さん。あんた、丸め込まれたな」
「そういう言い方はよせ」
ムッとしたように顔を強張らせる。
「俺は大政奉還なんて認めねえぞ。断じて認めねえ」
土方は大声で吠えると、肩をいからせ、外へ飛び出していった。
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